今年3月1日、2005年に発売を停止していたヤクルトのビフィズス菌飲料「ミルミル」が生まれ変わって新登場した。販売数は当初の目標を大きく上回り、1日約50万本の大ヒット。ブログやツィッター上でも「ミルミルが復活した!」「早速購入!」などと話題になった。復活の背景について、広告部部長の平野淳氏に聞いた。
ビフィズス菌製品の原点を復活し、大人世代に訴求
──「ミルミル」ブランドの復活の経緯について、聞かせてください。
当社は創業以来、予防医学の立場から、人の健康に役立てるための有用微生物利用に関する研究を続け、その一つとしてビフィズス菌に着目してきました。 商品化の先駆けが「ミルミル」で、発売開始は1978年。のちにプラスαの成分を付加した「ミルミルE」「ビフィール」というブランドも加わりました。ただ、ブランドの分散化によりビフィズス菌の健康価値についての訴求が弱まり、消費者の獲得が思うように進まない問題に直面しました。
そこで、2005年に「ミルミル」「ミルミルE」「ビフィール」を終売し、これに代わる新ブランド「ビフィーネ」を立ち上げました。1品はスーパーやコンビニにおける店舗展開、2品はヤクルトレディーを通じた宅配展開で、滑り出しの売上合計は従来の3品合計を上回りました。その後は、基幹商品の「ヤクルト」シリーズに重点を置いてしまったので、5年を経てコミュニケーション不足が売り上げに響き始め、再度ビフィズス菌飲料の立て直しをはかることになりました。
立て直しにあたっては、機能的な付加価値を総ざらいし、もう一度シンプルなビフィズス菌飲料に立ち戻ること、さらに、トクホに縛られないことを重視しました。トクホ商品の乱立により、以前のような「新価値観」が薄れているうえ、認可が下りるまでに時間がかかり、時代のニーズに応じた即時の商品改良ができないデメリットがあるからです。そうした中で、当社のビフィズス菌製品の原点であり、ブランドのイメージストックのある「ミルミル」ブランドの復活に至りました。
──新「ミルミル」のマーケティング戦略のポイントは。
復活以前の訴求先は、子どもから高齢者まで、幅広い層をターゲットとしていましたが、新「ミルミル」は主に大人をターゲットとしています。これは、「加齢とともに腸内のビフィズス菌が減る」という当社の研究・治験に基づくものです。また、店頭と宅配の両方で展開するブランドとし、新発売時、店頭では電子POPなどを活用して重点的に訴求、宅配ではヤクルトレディがお客様に直接商品の特長をお伝えしました。
広告クリエーティブは、今の大人世代にとっては懐かしい、クレイアニメで描いた「ミルミル」誕生当時の広告の世界観を打ち出しました。この「ノスタルジーの喚起」が、ヒットの大きな要因だったのではないかと考えています。ただ、そうした一時的な心理だけでは購買の継続につながらないので、現在は「加齢によって減るビフィズス菌を補給できる」という機能性の訴求に努めています。
ビジュアルが功を奏した新聞広告
──ヒットの手ごたえは。
当初の販売目標1日あたり25万本を大きく上回り、50万本を記録。4~9月の平均は約40万本でしたが、10月4日から発売したシリーズ商品の「ミルミルS」に移った購買層も多いので、ビフィズス菌ブランド全体では前年の2倍と好調を維持しています。なお、「ミルミル」については、宅配8:店頭2だった売上比率は、広告投入直後の4月は、宅配5:店頭5となり、店頭の売れ行きが急伸したのも特徴的でした。
──今後の課題は。
当社商品の購買層の8割は50代以上ですが、今後は新「ミルミル」の訴求を中心に20~40代にもシェアを広げていきたいと考えています。また目下、ダイレクトレスポンス広告にも力を入れ始めています。現在ヤクルトレディは全国に約4万3,000人、営業拠点は約2,600カ所に及びますが、単身世帯の増加、会社のセキュリティー強化などにより、お客様との接点は狭まっており、新しいコミュニケーションチャネルを模索していかなければならないと思っています。
──新聞広告の効果をどのように実感しましたか。
前述したように、今回の成功のカギは、初期の広告イメージの再現にあったと思います。その意味で、新聞広告の明るくカラフルなビジュアルは、意図した以上に消費者の深層心理に働きかけるものがあった気がします。また、「お客様から広告を見たと声をかけられた」というヤクルトレディも多かったです。当社の販売業績は、ヤクルトレディ主導で動くのが通常ですが、新「ミルミル」に関しては広告主導で成功した事例だったと思います。新聞広告は全15段をはじめ天気予報欄下の小型広告も展開し、テレビ欄の注目度の高さも確認できて、ダイレクトレスポンス広告の展開面としても可能性を感じました。