ブランド認知は高いが、機能をもっとしっかり伝えていきたい――。ヤクルトがコミュニケーションの手法のひとつとして選んだのが、新聞の小型広告によるシリーズ展開だ。ヤクルト本社広告部制作課課長の杉田宏之氏、コピーライターの多田綾子氏、同部広告課係長の青山健二氏の3人にお話を聞いた。
クリエーティブを統一し、累積効果を上げる
――朝刊のテレビ面に小型広告を毎日出稿しています。この広告の概要とねらいを聞かせてください。
「新聞の中でも注目度の高いテレビ面の小型広告で、効果的に出稿したい」と考えていたところ、朝日新聞社から提案を受けました。「ヤクルト」をはじめ、当社は説明型の商品が多く、これまでは「どんな商品なのか」「どんなふうに体にいいのか」を事細かに伝えるコミュニケーションが多かったのです。しかし、こうした取り組みとは別に、注目度の高い面で、商品やブランドのメッセージを簡潔に伝えたり、キャンペーンの告知をして認知を広めていきたい、というねらいがありました。
――クリエーティブで工夫している点は。
これまで、「ヤクルトカロリーハーフ」「タフマン」「ミルミル」「ヤクルト400」の訴求、そしてこの10月からは「目指せ腸トレ名人キャンペーン」の告知など、広告が扱う商品や内容は会社の営業施策と連動する形で変えてきました。しかしクリエーティブは統一したフォーマットを使用しています。広告が小さいので、当社のコーポレートカラーである赤い地を引き、文字を白くして目立たせることで、より視認性を高めようと考えました。
――反響は。
周囲から「新聞に毎日広告が出ていますね」という声を、かなりいただいています。また、宅配担当のヤクルトレディーたちもよく見てくれているという話が届いています。新聞ではこれまで、全5段や全15段といった大きな広告も数多く出稿してきましたが、認知の度合いは毎日掲載する小型広告のほうが高いようにも感じています。おそらく「毎朝目につく強み」なのかな、と。クリエーティブを統一のフォーマットにすることで、商品やブランドを超えた累積効果が出ているのではないかと実感しているところです。
――以前、生活面に全2段のシリーズ広告「ヤクルト日和」を出稿していました。
2008年にスタートし、計30回掲載しました。それまでは、新規顧客獲得を目的に全5段のブランド広告を中心に出稿していたのですが、現在も愛飲してくれている方に「ヤクルトを飲んでいてよかった」と感じてもらえ、また、以前は飲んでいたという方にも、「もう一度ヤクルトを飲み始めてみよう」と思ってもらえるメッセージも必要なのではないかと考えたのです。
――内容やクリエーティブで心がけた点は。
ヤクルトにもっと親しみを抱いてもらいたいと、腸の健康の重要性や乳酸菌シロタ株などの話はもちろん、ヤクルトの名前の由来や、容器の形の秘密といった、ちょっとトリビア的な話題も取り上げています。ヤクルトとお客さまの距離を縮めるツールになれば、と考えました。
――反響はいかがでしたか。
当初は5回の予定でしたが、広告を読んでくれた方から予想をはるかに超えるたくさんのご意見、ご感想をいただいたのです。特にはがきは、1枚1枚にヤクルトに対する熱い気持ちや思い出が細かい字でびっしりと書かれてあるものが少なくありませんでした。こうした反響を受け、もう少し続けようか、ということに。その後、「1年間で10回掲載」に変更したのですが、営業からも「チラシにしてほしい」といった声が出るなど好評で、折しも昨年は創業75年という記念の年でもあったので、結局30回まで続けることになりました。
――読者の反響に引っ張られる形で、30回ものシリーズ広告になった、というわけですね。
本当にありがたいことです。また、内容と併せ、とても好感を持っていただいたのが「広告らしくない」という点でした。「押しつけがましくない感じが心地よかった」といった評価をいただきました。これは、高い認知率や飲用経験率のあるヤクルトだからこそできたコミュニケーションだったととらえています。
このシリーズ広告をやったことで、実は大きな気づきもありました。私たち社員にとってみれば当たり前と思っていること、たとえば「乳酸菌が生きて腸まで届く」といった特性を広告に盛り込んでみると、お客さまから「へぇー」「知らなかった」という声がたくさん寄せられたのです。伝わっていたと思っていたことが、実はきちんと伝わっていなかった。改めて、しっかりとコミュニケーションしていく重要性を痛感しました。
なお、20話に達したのを機に、主に宅配のお客さま向けに冊子にまとめました。
女性にターゲットをしぼり再掲載 多媒体展開と同じくらいの反響が
――その「ヤクルト日和」が、朝日新聞の広告特集「ボンマルシェ」にも引き続き掲載されています。ねらい、反響を聞かせてください。
30話の出稿を続けていたとき、小さなお子さんから90歳すぎのお年寄りまで、本当にたくさんの方からお便りをいただいたのですが、その中で特に反響があったのが、30~60代の女性でした。そこで、過去に掲載した「ヤクルト日和」を、より女性に訴求する形で展開し、どのような反響があるのかを見てみたい、と考えたのです。この層は、お子さんがいたり、家族の健康に気を配ったりするので、将来のユーザー開拓にもつながると見込めるからです。色々な媒体を検討した結果、選んだのが「ボンマルシェ」でした。
過去に本紙で掲載した30話の中で、特に30~60代の女性に向けて届けたい5話を厳選。本紙ではモノクロでしたが、「ボンマルシェ」ではすべてカラーで 、前回から好評だった女性と犬のイラストにも色をつけたことで、紙面の中でもよく映えていると思います。
すでに3話を掲載済みですが、その反響の大きさに驚いています。30話のときは抽選で図書カードを、今回の「ボンマルシェ」ではQUOカードをプレゼントしたのですが、朝日新聞を含めた全国紙5紙と地方紙47紙に掲載していた30話のときの1回分と、今回のボンマルシェでの1回分で、ほぼ同じ応募数があったのです。まだ最初の反響でしかありませんが、確実にターゲットをとらえられた、と手応えを感じています。
――今後のコミュニケーションの展望について聞かせてください。
広告には、ブランド広告、カテゴリー広告、ニーズ広告がありますが、どれかひとつに偏ってはいけないと思っています。ブランド広告は当然重要ですし、乳酸菌のリーディングカンパニーとしては、乳酸菌というカテゴリーが腸の健康を保つということ、腸の健康が大切なんだというニーズを喚起することも重要です。マーケットの構造はもちろん、お客さまの目線で、お客さまに何を伝えていくべきかを正確に見極めつつ、それぞれ適した形態の広告を打っていきたいと考えています。