田舎暮らしをしたい。都会から地方へ移住したい。そんな人たちを2002年から支援しているのが、100万人のふるさと回帰・循環運動推進・支援センター(以下、ふるさと回帰支援センター)です。住まいや就農、就業など移住に関する相談に乗るほか、移住セミナーなども開催。東京・有楽町の東京交通会館の8階には、移住や田舎暮らしの最新情報が集まっています。
利用者の7割弱が20~40代
ふるさと回帰支援センターは、都会から地方へ移住する人を支援している認定NPO法人だ。もともとは、団塊世代の田舎暮らしを応援するための「ふるさと回帰運動」として、2002年に発足。全国の消費者団体をはじめ、労働組合、農林漁業団体、経営団体、民間団体や有志などが協力し、ふるさと回帰支援センターを設立した。
当初は定年後の暮らしを見据えた相談が中心で、来訪する人の7割が50代以上だった。だが、リーマン・ショックや東日本大震災などの影響により、若い世代の価値観が変化。持続可能な社会への関心が高まり、地方での暮らしが見直されてきた。2015年の同センターの利用者は、全体の7割弱が20代から40代という状況だ。相談件数も、今では月2千件を超えた。政府が14年に立ち上げた「まち・ひと・しごと創生本部」の取り組みも後押しとなり、ふるさと回帰運動に参加する自治体が増加。盛り上がりを見せている。
活動の拠点は、東京・大阪。東京オフィスは今年の7月22日に有楽町の交通会館5・6階から8階へ移転し、ワンフロアに全国の移住・田舎暮らしの最新情報を集結させた。相談窓口も36府県1市に増設。専従スタッフが、住まいや就農、就業など移住に関する相談にのっている。全国の就職案内が可能な、品川のハローワークの出張所もある。ふるさと回帰支援センター代表理事の高橋 公氏は「北海道から沖縄までワンストップで移住に関する情報が提供できる場となった」と話す。そうした状況を伝えるために、朝日新聞のエリア広告を活用。首都圏を中心に50万2千部発行した。
センター内では、各自治体による移住セミナーも開催されている。既に移住した人が登壇し、自らの体験談を話すという内容だ。移住者の目線で歴史や伝統、食文化などを発表し、地域の魅力もアピールしている。昨年は302回開催され、今年は350回を超える予定だという。「自治体によるセミナーは、相談件数を伸ばす原動力の一つ」(高橋氏)
その一方で、移住者を受け入れて地域を活性化させようと本格的に取り組んでいる市町村は250ほど。月2千件以上の相談に対して少ない印象だ。「移住者の受け入れには、仕事と住む場所、移住者を支援する組織が必要。だが、この三つをそろえる市町村は、まだ少ない。移住希望者は今後も増加が見込まれており、受け入れる自治体数を500まで引き上げることが不可欠」と高橋氏。そのためにも、各自治体が問題意識を高め、発想を転換してもらう必要があるという。
「問題意識が高く、フットワークの軽い自治体は、移住者を受け入れる態勢を着々と整えています。まだ取り組んでいない自治体の方々には、ぜひ当センターに訪れてみてください。現場を見れば、地方に若い人を呼び戻す可能性が十分にあることが分かるはずです」
選ばれる地方になるために地域がやるべきこと
これまでは、都会から地方へ移住する人の主流は「Iターン」だった。だが、2011年の東日本大震災以降は「地元に戻るUターンがじわじわと増えてきました。2014年から2015年の1年間だけ見ても、Uターンを希望する人が10ポイントもアップした」と高橋氏。そうした微妙な変化を察知することは、各自治体が地域の特色を発信する上でも必要なことだという。
「今のニーズに何がヒットするかを考えることが重要です。5年ほど前のニーズのまま発信している自治体も少なくない。また『自分たちの地域には何も魅力がない』という声もありますが、決してそんなことはないと思います。祭りでも歴史でも食文化でも気候でも、実は何でも『売り』になるからです。ただ、地元の人にとっては当たり前すぎて、町の魅力に気づきにくいのも事実。地域の魅力を掘り起こすために、移住者や地域再生の活動をしている外部の方などに協力を得ることも有効だと思います」
ふるさと回帰運動は、「地域の見直し運動」とも言える。「社会が成熟した今、多様性が求められています。私たちの活動は、それぞれの価値観に基づき、各地で暮らしていくことを促進する文化活動という側面もあると思っています」
14年にわたって移住者の支援を続けているが、これまで大きなトラブルは一度もない。それは、移住相談に訪れた人の適性に合わせてアドバイスをしているからだ。「誰とどこで何をして暮らすのか。これらをしっかりシミュレーションする必要があります。憧れだけで田舎暮らしをしても、うまくいきません。受け入れる側にも、移住者を温かく迎え入れる組織が必要です。受け皿については、移住者をはじめ商工会議所やJA、漁協、森林組合、生協、役所のOBなどが協力してNPO法人をつくり、支援しているところも増えています」
高橋氏はこれまで「ふるさと起業塾」をはじめ「農村六起」「復興六起」など、起業家の育成や地域社会の雇用創出のための事業も手がけてきた。働き盛り世代の移住が増えている今、起業家の育成は必須だ。「例えば、1本10円のキュウリを漬物にしたら50円、60円で売ることができる。すなわち、仕事も収入も増やすことができます。ただ作物を生産するだけでなく、加工して付加価値をつけて出荷するのです。1次産業を6次産業に発展させられる起業家を全国1,740ある市町村に複数名配置したら、地域全体が変わっていくはずです」