素材産業などのいわゆるB to B事業が多くを占める旭化成は、早い時期から積極的に企業広告を行い、コミュニケーションを重視してきた。広告宣伝活動に関する同社の狙いなどについて、広報室長の山崎真人氏に話を聞いた。
社会にどう貢献しているかを紹介 社員やグループなどインナーも意識
――広告コミュニケーションの狙いは。
旭化成グループでは、B to Cビジネスはプレハブ住宅の「へーベルハウス」と、「サランラップ」や「ジップロック」「フロッシュ」などの生活消費財です。これらは全体の売り上げの3割ほどで、それぞれの部門で広告活動を行っています。それ以外はいわゆるB to B事業で、普段なかなか一般消費者の目に触れにくいビジネスです。旭化成という企業が、どのような事業をして、どういった技術力を持ち、世の中のどんな問題の解決に貢献しているのか――これらを打ち出すことが、ブランド価値、企業価値を高めることにつながると考え、企業広告を続けています。
――具体的にはどのようなコミュニケーションでしょうか。
1997年から10年間、旭化成の「化」の文字を分解した「イヒ!」というキャンペーンを展開し、認知度はもちろん、当社に対して親しみやすさも感じてもらうことができました。その一方で、「もっと事業内容を知りたい」という声もあることがアンケートを通じてわかりました。
2006年4月からスタートした中期経営計画に基づくコミュニケーション戦略において、グループ力、ブランド力の向上を図るため、「人びとの“いのち”と“くらし”に貢献する」という当社グループの企業理念の訴求していくことが決まりました。その動きに合わせる形で、改めて当社について知ってもらおうと、07年から新たな企業広告シリーズをスタートしました。今年の9月10日の新聞各紙に掲載されたものが14作目になります。
この企業広告には、インナー向けの狙いもあります。また当社グループは分社・持株会社制を敷いているため、グループ内の社員に他の事業内容を知ってもらうことも目的です。その上で企業広告を通じて、各事業が世界中の多様な問題解決に役立っていることを伝え、旭化成グループで働くことに誇りをもってもらいたいと考えています。
――企業広告を掲載するメディアとして、新聞をどう評価していますか。
新聞やテレビといったマスメディアは、幅広い層にリーチすることができます。また、社内向けにも、自社を客観的に見られる媒体であると認識しています。当社のようなB to B企業にとって、企業広告は目の前の売り上げを伸ばすことが第一の目的ではなく、投資家、取引先、学生やその保護者など、あらゆるステークホルダーに認知・理解してもらい、さらなる好意を持ってもらうことが重要です。そういう意味で、幅広い読者層に情報発信ができる新聞に出稿することに意味があると捉えています。
また、新聞広告に使ったクリエーティブは、当社ホームページにも掲載しているほか、撮影秘話なども盛り込んだ簡単なリーフレットを全社員に配布して、社員の理解促進にも活用しています。
――現在のシリーズでクリエーティブについてこだわっている点や工夫したポイントは。
世界が今、抱えている「問題」を提起し、その「答え」として旭化成グループの事業活動を紹介する、という構成にしています。例えば、9月10日の広告では、「問題」は「目の前の命を救えるか」です。その「答え」として、当社が医療機器のAED(自動体外式除細動器)をはじめとするクリティカルケア分野に進出したことを訴求しました。
この事業分野に進出するにあたり、米国の救急救命医療関連企業をグループ化しましたので、ボストンの海岸で救急隊員が救命活動をしているビジュアルを全30段で掲載。その枠で囲んだ問題提起に対する「答え」をめくった全15段で紹介するという、3ページ構成になっています。
「何だろう?」と読者に興味を持ってもらうため、全30段はあえてシンプルにしています。その方が目を引きますし、広告の下部中央に配した社名ロゴも際立つと考えています。
企業広告は50年以上前から 積み重ねが高い認知に
――B to B企業のコミュニケーションについての考えを聞かせてください。
B to B企業には、広告宣伝活動にあまり力を入れない企業は少なくありません。取引先がある程度決まっている場合が多いので、その必要を感じないということもあるでしょう。しかし、企業の認知度を上げることは、企業の社会的信頼を醸成し、ヒト・モノ・カネ・情報といった様々な経営資源を獲得しやすくする、すなわちビジネスの効率を上げるという点からも非常に重要です。そのためには、「投資」と考えて広告宣伝活動をする必要があると思います。
当社では、早くから企業広告の重要性を認識して、昭和30年代のテレビ創生期から、番組の一社提供という形で企業としての広告を展開してきました。現在、消費者アンケートを実施すると、当社の認知度は95~98%と高い数値になります。それはこれまでの長年の積み重ねの結果だと捉えています。
――今後の展望、課題は。
現在の企業広告シリーズは、当社グループの事業や技術を具体的に理解してもらう内容にしています。社内からも「次は自分の部門の事業を取り上げてほしい」という要望も多く、機会を見ながら進めていく予定です。
そして、2007年から始まった企業広告のキャンペーンスローガン「昨日まで世界になかったものを。」が、11年からスタートした5ヶ年の中期経営計画において、グループスローガンにもなりました。コミュニケーションについては、15年までは引き続きこの方向で進め、その評価を踏まえた上で次期のブランド戦略、コミュニケーション戦略を検討していく考えです。
2013年9月10日付 朝刊 全45段