海外から日本を訪れる旅行客にとって必要となる日本円。都心部はクレジットカード加盟店も多いが、地方の観光地などでは現金が必要になるケースも少なくない。そんなとき必要なのが現金自動預払機(ATM)。セブン銀行は2万台を超える全ATMで、海外発行のキャッシュカードやクレジットカードに対応しており、他の国内銀行をリードしている。業務推進部 次長の森田靖弘氏に同行の戦略を聞いた。
早くからインバウンドを意識 国際基準でATMを開発
──海外発行カードが使えるATMを設置している理由を聞かせてください。
セブン銀行は2001年の開業以来、「いつでも、どこでも、だれでも、安心して使えるATMサービス」を目指しサービスを提供してきました。その「だれでも」には当然、海外から日本を訪れる外国人も含まれます。現在、国内に18万台以上のATMが設置されていますが、海外で発行されたキャッシュカードやクレジットカードに対応しているATMは多くありません。日本のカードと諸外国のカードでは、磁気ストライプの仕様が異なっていますし、セキュリティーなどについても国際基準を満たしているATMでなければ、海外発行カードは利用できないのです。
諸外国の人たちにとっては、国外に旅行した際でも自分のカードが使えるのが当たり前の状況です。訪日外国人からは「日本では、ATMでお金を下ろせず不便」という声が多く聞かれていました。
当社では開業時から海外発行カードの利用を見越してATMを開発してきました。そして07年7月11日、全国のセブン銀行のATMで海外発行カードの対応を始めました。まず、最も利用されると考えられる成田空港に設置しました。セブン-イレブンやイトーヨーカドーなどセブン&アイ・ホールディングスの店舗以外に設置したのは初めてでした。当時はすでに、日本政府が観光立国を目指し「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を進めており、訪日外国人旅行者の増加と共に、海外発行カードの利用も増えてきました。
──現在のATMの普及状況、海外発行カードの利用状況は。
全国のATM台数は、2万1千台を超えました。グループ店舗のほか、空港、駅、商業施設、証券会社などに設置しています。最近では新生銀行さんのATMコーナーにも設置させていただいています。ここ数年は年間1,400~1,500台ずつ台数を増やしており、しばらくはこのペースが続くと思います。
海外発行カードの利用状況は、前年比1.5倍以上のペースで増えており、14年度は400万件を突破しました。グループ店舗以外の設置場所では、インバウンドを目的に置いているATMもあります。例えば、北海道ニセコのスキー場内のATMは、全国のATMの1日の利用件数が国内カードの利用を含めて100件程度なのに対し、スキーシーズンには海外発行カードの利用だけで200件にも上ります。こうした話題が広がって、商業施設や自治体からのお問い合わせが非常に増えてきています。
──訪日外国人にはどのようなプロモーションをしていますか。
2007年に海外発行カードへの対応をスタートした当初から、空港から目的地へ移動するリムジンバス内などに広告を掲出して告知してきました。また、外国人が多く来店するセブン-イレブン店舗にはポスターを貼っていただいたり、ATM横のラックに4言語(英語、中国語の簡体字・繁体字、韓国語)のパンフレットを用意したりしています。
しかし、まだまだ不十分です。観光庁が訪日外国人を対象に四半期ごとに行っている調査で、現金をどこで調達したかを調べたところ、「両替所」や「出発前の自国で」がほとんどで、「日本国内のATM」はわずか1%だったのです。
自国で調達する人が多いのであれば、日本に来る前からアプローチしなければなりません。そこで、改めて中国、香港、台湾、韓国、タイで、日本観光の情報源をウェブ調査しました。国内では京成上野駅で外国人観光客にアンケートを実施。その結果から、それぞれの国でよく見られている情報サイト、旅行サイトを探り、バナー広告を出すなどで出発前の段階での認知拡大を図っています。
今年は2月の中国の春節と桜シーズンが始まる3月下旬に合わせ、日本に到着してからの空港、移動中のバスや電車、駅、滞在先のホテル、観光する街の中と、これまでになく大々的かつ網羅的に広告を出しました。どこに行っても何に乗っても見てもらえるように、JR17路線の電車内や、浅草、上野、秋葉原、表参道、原宿といった観光客が多く訪れる駅に交通広告を掲出しました。
──日本語の記載がない広告クリエーティブが斬新でした。
情報を届けたいのは外国人観光客の方々なので、英語、中国語の簡体字・繁体字、韓国語でのメッセージにしました。日本語が書かれていないので、日本人の間でもツイッターなどのソーシャルメディアで話題になったようです。セブン銀行のATMが海外発行カードに対応していることは、実は日本人の方にはほとんど知られていません。日本の方にもこのサービスについて広く知ってもらい、海外の方が街で困っていたら教えていただきたい。それもまた、「おもてなし」につながるのでは、と思っています。
グループ外への設置が増加 商業施設などと連携を進める
──にわかにインバウンドビジネスが注目されていますが、その影響はありますか。
グループ外へのATM設置が増えています。国際観光都市である岐阜県高山市では、地元の方々から十六銀行さんに海外発行カード対応のATMを置いてほしいと要望が寄せられたそうですが、1台だけを設置するためにシステムなどを開発するのは難しいため、当行に声をかけていただきました。十六銀行さんの支店内にセブン銀行のATMを設置させていただいています。地元の方々の要望を一番に考えてのご英断だと思います。
銀座の松屋さんでは昨年秋、免税カウンターをリニューアルされましたが、その横にセブン銀行のATMを設置させていただいています。グループの枠を超えた設置はすでに1,500台を超えています。 今後は、メガバンクなども対応を進めていくと報じられています。外国人旅行者がATMを使いやすい環境が整備されて、認知が広まれば、当社のATMもさらにご利用いただけるようになると考えています。
──今後の取り組みの予定、展望を聞かせてください。
2015年12月頃から、海外発行カード利用時のATM画面表示などを12言語対応にする予定です。現在は4言語に対応しており、訪日外国人旅行者が使用する言語の4割程度をカバーできていますが、これを9割以上カバーできるようにして、さらに使いやすさを向上させます。
サービスの認知拡大については、国内での様々なスポットでの広告活動に加え、ウェブを中心に、国外でのプロモーションを展開していく考えです。その上で、インバウンド対応に取り組む商業施設や自治体と連携しながら、単に「使える」だけでなく「こんなときに使える、便利」ということを伝えていきたいですね。
東京五輪が開催される2020年には、海外からの観光客の多くの皆さんにサービスを知っていただくことを目標に中長期的に取り組んでいく考えです。