集英社は、「『週刊少年ジャンプ』300万部発行再開」(2009年12月4日付)、連載コミック『銀魂(ぎんたま)』の映画公開(10年4月30日付)といった週刊少年ジャンプ関連の告知広告を、朝日新聞朝刊で展開。斬新な紙面の使い方が、ブログやツイッターなどクチコミで話題となり、大きなムーブメントとなった。ねらい、反響などを、集英社宣伝部雑誌宣伝第一課課長の武田冬門氏に聞いた。
大胆な新聞広告を起点に
予想を超えたバズが生まれた
――週刊少年ジャンプ関連の告知を、新聞を使って大々的に展開しました。経緯を聞かせてください。
そもそも、新聞が持つ強みに非常に着目していました。その強みとは、記事なり広告なりを見る人が、ほぼ同じ時間に同じ情報を共有できる「唯一無二」の媒体である、という特性です。ウェブは即時性があると言われますが、「見よう」という強い意志を持っていないと、実際にその情報を見るのは2日後や3日後になってしまうかもしれない。その点、新聞はたいていの家庭に早朝には配達され、朝起きるとみんながほぼ同じように読むことができます。こうした媒体は新聞しかありません。その特性を利用し、見た人が一斉に「おや?」と感じるものを載せたらおもしろい展開になるのでは、という発想から、一連の広告企画を考えました。
――それぞれの概要、反響を聞かせてください。
「『週刊少年ジャンプ』300万部復帰」の広告は、同誌連載の人気コミック『ONE PIECE(ワンピース)』の人気キャラクターを起用し、同日の朝刊紙面のうち9面にわたり全面広告を掲載しました。同誌は1968年の創刊以来、発行部数が650万部を超えた時期もありましたが、90年以降は減る傾向にありました。しかし、人気の連載が充実することで徐々に増え、2010年には300万部に復帰することができました。そこで、告知とともに読者の皆さんへの感謝の気持ちを伝えたいと考えました。ただ単に告知するだけではつまらないので、読者の皆さん、そして『ONE PIECE』のファンの方々が「今朝の朝日新聞見た?」という会話から一日がスタートするようなものにしたかった。ある程度、ウェブ上でバズが起きることは予想してはいましたが、ファンの間では、この日の朝日新聞という「宝」を探し求める冒険者たちになろう、というような一体感を持つムーブメントにまで昇華しました。ここまでは想像もしていませんでした。『ONE PIECE』の作品の世界観ともうまくリンクできたのかもしれません。
正直、9面もの全面広告という、これまでに見たこともないような手法を、同誌で一番人気のある『ONE PIECE』のキャラクターを使って展開することは、ともすればサプライズが過ぎて当社がはしゃいでいるような印象を与えるのでは、と危惧(きぐ)しました。しかし、読者やファンの皆さんは「朝日新聞を探す冒険者になれた」と楽しんでくれた。当社の感謝の気持ちを素直に受け止めていただけたと、とてもうれしく感じています。
この取り組みを受けての次の一手が、『銀魂』の広告でした。『銀魂』という作品は、どちらかというと社会を斜めから見るようなテイストがファンに受けています。そこで、複数の全面広告でインパクトのあった『ONE PIECE』から一転、全5段広告1本と小型広告6本、テレビ面表札1本を掲載しました。やはりファンの間では非常に受け、サイト上などで話題になりました。多かったのは「朝日新聞で『銀魂』らしいジャックをやっていた」というような反応です。おそらく、『ONE PIECE』を使ったときのように全面広告を何本も掲載するような手法だったら、『銀魂』のファンからは「『ONE PIECE』のマネじゃん」と不評だったかもしれません。小型広告というのが、『銀魂』らしさを表現できたと手応えを感じています。
「唯一無二」の新聞の真価を見直し
驚きの先にある新鮮なコミュニケーションを
――大型企画が成功をおさめましたが、新聞広告の特性、効果についてどう考えていますか。
インターネットが普及したり、新しい形態のメディアが登場したりしている今だからこそ、新聞というメディアを広告媒体としてもっと真剣に考えると、かなりの人にリーチできるものが作れると確信しています。紙にきちんと印刷されたものが、ほぼ同時に1千万近い家庭に届く媒体はほかにはありません。そして、新しいメディアが登場したことにより、新聞の特性を改めて意識し、新聞の可能性は広がったようにも感じます。たとえば今回の「週刊少年ジャンプ」の企画にしても、ネットがなかった時代には、広告を見て「おや?」と思っても、せいぜい学校や職場で話題にする程度でした。それが今は「おや?」と思った瞬間にネットに書き込めば、やはり同じように感じている人が「オレも見た」というように反応し、共有性を認識することができます。インターネットが台頭してきたころ、新聞とネットを対比する動きがありましたが、私は両者は対立するものではなく、補完し合う関係にあると見ています。そういう意味では、ネットの普及によって新聞が脅かされることはないと思いますし、むしろできることの幅がより広がったとも見ています。
――今後の展望について聞かせてください。
繰り返しになりますが、新聞の媒体特性は唯一無二のものだと思っているので、「とりあえず新聞広告を打つ」というような使い方をするつもりはありません。新聞の特徴をよく吟味した上で、どういう打ち方をすれば読者にもっともリーチできるのかを考えます。新刊が出るからとそれを告知するだけで、何のサプライズもなければ、それは新聞広告を使ったただの「お知らせ」で終わってしまいます。
また、最終的な目的である売り上げについても、新聞広告だけで動くほど今の読者は甘くないと思います。「あっ!」と思うような驚きを持って新聞広告を好意的に受け止めてくれ、それがネットでクチコミ的に広がり、さらに今回で言えば「300万部復帰」や「映画公開」といった様々な要素が一点に集約されたときに、大きなバズが起きるのでは、と。色々な要素が有機的に結びつくような、サプライズがあって見たこともないような企画を、これからも打ち出していきたいですね。