日本の消費者の高い要求水準にマッチすることが、好循環を生むヒケツ

 スタイリッシュで、丸いボディーが印象的。搭載した人工知能で自ら判断しながら掃除をするルンバ。米国アイロボット社が開発したこのロボット掃除機は、世界60カ国以上でグローバルに展開しており、日本でも「ほしい掃除機」として名の挙がる人気商品だ。10月7日には新しい「700シリーズ」が発売され、大きな話題になった。日本市場に向けたマーケティングコミュニケーション戦略について、日本正規総代理店のセールス・オンデマンド取締役の徳丸順一氏に聞いた。

ターゲットをしぼりこみ デモンストレーションを徹底

徳丸順一氏 徳丸順一氏

――「自動掃除機」「お掃除ロボット」という、これまで日本の市場になかったカテゴリーのルンバですが、どのようなマーケティング戦略を立てたのでしょうか。

 2004年から日本販売総代理店としてルンバを売ってきましたが、海外製で、かつこれまでにないカテゴリーの商品を認知、理解し、さらに購入してもらう、というのは、本当に高いハードルでした。こうした状況の中で、当社が打ち出した戦略は「選択と集中」です。商品を広くあまねく訴求してもうまくいかないだろうと判断し、まずはターゲットを絞り込んで、その層を一点突破することにしました。

 最初にターゲットにしたのは、ある程度懐具合に余裕があり、なおかつ掃除などが億劫(おっくう)になってくるだろう、団塊世代です。そして、この層にリーチするチャネルとして協力をいただいたのが、百貨店でした。最近の百貨店には家電売り場があまりないですが、優良顧客を抱える外商部隊がある。ルンバは、極めて説明が必要な商品なので、徹底的にデモンストレーションをしてもらい、理解を促すことに注力しました。次に、最大のチャネルである家電量販店での取り扱いを進めましたが、このときもデモンストレーションを重視。売り場にスペースをいただいて、実際に掃除をするルンバを見て、体験してもらい、周知の徹底を進めました。

――コミュニケーションはどのように展開しましたか。

 クチコミで徐々に評判が広がりつつあった2009年、マス媒体への広告投下を開始しました。最初は交通広告を展開。このときターゲットにしたのが、大都市圏30代~40代共働き世帯です。
調査結果から分かったのですが、共働き世帯にとって掃除は切実な問題。週末にしか掃除できない、その週末に出かけてしまったら2週間も3週間も掃除できない……という状況が続くと、夫も妻もイライラが募り、けんかの原因になるというのです。利用者のグループインタビューでは「帰宅したとき、きれいな床が迎えてくれるのがこんなに心地いいとは」「ルンバを使ったおかげで夫婦のいざこざがなくなった。まさに救世主」という声がたくさん聞こえてきました。交通広告にしたのは、ルンバは都市部のユーザーが多く、通勤時に目につきやすい、というのがその理由です。当時は「これまで自分が一生懸命やっていた掃除に置き換わる」ということをイメージしてもらうことが難しく、機能を細かく解説したり、第三者機関による数値「ゴミ除去率99.1%」を提示したりと、とにかくしっかりと説明する内容でした。

 次にテレビCMを投下。認知を高めることを第一目的に、「あなたの代わりに。あなた以上に。ロボットが掃除します。」というタグラインのみにしてメッセージを絞り込みました。これをきっかけに、交通広告も「説明」から「イメージ訴求」に移行していきました。一方、新聞広告では文字をたくさん使って機能を説明。新聞広告はリーチの高さが特長ですが、それ以上にブランドの確立に適した媒体だととらえています。しっかりと読んでもらって理解を促進できるとともに、信頼性が高いからです。

 ただ、10月7日発売当日の朝日新聞朝刊に30段の広告を掲載した新しい「700シリーズ」については、数年に一度のローンチということもあり、登場感を演出するためにビジュアル重視にしました。ルンバの認知が高まってきている今だからこそできたとも言えます。その時々のタイミングに合わせ、最適な媒体でより効果的なコミュニケーションをしていくことが重要だと考えています。

2011年3月4日付 朝刊 セールス・オンデマンド 2011年3月4日付 朝刊
2011年6月17日付 朝刊 セールス・オンデマンド 2011年6月17日付 朝刊
2011年10月7日付 朝刊 セールス・オンデマンド

2011年10月7日付 朝刊

「日本で売れれば世界でも売れる」 日本のユーザーの声を商品開発にフィードバック

――日本の消費者の特徴は。また、対応で気をつけている点は。

 実は、「選択と集中」に加え、当初から戦略として打ち出しているのが「顧客満足度の向上」です。たとえば不具合があったり故障したりした場合、米国などでは交換してしまう。でも、モノを大切にする文化の日本では、それでは通用しません。「きちんと修理をしてほしい」というニーズが高いのです。お客さまの声に丁寧に対応し、修理の要望にも応えるために、早々にコールセンターと技術部門を立ち上げました。結果として、この体制がクチコミでの評判にもつながったととらえています。

 商品の性能についても、「隅々まできれいにしてほしい」「細かいゴミもきれいにしたい」など、要求水準は高いですね。当社では、日本のユーザーの声やどのような不具合が起こったのかなどすべてリポートにし、さらに当社からの改善要求も併せ、米国のアイロボット本社に送っています。本社でも「日本の要求水準にマッチした商品を出せば全世界で売れる」という認識が強く、日本のユーザーの声を取り入れて改良、開発を進めるといった好循環ができている。そういう意味では、新しく開発される商品は「日本発のグローバルモデル」と言っても過言ではないと思います。

――もはや「代理店」の領域を超えた役割を担っているという印象です。

 当社には「単なる商社や代理店ではダメ」というコアコンピテンシーの考え方があり、それに基づいてあらゆる業務を遂行しています。たとえば、海外のブランドや商品は「あるレベルで十分」というような本国での基準があるのですが、先ほどもお話ししたとおり、要求水準の高い日本の消費者には通用しない。カスタマーサポートなどのサービス面でしっかりと対応し、その声を改善要求として本社に届けることで、本国での基準と日本とのギャップを埋めていく。それが当社のミッションです。さらに、実際はアイロボット社との資本関係はありませんが、その子会社のようにフルファンクションで対応していく体制を整えています。マーケティング、セールスから、技術部門についても本社と直接やり取りし、それぞれの仕事を的確に進めることで、より日本のユーザーに対して満足のいくサービスを提供できるものと自負しています。

――マーケティングやコミュニケーションの今後の展望について聞かせてください。

 04年当初から、日本において「ロボットカテゴリー」を作ることを目標にマーケティングやコミュニケーションを進め、今ようやく認知されるようになった感があります。類似商品も出ていますが、ルンバはロボットメーカーが作る人工知能を搭載した掃除機で、いわゆる家電の掃除機とは一線を画すという最大の特徴であり、その魅力を引き続きしっかりと伝えていきたい。そして、認知や理解がある程度浸透してきたこれからの課題は、「ルンバのある生活」を消費者に自分のこととして実感してもらうこと、と考えています。すでに、テレビCMでは日常生活の中でルンバが黙々と掃除しているシーンを描くコミュニケーションを始めていますが、今後はさらに消費者に近い存在になるべく、「あなたの家でも活躍してくれる」「家族の一員として掃除を担ってくれる」というイメージを訴求していきたいですね。基本的に広告が中心になるとは思いますが、クチコミや、その流れでソーシャルメディアをどう連携させていくのか、模索していく考えです。