味の素、カルピスとの27年にわたる合弁期間を経て、2007年に設立されたダノンジャパン。「ダノンビオ」シリーズを中心に、さまざまな商品ベネフィットを追求し、日本の消費者に受け入れられている。マーケティング部 部長の音部大輔氏に聞いた。
差別化戦略を徹底する
――日本市場進出におけるグローバル企業の強みとポイントをどのようにとらえていますか。
商品ベネフィットを伝えるストーリーづくり、ブランドポジショニング、消費者インサイトへのアプローチなど、海外での成功法則を活用できるというメリットは当然あります。ただ、食品はローカルのライフスタイルに大きく左右される商品なので、市場ニーズや競合商品を観察し、独自のプランを立てることが必要不可欠です。
――具体的な戦略について、聞かせてください。
差別化を徹底しています。製品展開としては、生きて腸まで届く高生存ビフィズス菌「BE80」を特徴とする「ダノンビオ」にフォーカス。ヨーグルトはもともと健康にいいイメージがありますが、機能に特化した製品をラインアップの主軸に据えたメーカーは、導入当時限られていたと思います。「ダノンビオ」がグローバルに人気を得ていたブランドであることも注力の理由でした。さらに、4つの容器を連結させた売り出し方もユニークでした。積み上げても安定する形状ということもあり、店頭の棚は横ではなく縦に展開。買い物シーンにおいても既存にないブランドイメージの確立を目指しました。
――いろんな意味で新しい挑戦でしたね。
そうですね。「ダノンビオ」は、1Pあたり80グラムの食べきりサイズなので、従来シェアを得ていた大容量のヨーグルトと比べると、グラムあたりが割高で、ヨーグルトを収める冷蔵庫の所定の位置も変えていただかなければなりません。ハードルはありましたが、毎回フレッシュな味が楽しめる、お皿に移す手間がない、といった利点が受け入れられ、食べきりサイズの4Pタイプは、今や市場のメーンストリームになっています。
――日本人の食習慣やし好、消費行動にどのように対応していますか。
日本人のヨーグルト浸透率は、1年で95%、1カ月でも85%と高く、日常食として定着しています。また、ヨーロッパなどでは夕食後のデザートとして食べるケースが多いのですが、日本では6~7割が朝に食べる傾向にあります。それも含め、消費者ニーズを細かく調査し、モニタリングを重ね、フレーバーやレシピを設計し、製造も国内で行っています。
日本のマーケットは、0.1%未満のシェアしか有さないブランドが300点程度あり、それが市場の3分の1を占めていることも特徴的です。ニーズの多様性とともに、売れている商品だけ見ていればいいわけではないことを示していると思います。まとめ買いをしないのも日本人の傾向で、国によっては16Pパックなども売られています。
――製品ラインアップと購買層、海外のラインアップとの違いなどについて聞かせてください。
「ダノンビオ」は、40代前後をピークに幅広い年代のニーズを持っています。「ダノンヨーグルト」は、育ちざかりのお子さんのいる30~40代をピークに、これも幅広い年代のニーズを持っています。そのほか、50代以上をターゲットとする「ダノンデンシア」、1~3歳児の親御さんをターゲットとする「ベビーダノン」、3~6歳の親御さんをターゲットとする「プチダノン」があります。なお、「ベビーダノン」「プチダノン」はローカルブランドです。日本市場において1歳児向けのヨーグルトは当社製品のみで、離乳食として支持されています。フランスやスペインのダノンでは、ベビーフード専門のディビジョンを有し、幼児期からダノン製品に親しんでもらい、成長に応じたラインアップへの移行を目指すという考えのもと、「私の最初のダノン」を意味するブランド「Mon(Mie) Premier Danone」を展開しています。ダノン商品の「原体験化」という意味では思想を同じくしており、こうした考え方は、一つの企業文化ともいえます。
――今年5月に「ダノンビオ」のドリンクタイプを発売しました。
ドリンクタイプはほかの国にもありますが、飲みきりサイズは日本独自です。また、ボトルの口のなめらかな加工も日本人向けの配慮で、今後海外で生かされていく可能性もあると思います。当社製品の販路のメーンはスーパーですが、ドリンクタイプから本格的にコンビニでの発売を開始しており、新たな販路の活性化にも努めています。
コミュニケーションはインタラクティブ性を重視
――広告コミュニケーションの考え方、海外でのコミュニケーションとの共通点や違いは。
先述したように、食品はローカルの影響が強いので、コミュニケーションも国民性を重視し、グローバルで指定されている枠組みはありません。ただ、商品ラインアップ、パッケージデザイン、価格などすべてをコミュニケーションととらえ、タッチポイントの検証・管理をする点においては全世界共通しています。
――日本の新聞広告の特性をどのようにとらえていますか。また、広告コミュニケーションの方向性は。
新聞はニュース媒体であり、ニュースを求める読者のマインドに響くメッセージを発信できれば、とても実効力のあるコミュニケーションとなります。受け身ではなく自発的に読むメディアなので、浸透の度合いが深く、読者層が購買層と合致している点でも重視しています。土日の朝刊に掲載することが比較的多いのは、週末の消費行動に働きかける力があるからです。今年展開したドリンクタイプの全15段広告や小型広告のシリーズも大変反響がありました。
広告コミュニケーションの方向性としては、ただの「訴求」に終わらせず、想像の余地を与えて「詳しく問い合わせをしたい」という気持ちを促したり、読者参加型キャンペーンを実施したり、ウェブに誘導したりと、インタラクティブ性のあるクリエーティブを模索しています。
――今後の課題については。
一人あたりのヨーグルト消費量を消費大国のスペインと比較すると、スペインは1年に35 kg、日本は7kgにとどまっています。逆に言えば、消費を5倍伸ばすことも不可能ではないということです。消費量を上げている国の事情を研究し、それを日本市場に反映させることで、さらなる消費拡大を目指していきます。