人生100年時代をポジティブに楽しむためのアイテムとして
花王の大人用紙パンツ「リリーフ」は、はき心地の良さと幅広いラインアップで、おもに要介護の人や入院している高齢者から支持されてきた。しかし人生100年時代を迎え、元気なシニアが増えるなか、花王ではそのターゲットを、要介護者以外のアクティブシニアへも広げている。
「現在、60〜70代の90%以上、80代前半でも70%は、要支援・要介護認定を受けておらず、ほとんどの方が普通の生活を送っています。ただその世代の方のなかにはトイレに不安を抱えている人も少なくありません。でもおむつをはくことには抵抗があるため、外出先で排泄(はいせつ)に失敗したくない気持ちから、家に閉じこもりがちになる傾向がありました」と花王 サニタリー事業部の田中秀和氏は語る。
そこで注目したのが、体にフィットするストレッチ素材を使い、ズボンの上から目立たない、超うす型パンツ「リリーフ まるで下着」だ。この商品のマーケティングにおける最大の課題は、要介護者が使うものといったこれまでの大人用紙おむつのイメージを変えることだった。
「これまでの大人用紙おむつに持たれがちなイメージは、日常生活のなかで軽い尿漏れに困っている程度の人にとっては、距離を感じるものでした。そんな従来のイメージを変え、アクティブなシニア層が、人生をよりポジティブに楽しむための商品としてアピールする必要がありました。そのため、シニア層が親しみを感じる、夫婦デュオのチェリッシュをブランドキャラクターに起用し、明るく、爽やかなイメージの広告展開を行ってきました」
そんな同社にとって、朝日新聞社がアクティブシニアを応援するために2015年に立ち上げた「ReライフPROJECT」は打ってつけだった。毎週日曜朝刊の編集記事「Reライフ面」でアクティブシニアが興味を持ち、彼らの生活に役立つ記事を掲載。アクティブシニアのためのコミュニティー「Reライフ読者会議」を創設し、毎年春に、約3,000 人が参加するイベント「ReライフFESTIVAL」を開催するというものだ。
花王では2016年から「ReライフFESTIVAL」に協賛し、ブースでの商品紹介とサンプリングを実施。毎回、ブースに行列ができ、用意したサンプルが足りなくなる人気ぶりだ。
「大人用紙おむつのイメージを変えるには、実際に商品を見て、触っていただくことが一番。その絶好の機会だと思い、イベントに協賛しました。私どももこれまで様々サンプリングを行ってきましたが、商品の性格上、あまり積極的に受け取ってくれない時もあります。でもReライフFESTIVALではみなさん大変興味をもって受け取ってくれます。旅行やおしゃれ、健康など、シニア層がこれからの人生を楽しく、豊かにするためのアイテムやサービスのブースがそろっていて、大人用紙パンツもその文脈の中でとらえられたからだと思います」
会場では「これなら薄くて使ってみたい」「普通のおむつは夫にすすめづらいけど、これならすすめられる」「生地が薄くて、はき心地がよさそう」などの声があがった。協賛を始めた当初は「初めて『まるで下着』を知った」という人が多かったが、今年はすでに使用していて「はき心地抜群」と褒める人も現れるなど、着実に認知は広がってきている。
自分たちに近い人たちの体験に基づく意見が響く
毎年、「ReライフFESTIVAL」の採録記事の下には純広告を出稿。紙面でサンプルプレゼントを実施してきたが、応募数は年々増えている。今年は、「Reライフ読者会議」のメンバーに実際に商品を触ったり、使用したりしてもらっての感想を聞き、コメントとして紹介する広告特集も掲載。特に反響が大きかったという。
「シニア層には、自分たちに近い等身大の人に実体験を語ってもらうことが、一番効果的なことを痛感しました。ReライフFESTIVALには、普段から朝日新聞のReライフ面を熟読し、人生100年時代をポジティブに生きることに意欲的で、そのための情報収集に熱心な方が集まっています。毎回、このイベントを楽しみにしている方が多く、みなさんとてもパワフルです。そうした方に向けて、旅行や美容、健康に食など、様々な生活領域の企業が出展する中、リリーフのポジティブなイメージをアピールできることは大きな利点です。このようなアクティブシニア向けのイベントは少ないので、これからも大いに期待しています」
現在、超うす型パンツ市場は毎年、2ケタ台で成長している。しかし潜在ニーズに比べて市場はまだ未成熟で、伸びしろは大きい。花王では今後もラインアップを増やし、未使用者の開拓、拡大を目指していく。
9月末には通常のショーツ同様、男女別に設計し、へそ下丈でおむつが見える心配のない新商品「リリーフまるで下着 1回分 ローライズ」を発売。ピンク・レディーの未唯mieさんを起用したテレビCMも展開している。未唯mieさんが初めてローライズをはいた感想や60歳になっての心境を話す動画もネットで公開したところ好評という。
「これからデジタルリテラシーの高いシニアが、どんどん増えていきます。また尿ケア用品は商品の特性上、リアル店舗よりネットのほうが買いやすい。そういった意味で今後、デジタルマーケティングの重要性はますます高まっていくと思います。一方で、デジタル媒体だけではリーチできない層もまだ多く、紙媒体の活用は不可欠です。とくに商品の特性をしっかりと伝え、シニア層の気持ちを動かす力は、新聞が一番大きいと感じています」