旅を復興の力にしていく意志を国内外に発信

 旅行業者1,181社を正会員に有する社団法人、日本旅行業界(JATA)が、「東日本大震災からの復興に向けた宣言」として、新聞広告で震災後の取り組みを明らかにした。その概要は、国内外に日本の復興をアピールする/地域の状況に応じて旅行の促進をはかる/元気な日本をアピールするために海外旅行を促進し、JATA旅博2011を予定通り開催する/夏の長期休暇取得を支援する/旅行スタイルを提案する/被災地の子ども支援やボランティア活動を推進する、といったものだ。

 震災後の広報活動や新聞広告を活用した理由などについて、総合企画部広報グループ・担当副部長の玉置良吉氏に聞いた。

メディア選びの決め手は公共性

玉置良吉氏 玉置良吉氏

――震災後の取り組みについて、聞かせてください。

 JATAでは震災直後、金井耿会長の号令のもと、JATA海外旅行委員会、JATA国内旅行委員会、JATA広報委員会の中から7名の委員を集め、日本旅行の瀧本勝一常務取締役を長とする復興プロジェクトチームを立ち上げました。ここで、震災の影響についての正確な情報発信が最重要課題であることが確認され、会員各社や一般生活者に向けて広報活動を開始しました。まず、3月15日より震災関連情報サイトを開設し、被災地の行政機関や観光協会から集めた日々の最新情報を発信。4月12日、観光庁長官より業界向けに「観光により『日本の元気』を発信していくことも、被災地への経済的かつ精神的な応援になる」という趣旨のメッセージが出された機をとらえ、15日に「東日本大震災からの復興に向けた宣言」を記者発表し、19日に同宣言を新聞広告に掲載しました。

――新聞広告を活用した理由は。

 JATAは、旅行関連各社が集まり観光庁と連携し活動している公的協会組織なので、情報を発するメディアも公共性の高い新聞、中でも全国紙がふさわしいと考えました。広告に対し、旅行業界からは迅速な対応への評価の他、「ポスターにしたい」など二次的な利用についての要望も多くありました。また、「被災地の子供たちを招待する旅行等を積極的に実施します」という記載を見た被災地の教育委員会などから、具体的にどんなことが実施されるのかという問い合わせもたくさんありました。この取り組みについては、夏休みの早い時期に、岩手・宮城・福島県のお子さんたちを対象に1千人規模でバスで東京へご案内するプランを計画中で、東京ディズニーランド、上野動物園、東京スカイツリーなどが訪問予定地として挙がっています。

――明快なキャッチフレーズが印象的でした。

 「日本を元気に、旅で笑顔に。」というキャッチは、震災前から使用していたものですが、復興に向けた活動とまさに合致するということで、「Cheer up Japan Smile up with Travel」という英文を付けて広げていくことになりました。このキャッチはJATAだけでなく、会員の旅行会社にも広告などで積極的に使ってもらうように働きかけています。

――英文掲載の意図は。

 復興にかける思いを、在日外国人に伝えるねらいがありました。また、海外で日本人客向けの旅行事業やホテル事業に従事している方々や、義援金やお見舞いのメッセージを届けてくださった外国の方々が大勢いる中、主要なメディアで諸外国に向けた意思表示をするべきだと考えました。

2011年4月19日付 朝刊 日本旅行業協会(JATA) 2011年4月19日付 朝刊
2011年4月23日付 朝刊 日本旅行業協会(JATA) 2011年4月23日付 朝刊

風評被害回避のための正確な情報発信を徹底

――震災後の旅行市場はどのような状況でしたか。

 3月の国内旅行は、東北地方への旅行がゼロ近くまで落ち込み、全体で昨年比半減。ゴールデンウイークはやや持ち直し、地域によって1~3割減という状況でした。私たちが力を入れたのは、風評被害で客足が遠のいてしまっている、被災を免れた東北の観光地への誘客で、青森・秋田・山形県や、福島県の会津や坂内など、普通に観光できる地域へは訪れたほうが復興支援につながるということを、ホームページをはじめ記者クラブでも強くアピールしました。その甲斐あって、青森県弘前市の桜祭りなどは大変盛況でした。風評被害対策は、従来の客足に戻るまで続けていかなければならないと思っています。

 依然深刻なのは、訪日客の激減です。特にここ数年急増していた中国、韓国からの訪日客がパタッと途絶えてしまいました。そうした国々への働きかけは主に日本政府観光局(JNTO)が行っていますが、JATAでも各国の観光局や旅行業者を招いて説明会を開くなど、風評被害の回避に努めています。

――4月23日には「もう一泊、もう一度」キャンペーンをアピールする新聞広告を出稿されました。

 「もう一泊、もう一度」キャンペーンは、滞在型旅行を応援する目的で一昨年からスタートしました。日本人は、国内旅行は1泊が主流で、海外旅行も、例えば韓国は2泊3日、ハワイは4泊6日と、短い旅のプランが支持されてきましたが、そうしたライフスタイルに変化をもたらすため、魅力的な滞在型旅行のプランを考案したり、行政や企業に長期休暇が取れる仕組みづくりを要請してきました。そこに震災があり、この夏は、節電対策のため社員に長期休暇を与える企業が大幅に増えることが予想されます。これまで滞在型旅行はシニア層を中心に顧客が広がっていましたが、今夏以降は働き盛りの男女やお子さま連れファミリーも対象となってきますので、国内外の観光局や旅行業者と連携して滞在型旅行プランの多様化をはかっていくつもりです。

 4月23日の新聞広告も、滞在型旅行を推進するコミュニケーションの一貫でした。また、滞在型旅行の魅力を新聞記事でも取りあげていただけるよう、記者クラブに向けて体験取材のあっせんなども積極的に行っています。

――被災地支援の具体的な取り組みは。

 観光地の復興のためのボランティア活動を随時実施していきます。5月27日には、旅行業界の有志を集め、東京から宮城までバス2台を出して人を送り、がれき処理や汚泥処理を行います。6月には、在外公館、各国政府観光局、外資系航空会社の有志がボランティア活動に従事できるよう、東北地方でバスや通訳を手配する予定です。大使付きの報道官などが加われば、正しい情報と、日本が元気であることを海外に発信してもらう機会にもなると考えています。