昨年10月、ソニーは水銀0%のアルカリボタン電池「水銀ゼロシリーズ」を発売。以前から無水銀化を実現している酸化銀電池を含む、アルカリボタン・酸化銀・リチウムコイン電池全体での水銀ゼロ化を広告展開している。マーケティング全般を指揮するコンスーマーAVマーケティング部門 メディア・バッテリー&AVペリフェラルマーケティング部 メディア・バッテリーMK課 統括課長の三村幸司氏と、メディア戦略を練った広告宣伝部門宣伝企画部PR&媒体企画課 メディアプランナーの杉原周平氏に話を聞いた。
「身近で小さなエコ活動」という位置づけ
――「水銀ゼロ」シリーズはボタン電池という小さな商品ですが、新聞の全15段広告や小型広告シリーズ、テレビCM、雑誌タイアップなど大々的に広告展開され、メーカーとしての意気込みを感じさせます。
三村氏 ソニーは2005年から酸化銀電池の無水銀化を実現、商品化しています。これは世界初であったにもかかわらず、大きく広告をしていませんでした。酸化銀電池の用途は主にクォーツ腕時計用でありB to Bの流通であることが多く、一般消費者が店頭で購入されることはわずかだからです。一方、アルカリボタン電池は、小型電気機器やゲーム機、おもちゃなど身の回りのさまざまな製品に使われるものですから、今回の無水銀化は消費者メリットがより明確です。
そこで、酸化銀電池もアルカリボタン電池も「すべてソニーは無水銀化しました」と伝えることで、より大きなニュースとして世の中に届けることにしました。その上で環境へのやさしさを感じさせる緑を基調とした統一パッケージデザインの開発や、商品の棚での見え方といった戦略を考えています。
――コミュニケーション戦略全体の考え方は。
杉原氏 アルカリボタン電池の無水銀化は、技術的に酸化銀電池の場合と比べて非常に難しいものです。ボタン電池に使われる水銀の役割は、電池の負極内でのガス発生の抑制です。酸化銀電池の無水銀化では、負極材の改良に加えて、正極材である酸化銀のガスを吸収してくれる性質を利用することができました。アルカリボタン電池の正極材として使う二酸化マンガンはそのような性質はなく、無水銀化にはさらに新たな技術が必要でした。
ただし、そういった技術的な苦心を伝えても、お客様に「自分ごと」として受けて入れてもらえません。ソニーでは、年間約3億個という圧倒的なボリュームのアルカリボタン電池と酸化銀電池を販売しています。これらが水銀ゼロになったら、世の中にどういったインパクトを与えられるのか考えた時、「ちっちゃなエコから始めよう。」というコピーがぴったりくると思いました。一人ひとりの小さな行動の積み重ねが社会を変えていくのだという生活者視点を大事に、「ゼロ」という引きのある言葉を使っていくことにしました。
――商品の環境性能が消費者の購買に影響を与える時代になったとはいえ、電池に関しては消費者が環境負荷と関連づけて意識したことは少ないと思われます。
三村氏 インターネット調査によれば、ボタン電池の購入時にお客様が気にする情報は型番、使用推奨期限、プラスマイナスが分かるか程度です。水銀が入っているということは、もともと知らない方がほとんどでした。だからこそパッケージに「水銀ゼロ」ということを明記して、その事実を商品に接触した時に知っていただくようにしました。その一方で広告宣伝には、無水銀化による環境負荷の低減効果を伝える大きな波を起こしてもらうという連係を考えています。
杉原氏 筒型電池は買い置きされている方も多いと思いますが、ボタン電池は電池が切れた後でそれを持って近くのコンビニなどに買いに行くという購買行動が想定されました。つまり広告を見て「とてもいい」と思っていただいても、その瞬間に買いに行くような商品ではないのです。購入のタイミングまで「水銀ゼロ」への気持ちをすり込んでおいて、店頭で見たパッケージでリマインドされるという流れを生み出すことを意識しています。
新しいニュースに信憑(しんぴょう)性を加味できる新聞広告
――今年2月28日には朝日新聞朝刊に全15段のカラー広告を掲載しました。新聞を使われた狙いは。
杉原氏 新聞広告は、しっかり読んでもらおうという気持ちと、拾い読みでもなんとなく私たちのメッセージをつかんでもらおうという背反する狙いをもって制作しました。一番の目的は店頭に行かれるまで、「水銀0%」という言葉と緑のパッケージの印象を持っていただくことだったので、それが引き立つように色の使い方に配慮しました。
次に「電池の話をしているんですよ」ということを一目で伝えるために、さまざまな製品のグラフィックよりもその中に使われている電池の存在を感じてもらえるようなビジュアルにしました。そしてより深く関心をもたれた方には、しっかりと文章を読んでいただく、といった大きく3つの目的で構成しています。
信頼性の高いメディアである新聞での広告展開は、読者に「自分ごと」としてとらえてもらえる説得力が高いのではと期待しました。また、生活者が日常的に接する新聞というメディアで水銀ゼロのメリットをコンスタントに訴えることが重要だと考え、小型広告も展開しました。
――消費者からの反響はいかがですか。
三村氏 商品の性格上、すぐに売り上げが跳ね上がるとは期待していませんでしたが、じわりじわりと今も売り上げを伸ばしています。北海道のあるスーパーで、ボタン電池を全部弊社の「水銀ゼロ」シリーズに切り替えていただいたところ、売り上げが急に伸びたというお話もうかがって、私たち自身も驚いています。新聞を使ったことは、販売店に対して「小さなボタン電池の広告に、ソニーがこれだけ力を入れているのなら」と応援していただける後押しになったとも思っています。
杉原氏 お客様からいただいた反響の中でうれしかったのは、「電池の話を通じて、ソニーの環境への姿勢がよく理解できた」との声を多くいただけたことです。私たちの技術を、生活者にとってベネフィットのある身近なニュースにすることが広告の大きな役割です。特に環境分野に関しては、そのことを忘れてはならないと思います。
◇媒体資料「朝日新聞にみる環境広告」はこちらから:
http://adv.asahi.com/modules/media_kit/index.php/kankyo_tokyo.html