
超高齢化社会を迎える中で、注目を集める「シニア市場」。しかし“シニア”といっても、そのセグメントやニーズは多岐にわたり、具体的な市場可能性をつかみにくいのが実情だ。
そんなシニア市場にどうアプローチすればよいのか。朝日新聞社メディア事業本部は2025年4月、パナソニックの次亜塩素酸 空間除菌脱臭機「ジアイーノ」が在宅介護世帯に向けた市場開拓のチャレンジを始めた事例を紹介するウェビナーを開催した。
「シニア市場の開拓に向けて パナソニック『ジアイーノ』の新たな挑戦」と題したウェビナーには、ゲストスピーカーとして、パナソニック株式会社空質空調社でジアイーノのマーケティングを担当する田頭裕子氏が登壇。新規市場でユーザーインサイトをいかに深掘りし、社内での合意形成を進めたのか。そして伴走パートナーである朝日新聞社とどう協業したのか。リアルなエピソードを交えながら具体策を語った。

6月19日開催 これからのシニアマーケティングを考えるウェビナー
シニア市場が動く!デジタルを味方に、令和の高齢者をつかむ最新マーケ戦略を学ぶ無料ウェビナー。原田曜平氏(芝浦工業大教授)が登壇します。
新しい市場を切り拓く着眼点
ウェビナーには、企業課題解決の伴走型サービス「ASAHI ACCOMPANY」を立ち上げた朝日新聞社メディア事業本部の福原裕人氏、認知症・介護の専門サイト「なかまぁる」を立ち上げるなど、医療・福祉・介護といったヘルスケア分野でのビジネスを担当してきた神出亮氏も登壇した。
ジアイーノは、水と塩から次亜塩素酸水溶液を作り、空気中の菌・ウイルスやニオイを除去するもので、一般的な空気清浄機とは異なる商品だ。
2020年からのコロナ禍をきっかけに一気に購入者が増加した。だが、アフターコロナの時期を迎え、パナソニックでは「除菌機能」の訴求から「脱臭機能」での訴求にギアチェンジすることになった。その方策として、脱臭機能を押し出す第一の柱としていたペット市場だけでなく、2023年から第二の柱を検討し、シニア市場に注目したという。

「シニア世帯は日本においては3割を占め、アクティブシニアや、介護をしたりされたりするシニアなど、さまざまな生活スタイルがあります。より細かくターゲットを絞って検討していかなければ、的がずれると考えました」(田頭氏)
一方、相談を受けた朝日新聞社では、アクティブシニア向けの「Reライフネット」と、認知症・介護世帯向けの「なかまぁる」という2つのシニア向けのウェブメディアを運営している。これらを生かして、シニア層のターゲットを絞るための定量調査を実施した。
その結果、定量調査の枠を超えた多くの知見を得るとともに、在宅介護世帯ではニオイに対する問題を抱えている人が多いこと、そのための対策が求められていることが判明した。
ユーザー本位のリサーチ設計と仮説検証とは
多くの知見が得られた定量調査とは、一体どのようなものだったのか。
「なかまぁる」を活用した調査では、在宅介護家族にとって空気全体の「負」を明らかにすることを目的に設計した。
具体的には、在宅介護世帯の生活の実態やインサイトを深掘りするために、72の質問事項を作成した。その結果、254人から非常に密度の濃い回答が得られた。神出氏によると、質問の設計には、朝日新聞で長年介護現場を取材してきたエキスパートも参画。豊富な経験があったからこその質と量となった。
この調査によると、介護世帯でニオイ対策がほぼ解決していると答えたのは、わずか5.8%にとどまった。「これだけ未解決なのは根が深く、企業として取り組む価値があると感じたし、具体的な数字が社内での説得に生かせた」と田頭氏は語る。

定量調査での自由回答欄では、まるでデプスインタビューを行ったかのように、詳細に綴られた回答も得られた。
介護する方の精神的なストレスなどを訴える、リアルな声の数々。数値では計れない部分を自由記述で知ることができ、大変意義のあるものとなったと田頭氏は振り返る。福原氏は「こうした自由記述にもきちんと回答してくれるパネルがあるのが、朝日新聞社の強み」と指摘した。
パナソニックでは調査結果をふまえ、在宅介護世帯へジアイーノの訴求を強化することにした。だが、田頭氏は「自分自身に介護経験がないため具体的な想像ができないこと、そして、介護する側だけでなく『介護される側』の気持ちにも寄り添ったブランディングが必要であることが課題だと感じていた」という。
そこで、寝室にも置きやすいコンパクトタイプの新商品を、在宅介護世帯に普及させることを目的に設定。そのためには、在宅介護世帯の暮らしや気持ちを理解したパートナー企業との協業が重要だと考え、朝日新聞社に具体的な販促策の支援を依頼することにした。
得られたインサイトをコンテンツ施策に落とし込む
具体的な施策として、在宅介護市場でのテストマーケティングという位置づけで、モニター家庭に実際にジアイーノを使ってもらい、使用感などをデプスインタビューすることにした。
モニターとなる世帯は、要介護度や家の広さなども考慮して選定した。実際に在宅介護世帯に使ってもらえたことで得られた感想は、パナソニックの施策にとって非常に重要なものになったと、田頭氏は語る。
「静音性や手入れの簡単さ、省スペースで使用できるなど、商品の考えを伝える上で非常に示唆に富んだコメントが得られた」

さらに、デプスインタビューの内容をもとに「なかまぁる」で記事コンテンツを掲載。インタビューを分析し、販売促進のための訴求方針についての仮説を構築した上で、ジアイーノの4つの価値である「脱臭効果」「適度な大きさ」「手入れの簡単さ」「購入費用」を、なかまぁるの記事に盛り込んだ。
朝日新聞社のエキスパートが家庭に出向いてデプスインタビューを行ったことで、モニター家庭から感想を送ってもらう方法では得られない、在宅介護世帯が抱えるリアルな課題やジアイーノの良さについて、ポイントを絞り込んだコンテンツとなった。
また、デジタル広告の運用では、朝日新聞社のファーストパーティーデータを活用し、在宅介護・介護関心層への適切なターゲティングを実施。インタビュー結果からペインポイントとして浮かび上がった「ごみ箱」と、そのそばにジアイーノを置いた画像を配信したところ、好反応が得られた。
田頭氏は、なかまぁるの記事を読んだ人からのコメント投稿について、「まだ買っていない方からの意見を聞くことができて、とても参考になった」という。「記事コンテンツの内容を二次利用して、街のでんきやさん『パナソニックの店』で販促用チラシに活用できたところも大きかった」と語った。
社会課題とパーパスを軸に、製品価値を再定義する

田頭氏は今回の取り組みを機に、あらためて在宅介護世帯に提供できる価値、いわゆるジアイーノの存在意義が何かを考えたという。そこで出た答えは、「介護を受けている方に対しては、除菌された清潔で健やかな空気の中で毎日心地よく過ごせるということ。介護をしている人にとっては、ジアイーノでニオイの悩みを解消し、もっと気持ちを楽にしていただくということ」だった。
「介護は非常につらいことも多いけれど、ジアイーノを使うことで、少しでも前向きに日々の暮らしを過ごせるようになってほしいという願いと、在宅介護世帯を応援していくという使命感を持って、今後もパナソニックからジアイーノを介護世帯に届けていきたい」と、田頭氏は結んだ。

6月19日開催 これからのシニアマーケティングを考えるウェビナー
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