昨年5月、日本コカ・コーラが発売した新商品「い・ろ・は・す」。日本人が親しむ「いろは」の3文字と、環境や健康志向を意味する「LOHAS」をかけ合わせ、国産の天然水であることを表現している。コンパクトにリサイクルできる「しぼれるボトル」が特徴的な同商品は、環境を訴求したミネラルォーターとして成功をおさめ、520ミリリットルボトルの販売は、初年度3億本を突破した。マーケティング本部・ウォーターカテゴリー総括部長の福江晋二氏に話を聞いた。
エコへの取り組みを商品に特化
――環境に目をつけた理由について、聞かせてください。
ミネラルウオーターの市場において、いかにニュース性のある商品を打ち出し、シェアを広げていけるか。そう考えた時に目をつけたのが「エコ」でした。折しも開発を始めた2008年は、女性誌などでエコバックが取りあげられたり、ミュージシャンがステージで環境を訴えたりという動きが活発化し、エコに対する関心が若い人たちの間で急速に高まっていました。また、弊社が全世界で展開している事業指針「Live positively(世界をプラスにまわそう)」の一つに「環境」があり、省資源のパッケージなどにすでに取り組んでいたこともありました。
商品の中身は、フードマイレージを短縮できる地産地消の発想のもと、国内の5カ所(現在は6カ所)で天然水を採水。消費者の心をつかむために「おいしさ」は必要不可欠と考えていましたが、なるべくその土地土地で慣れ親しんだ味を提供することで、これを実現しました。
――「しぼれるボトル」を訴求することになった背景は。
ボトルの重さは12グラムで、従来の自社ブランドと比べ40%の大幅削減に成功。キャップも10%軽量化し、ラベルもはがしやすくなりました。ただ、それを言葉で訴えても消費者にはいま一つピンとこないだろうと。一方で、環境省の調査に、「環境に配慮した製品を選びたい、使いたい」という消費者が多いわりに、「具体的に何をしたらいいかわからない」と回答する人が多いとのデータがあり、飲料という身近な商品を通じて「より具体的な何か」を提供したいとの思いもありました。そこで生まれたのが、ボトルをしぼるアイデアです。いわば「エコの可視化」で、しぼった時の手の感触や音も含めてアクションを実感できる。最初にデモンストレーションして見せたのは、500~600人規模の全国ビジネス会議の場でしたが、営業マンの間から驚きの声があがりました。
「天声人語」の横に広告を展開しメッセージを浸透
――コミュニケーション戦略は。
パッケージや広告表現においては、「ポジティブ」「チャレンジング」「アクティブ」「オープン」という4つのイメージを打ち出し、ブランドパーソナリティーの確立を目指しました。導入期のターゲットは、輸入ブランドの購入者層。プレス発表会のほか、テレビCM、交通広告、雑誌タイアップ、ウェブなどを通じて一気にメッセージを発信し、認知向上をはかりました。また、「い・ろ・は・す」に寄せたセレブリティーの環境メッセージの発表会や、ペットボトルで絶滅の危機に瀕(ひん)した動物を作って展示するイベントなども開きました。
今年4月からは、植物由来の素材を一部使用した「プラントボトル」への切り替えも始まり、「しぼれる」という特性からさらに踏み込んだ環境メッセージの発信に努めています。中でも同月に開始した朝日新聞の「天声人語」横のシリーズ広告は、「記事を読む感覚で楽しめる」と、大変好評をいただいています。6月の掲載日に菅直人首相誕生の記事が上に載った時にはさらに注目度アップが期待でき、うれしかったですね。
5月には、「い・ろ・は・す環境シンポジウム2010」を開催。約200名の参加者が、「世界を変えるために、今すぐ自分にできること」について話し合い、一人ひとりがこれから行う自らの「エコ・アクション」を宣言しました。その模様は、雑誌、ウェブ、テレビCMなどで随時紹介しています。
――消費者からの反応は。また、ヒットの理由をどう分析しますか。
当初、購入者層は20~30代男性のコンビニ利用者が多いだろうと見ていましたが、「子どもにエコを教えたい」という母親層や、「ゴミを持ち帰る時に小さくなるので便利」という登山者など、予想以上の広がりを見せています。また、ミシュランで三ツ星を獲得したシェフの推薦の声など、おいしさへの評価もいただいています。
おかげさまでヒット商品となりましたが、実は開発時、「環境で売れた飲料はない」という指摘も内部でありました。あらためて成功の理由を振り返ると、時代の流れもあったでしょうし、消して無理強いはせず、「おいしい水を飲むだけでできる、簡単な環境アクション」を提案したことが、よかったのかなと思います。
――御社の環境問題への取り組みを、「い・ろ・は・す」を通じてどのように打ち出そうとしていますか。
環境問題は、企業をあげて地道に取り組んできたことですが、商品そのものでアピールできたことは意義深く、次のビジネスへの弾みになると考えています。「い・ろ・は・す」の成功は、世界中のコカ・コーラでも共有されており、すでに台湾や中国では、同様のコンセプトに基づいた製品展開も始まっています。
――今後の取り組みと抱負をお聞かせください。
6月より1,020ミリリットル入りの「い・ろ・は・す」を販売、愛飲者の期待にこたえていきます。さらに7月から温州みかんフレーバーの「い・ろ・は・す」を販売、ミネラルウオーターを買わない層の取り込みも目指します。短命の商品も多い飲料業界において、「い・ろ・は・す みかん」のようなブランドをきっちりと根付かせていくことは企業責任だと思っています。そういう意味で今年は正念場。おいしくて環境にいい商品であることを、継続してアピールしてきたいですね。
◇媒体資料「朝日新聞にみる環境広告」はこちらから:
http://adv.asahi.com/modules/media_kit/index.php/kankyo_tokyo.html