ヘアケア、スキンケア製品や紅茶などの消費財を扱うユニリーバ・ジャパンは、東日本大震災対応資金として震災発生直後に1億円を拠出したほか、NGOパートナーを通じて数々の製品を緊急支援物資として被災地に送った。さらに1億円を用意し、消費者を巻き込んで「クリック募金」や「ツイッター募金」を実施している。ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス コミュニケーションダイレクターの伊藤征慶氏に、震災後の活動や募金のシステムについて聞いた。
3つの「P」を活動の基軸とし、震災後の対応にあたる
――伊藤さんは災害対策本部のメンバーとのことですが、震災後、どのような取り組みをしましたか。
震災のあった3月11日、私は幕張メッセで開催されていた「Japanドラッグストアショー2011」にユニリーバのブース担当者として参加していました。そこで地震に遭い、混乱の中で午後5時に幕張を車で出発し、中目黒の本社に到着したのは翌朝4時。他の災害対策本部メンバーとともに、直ちに対応にあたりました。その際、3つの「P」を活動の基軸としました。「People」(人)、「Product」(製品)、「Participation」(参加)です。
まず、「People」の活動としては、社員の安否確認を急ぎました。当社は非常時に備えセコムの安否確認サービスを利用しています。11日の時点で大半の社員の安否を確認し、その翌日には東北地方の社員や海外からのビジター10人とも連絡がついて、社員全員の無事を確認できました。
――「Product」の活動とは。
ダヴのシャンプーやラックスのせっけん、リプトンの紅茶など、当社製品を支援物資として被災地にお届けしています。震災直後は現地の詳細情報がわからず、東北方面への交通の多くが不通となりましたが、初動はかなり早かったと思います。それがかなった理由の1つは、ユニセフ、WFP国連世界食糧計画、セーブ・ザ・チルドレン、オックスファムの4団体とグローバルパートナーシップを結んでいたため、各団体を通じて現地のニーズを迅速に把握できたこと。もう1つは、当社のある目黒区が宮城県気仙沼市と姉妹都市で、例年「目黒のさんま祭り」に気仙沼からサンマを送ってもらっている関係があって、目黒区長に気仙沼市と結んでいただき、車両の特別通行許可証を発行していただいたのです。おかげで震災の翌週には物資を届けることができました。これまでにシャンプー、コンディショナー各34,000個、せっけん82,000個、制汗剤16,000本、ティーバッグ200箱などを被災地に提供しています(5月6日現在)。震災直後はお風呂に入れない状況が続いたため、リフレッシュシートや制汗剤は大変喜ばれました。
その一方で、被災地以外の皆さまへの製品の安定供給にも尽力しています。全国からの製品受注を行っていた栃木県芳賀町の受注センターが被災しましたが、震災直後の土日に東京に受注機能を移し、週明け月曜日には通常通りの製品供給を再開しました。
――「Participation」の活動とは。
物資を送るだけでなく、人が動いて支援できることはないかと考え、社員が参加できる活動と、消費者の皆さまに参加していただける活動を、それぞれ実施しています。社員は被災地に送る物資の仕分けにあたりました。被災地といっても、地域によって必要な物資に差があります。支援団体を通じて「この町ではせっけんが足りない。あの避難所では下着が足りない」といった情報を集め、衣料メーカー、飲料メーカー、玩具メーカーなどとも協力し、せっけん、下着、水、おもちゃなどを配送しました。東京周辺でのボランティア活動なら多くの社員が継続して参加できます。仕分け作業にはレイ・ブレムナーCEOも参加しました。
消費者の皆さまには、4月20日から「ユニリーバ東日本大震災募金」サイトを立ち上げ、「クリック募金」と「ツイッター募金」への参加を呼びかけています。サイトの募金ボタンをクリック、あるいはツイッター上に投稿すると、1アクションにつき1円をユニリーバが寄付するという仕組みです。それに加え、寄付いただいた金額と同額を当社が寄付する「ダブルチャリティー」も実施しています。この方法でなら、より多くの方と一緒に長期にわたる支援ができます。クリックとツイートは1日2万件を超え、寄付総額は2,839,866円に達しています(5月31日現在)。
支援活動の礎となる創業者のビジョンを新聞広告で示す
――4月27日に展開した新聞広告のねらいは。
ユニリーバは、1890年代にイギリスのウィリアム・ヘスケス・リーバ卿が興したリーバ・ブラザーズが前身です。リーバ卿は、衛生状態の悪かった当時のイギリス社会を憂え、安価で高品質なせっけんを開発し、人々に貢献しました。小さなせっけん1つにも世の中を大きく変える力があるという彼の信念は、「Small actions, Big difference(小さな行動が大きな力に)」という現在のビジョンや、皆さまの小さなアクションが積み重なっていく「ユニリーバ東日本大震災募金」にも受け継がれています。今回の新聞広告では、そうした企業としての想い(おもい)を紙媒体できちんとお伝えしたいと考えていました。また、パートナーシップを組む団体を明示し、お金の使い道を透明にする意味でも新聞広告は適した媒体でした。ビジュアルは復興への願いを込めて折り鶴を配し、同じ体裁の英語版広告をジャパンタイムズにも出稿しました。
広告を出稿した27日には、ウェブサイトへのアクセスが急増しました。今後も「ユニリーバ東日本大震災募金」を通して、皆さまとともに継続して支援をしていきます。
――新聞メディアの特性について、どのような印象を持っていますか。
私は携帯サイトでニュース速報をチェックすることもありますが、情報を深く理解したいときには断然新聞が有用です。新聞は、時間がないときも見出しの大きさを追うだけで重要な情報をインプットできます。どの見出しも同じ大きさの携帯サイトではそうはいきません。新聞社によって違う視点を読み比べられるところも魅力だと思います。
――震災に関する最近と今後の取り組みについて。
ユニリーバは世界170カ国に16万7000人の社員がいますが、ロンドン本社の呼びかけにより各国の社員の間で支援の輪が広がっています。集まった支援金はすべて震災復興に役立てていくつもりです。
5月5日のこどもの日には、セーブ・ザ・チルドレンの方々と一緒に6カ所の被災地を巡り、子ども向けの劇を催したり、お菓子を配ったりしました。震災をきっかけに、より密接になった各NGOパートナーとのつながりを今後も大切にし、被災地復興のサポートを続けていきたいと思います。