古都とはひと味違う魅力を訴求 行政は地域のモチベーターに

 2014年11月から始まった「もうひとつの京都、行こう。」プロジェクトは、京都府を北部、中部、南部の3エリアに分け、「北部=海」「中部=森」「南部=お茶」のテーマを設定。古都・京都とはひと味違う魅力を発信し、府全体の観光誘客と地域活性化を目指しています。

既存のブランド力を生かし府内全域に集客を図る

藤岡敬史氏 藤岡敬史氏

 世界に名だたる観光地・京都。2015年、京都府内の観光入込客数は約8,748万人と、2年連続で過去最高を更新した。そのうち京都市は、実に半数以上の約5,684万人を占める(京都府商工労働観光部発表)。京都府広報課・広報担当主査の藤岡敬史氏は「『京都=古都・京都市』の認識は、多くの観光客が抱いています。府内全域にたくさんある、それ以外の魅力を発信していくのがねらいです」と話す。

 「もうひとつの京都、行こう。」プロジェクトは、日本海に面し、古代から大陸との交流で栄えた京都府北部エリア(宮津市ほか※1)を「海の京都」に。豊かな森の恵みを享受できる中部エリア(亀岡市ほか※2)を「森の京都」に。お茶の生産地として長い歴史を有する南部エリア(宇治市ほか※3)を「お茶の京都」にそれぞれ位置づける。各エリアの強みを生かした「海・森・お茶」のキーワードに沿って、これまで市町村単位だった発信を、エリア内の市町村一体で進める。まさに「オール京都」規模の取り組みだ。

 地域に人を呼び活性化したいと考えるのはいずれの自治体も同じである。「例えば、京都でお茶といえば宇治市と思っている人がおられます。しかし実は、宇治市より南の地域にもお茶の文化は根付いています。このように、誰もが知る『京都』から、さらに足を延ばすと、まだ知らない京都の味わいが待っている。京都のブランドを生かしつつ、人を地域エリアに集めるのも『もうひとつの京都』に込めた戦略です」

地元住民と連携しながら想像以上のビジュアルが完成

 15年から1年ごとにターゲットイヤーを定め、「海→森→お茶」の順で重点的に発信している。15年度「海の京都」は、同年に京都縦貫自動車道が全面開通、アクセスが向上したことでインパクトも大きく、確かな手ごたえを得た。

 16年度の「森の京都」は、京都の森にしかないオンリーワンの要素を探すことから始まったという。当該エリアを頻繁に訪ね、住民の誇りを中心にヒアリング。その整理、言語化に努めた。結果、日本の原風景が残る「森」。森がもたらす食や木材などの「恵」。京都市内から約1時間と近く、暮らしに森が溶け込む「生活」。人と人の絆が強い「縁」という、発信すべき魅力にたどりついた。とくに、お金に代えがたい価値と時間に満ちた「森の京都」は、観光地としてはもちろん、創作意欲もわくことからものづくりに携わる人、しかも35歳前後の若い層の移住も多い。京都市内への通勤も可能。いずれは移住を、と考える人の候補地として、「森の京都」の興味を喚起するという目的とターゲットが設定された。

※画像はPDFへリンクします。 2016年8月11日付 朝刊(大阪本社版) 2016年8月11日付 朝刊(大阪本社版)

 8月11日付の朝日新聞に掲載された全面広告では、京丹波町の森をロケーションに、親子が森での時間を楽しむシーンを切り取った。「森の京都」に移住してきた職人の手による家具を置き、生活空間の延長としての森も表現。さらにモデルには、京丹波町に住む家族を起用。「こちらから動きを指示するよりも、普段から森に親しんでいるように自由に遊んでもらったところ、とても自然な絵が撮れました。プロのモデルでは撮れなかった絵でしょう」と藤岡氏。キャッチコピーにもあるように、京都の「森天地」で新たな人生 を、とのメッセージを訴求した。「新聞の全面広告を効果的に使うには、必要最低限の要素でいかにインパクトを残し、検索など次のアクションにつなげてもらうか。そうした意味では、地域と協力して徹底的にビジュアルを作り込んだこの広告は、想像以上の出来ばえでした」。同時に、エリア内で今後開催される交流型イベント「森の京都博」の告知も行った。紙面はポスターとしても展開され、「森の京都」のイメージをけん引する役割も担っている。実際に森の京都へ移住してきた人から「ポスターが欲しい」という問い合わせもあり、インナー効果も感じているところだ。


地域住民の自覚を促すモチベーターであること

 地域の魅力を掘り起こして広報発信するには、今回のように、地域の理解や協力は不可欠だ。日々、各自治体の担当者から様々な情報がもたらされるが、藤岡氏は「地域に赴き、対話する」ことの重要性を強調する。「こちらの一方的なイメージだけでは、地域住民にとっては意図していないニュアンスで世間に伝わることもあり、齟齬(そご)をきたします。そもそもメディア露出を敬遠する人もいます。直接思いを聞いたうえで適切なメディアへ橋渡しをし、その結果として反響があれば、地域も盛り上がります」

 行政主導のプロジェクト期間には限りがあるが、地方創生は数年取り組んで終わる話ではない。いずれは地域主導で魅力を発信し、自転してほしいとも願う。「そのためには、今回の事例のように、地域の一人ひとりが『森の京都の一員』であることを意識してもらえるような、行政による動機付けも大切。行政は、地域とメディアの『コーディネーター』であると同時に、地域住民の自覚を促す『モチベーター』でもあるべきです」

※1  宮津市、京丹後市、舞鶴市、福知山市、綾部市、伊根町、与謝野町
※2  亀岡市、南丹市、京丹波町、福知山市、綾部市、京都市右京区京北
※3  宇治市、城陽市、八幡市、京田辺市、木津川市、久御山町、井手町、宇治田原町、笠置町、和束町、精華町、南山城村