映画専門チャンネルのムービープラスは、名作「ゴッドファーザー」のテレビ完全版のHD版を日本で初放送した。その事前告知としてエリア広告特集「メガ新聞」を発行、東京圏と関西圏に住む50~70代の高所得者層世帯にターゲットを絞って発信。クリエーティブも奏功し、問い合わせと加入者数が想定を大きく上回った。
あたり前では響かない時代にあえて過剰感を演出
新聞1ページの約4倍の巨大な紙面。中央には映画「ゴッドファーザー」のロゴが鎮座し、その下にはモノクロの懐かしいシーンが並ぶ。フランシス・フォード・コッポラ監督の名作のテレビドラマ版が、約20年の時を経て、HDで日本初放送。これまでDVDなどソフト化されたことがなかった貴重なバージョンによる放送だ。
巨大な紙面でこのビッグニュースを仕掛けたのは、ジュピターエンタテインメント ムービープラス部長の寺嶋博礼氏。「ムービープラスはケーブルテレビやスカパーといった有料チャンネルを通じて視聴する映画専門チャンネルです。無料のチャンネルと異なり、加入というハードルがあるので、あたり前のプロモーションでは、なかなかお金を払って映画をテレビで見たいという層にリーチできません」
今回のキャンペーンについて、寺嶋氏が掲げたキーワードは「過剰感」だ。「『ゴッドファーザー』と『ゴッドファーザー PARTⅡ』は、多くの映画ファンがオールタイムベストに挙げるほどの完璧な映画です。それらに未公開シーンを加えて再編集したテレビ完全版は、そもそも『過剰感』のある作品。その特質を踏まえ、あえて『過剰感』を演出しました」(寺嶋氏)
「メガ新聞」を活用するキャンペーンの構想は、以前から温めていた。今回の「過剰感」のあるコンテンツなら、「メガ新聞」という「過剰感」のあるスペースでこそうまく表現できると、掲載を決めた。パリやロンドンの地下鉄の映画ポスターをイメージした表面。「『ゴッドファーザー』のロゴを含め永久保存版にふさわしいクリエーティブの製作を心がけました。また、朝日新聞の題字が入ることで折り込みチラシと差別化でき、注目度も高まりました」
裏面には、老眼鏡が不要なほどの巨大な番組表を掲載した。「新聞媒体なら手元に保存可能で、見て終わらないという体験価値を提供できます。『メガ新聞』を発行するや近年にないほどのお問い合わせが入り、加入者も当初の予想を大きく上回りました。3週間分の番組表を掲載したことで、効果が持続したのも特徴的ですね」
情報発信に偏差を作り、話題性を高める
今回の「メガ新聞」は、東京圏と関西圏に住む50~70代の高所得者層世帯に向けて、約14万部が配布された。まさに洋画で育った世代に、「ゴッドファーザー」の再視聴を促す狙いだ。
「エリア広告特集なら、ターゲットにリーチする目的に加えて、あえて情報に偏差を付けることが可能です。今は口コミでニュースが広がる時代。インパクトがあり、ニュース性が高い情報発信ができれば、『あれ、私のところには届いていない』という枯渇感を醸成することができるのではないでしょうか。この偏差を作る媒体として、インパクトのある『メガ新聞』は魅力的だと思います」
「ゴッドファーザー テレビ完全版」放送日の当日には、全国版朝刊のテレビ面に広告を掲載した。「メガ新聞」がティザー広告の役割を担い、読者の間で枯渇感を醸成。その受け皿として、放送日に全国版に広告を打ち、フォローした。テレビ面という親和性の高いスペースで情報発信したことも奏功し、過去に例のないほどの反響へとつながった。
「今回のターゲットは、かつて金曜日の夕刊で映画情報を見て、土日に映画館に足を運んだ世代でもあります。朝日新聞はその世代に圧倒的なブランド力があり、狙ったタイミングでリーチを取る上で、瞬発力が強いメディアだと思います」(寺嶋氏)
今後の展開について、寺嶋氏に聞いた。
「今の時代、既視感があるものはスルーされてしまいます。いかにスルーされないものを生み出すか。『メガ新聞』のようなアイデアあふれるクリエーティブは、面白いですよね。広告キャンペーンでも効率化やコストが重視されがちですが、エンターテインメント業界には『面白い』という評価軸もあります。もっと面白さにこだわり、ムービープラスのファンを増やしていきたい。そのためにも、新聞社と一緒に視聴者や読者を巻き込んで、もっともっと世の中を面白くしていきたいですね」