新潮社が女性誌『ROLa』を8月1日に創刊した。「女性のためのカルチャー誌」をうたい、これまでにない切り口が情報感度の高いアラサー世代から支持されている。編集長の川上浩永氏に同誌のコンセプトや対象読者などについて聞いた。
「カルチャー」に敏感なアラサー女子 10代の頃は『ニコラ』読者
――『ROLa』のコンセプト、創刊に至った背景を聞かせてください。
コンセプトは、25歳から35歳の女性をターゲットにしたカルチャー誌です。私は、女子中学生向けの雑誌『ニコラ』の編集に14年ほど携わってきました。『ニコラ』が創刊したのが1997年。当時、中学生だった読者は今や30歳前後で、働いていれば仕事を任される世代になった。20代後半という時期に、いろいろなことを考えたり 、新しいことを知りたいと思ったりするのではないか――。そんな仮説を立てました。
『ニコラ』を編集している時は、常にその世代に会って、興味のあるもの、はやっているものなどを徹底的にヒアリングするフィールドワークから企画を立ち上げていました。その基本に立ち返り、30歳前後の女性たちにじっくり話を聞いてみると、『ニコラ』をはじめ、子どものころから雑誌を読む習慣がある彼女たちは今でもファッション誌などを3~4誌はチェックしていることが分かりました。しかも女性誌以外、つまり男性カルチャー誌を読んでいる人も多くいました。たしかに男性向けカルチャー誌は、特集によっては購買者の半数以上を女性が占めることもあります。
そこで、これまでの女性誌では扱わなかった「カルチャー」を 、深く掘り下げて発信する雑誌を作ろう、という結論に至ったのです。
――具体的にはどのような特集を企画しましたか。また反響は。
『ニコラ』世代が10代だった90年代後半は、様々なカルチャーが社会現象的な盛り上がりを見せた時代でした。例えば音楽では小室哲哉さんがプロデュースしたアーティストがミリオンヒットを飛ばし、テレビでは「ロングバケーション」「ラブジェネレーション」といったドラマが高視聴率をたたき出した。特に熱かったのが少女マンガです。少女マンガ雑誌『りぼん』『なかよし』は200万部以上を発行するなど、まさにメガヒットの時代でした。
そこで創刊号では、92年に『なかよし』で連載を開始し、その後テレビアニメなどでも人気を博した「美少女戦士セーラームーン」の著者、武内直子さんのインタビュー記事を掲載。インタビュアーの「少年アヤちゃん」は、実は30歳前後の女性にヒアリングをしている中で「すごく面白い」と名前が上がったコラムニストです。発行後の読者アンケートでもこの特集が非常に好評でした。
また、それを受ける形で、東京・下北沢にある話題の書店「B&B」で「ROLaプレゼンツ セーラームーンナイト」「90年代女子マンガナイト」というトークショーを二夜連続で開催。有料イベントにもかかわらず、両日とも大盛況でした。
少年アヤちゃんをはじめ、この世代には面白い書き手やクリエーターが多く、例えば20代の若き社会学者・古市憲寿さん、音楽家のヒャダインさんなどは、『ROLa』世代の女性へのヒアリングで名前が出てきました。そうした人たちに雑誌作りに参加してもらうことで話題を呼び、それがツイッターなどのソーシャルメディアで拡散されてますます大きな話題になる。雑誌を軸にイベントやソーシャルなど、立体的に広がりを見せているのを実感しています。
一万字に迫る文字数で読み応えのあるインタビュー記事、気鋭のフォトグラファーによる撮り下ろしなど、従来の女性誌にはない読み応え、見応えのある独自のコンテンツを掲載しています。アンケートでは「こういう雑誌を読みたかった、待っていた」という回答も多く、うれしかったですね。
フィールドワークでリアルを収集 独自の視点で「カルチャー」発信
――創刊当日の8月1日に朝日新聞に広告を掲載しました。
『ROLa』のコンセプトなどを伝える記事体の広告特集を掲載しました。
創刊については、ツイッターの公式アカウントで事前に少しずつ告知をしていたのですが、「女性向けカルチャー誌」というユニークな雑誌に、期待感と共にどういう媒体なのかが想像しにくい部分もあったようです。この広告特集で「ようやく全容が見えた!」という声が聞こえてきたのでよかったと感じています。
『ROLa』世代は新聞を読まないと言われていますが、紙面を写真に撮ってソーシャルに投稿してくれたケースも。「きちんと語られているものを読みたい」という読者に手に取ってほしい雑誌なので、新聞との親和性が高かったと捉えています。
――今後の展望を聞かせてください。
読者の声を聞きリアルな姿をウオッチするフィールドワークはこれからも重視していきます。ファッションなど女性誌的要素も、デザイナーや作り手の思いやこだわりという切り口を持つことで、従来のファッション誌とは違うコミュニケーションをすることができる。『ROLa』ならではの視点で切り取り、発信していく考えです。
「雑誌が厳しい」と言われていますが、たとえば『ニコラ』は今でも20万部を売り上げています。一つのジャンルで生き残れる雑誌は1誌か2誌。既存のメディアのフォロワーではもはや生き残れません。読者の姿を捉えながら、新しいマーケット、新しいメディアを創出していきたいと思っています。
新潮社 『ROLa』編集長
1997年から新潮社勤務。写真集、単行本、ティーン誌『ニコラ』編集に携わる。2008年から『ニコラ』副編集長。13年から現職。