「せんとくん」が古都・奈良の1年にわたる広域イベントで大活躍

 頭にシカの角、額中央には大仏の白毫(びゃくごう)のようなチャームポイントを宿した童子、「せんとくん」。2010年の1年間、奈良県全域で開かれている「平城遷都1300年祭」をPRする公式キャラクターは、いちど見たら忘れられない強烈なインパクトがある。「せんとくん」を軸に展開中のプロモーションや記念事業、ライセンスビジネスについて、平城遷都1300年記念事業協会広報室長の林成光氏と平城遷都1300年記念事業マスターライセンスオフィス所長の石崎裕氏に話を聞いた。

 

地元特産品を含む約190のライセンス商品

林成光氏 林成光氏

――「せんとくん」誕生の経緯を教えてください。

 「平城遷都1300年祭」公式キャラクターの提案は、広告会社3社にプロポーザル方式で委託したところ、12人のデザイナーによる21作品が挙がってきました。その中で、イベントの趣旨に合っているか、奈良県の特徴が入っているか、訴求力があるかという3つの視点から、学識経験者10人によるデザイン選定委員会で決めたのが東京藝術大学大学院教授・彫刻家の籔内佐斗司(やぶうち・さとし)さんの作品です。ネーミングは公募により、「せんとくん」に決定しました。

――「せんとくん」を活用したプロモーション展開が盛んですね。

 2008年8月19日の500日前イベントで、「せんとくん」が登場。アップテンポの「せんとくんなら知っている」の曲に乗って「せんとくんダンス」を披露し話題になりました。その後、県外キャラバンや各種イベントのステージなど、時には「瞬間移動の術」までも使って(笑)大活躍してくれています。登場するたびに、若い女の子たちが携帯電話で写真を撮ろうとしてくれるので、非常に手ごたえを感じています。これまで奈良の代名詞といえば、天然記念物のシカと東大寺の大仏でしたが、「平城遷都1300年祭」を機に、奈良の守り神・シカの化身の「せんとくん」も加わったといえるでしょう。

石崎裕氏 石崎裕氏

――ライセンスビジネスも広がっていますね。

 ライセンス管理業務もプロポーザル方式で公募。販売管理業務を含めて提案した近鉄百貨店が受託しました。ライセンシー企業の申請は、商品、景品、広告宣伝などデジタルコンテンツも含めてあらゆるジャンルに及びますが、一つひとつの案件について「せんとくん」の人格、背景、世界観を損なわないものであるかどうかをチェックしています。スタッフはデザイナー1人を含む6人体制で、多い日は40件もの申請に応対することもあります。企業の半分は地元企業で、ライセンスについて詳しくないケースもありましたが、公平性と公開性をモットーに、首尾一貫ブレない姿勢で理解を求めていきました。
ライセンス商品は、メーン会場オープン直前の4月20日時点で約190アイテム。平成21年1月29日にオフィシャルショップを立ち上げて販売をスタートしたことが、全国紙やテレビ局5社で報道されてから一気に認知が高まりました。東京では、日本橋三越前の奈良県のアンテナショップ「まほろば館」で購入できます。
売れ筋は菓子、ステーショナリー、雑貨などですが、切手は初回分がすでにほぼ完売。第2弾も発売されます。ユニークな形状から、ぬいぐるみやフィギュアの製作には苦労されたようですが、4月24日のメーン会場開幕には間に合いました。奈良県酒造組合では、清酒発祥の地と言われる正暦寺で生まれた酵母「奈良うるはし」を使った清酒を26の蔵元が仕込み、統一銘柄で売り出しています。このほかドリンク剤、奈良県産の銘柄米(ひのひかり)、特産のイチゴや柿を使った商品なども出てきています。
告知協力では、面白いアイデアを実現していただいたものもあります。奈良交通などのラッピングバス、地元運送会社がボディーに「せんとくん」を描いた4トン車で夜の高速道路を走って九州まで行く、という迫力のあるものもありました。

 

魅力の認知を広げて2011年以降の基礎に

――「平城遷都1300年祭」記念事業の概略を教えてください。

 大きな特徴は、広域型イベントだということです。奈良県には、3つの世界遺産(法隆寺地域の仏教建造物・古都奈良の文化財・紀伊山地の霊場と参詣<さんけい>道)、200を超える国宝や多数の重要文化財がありますが、今年、52社寺が秘宝・秘仏を特別開帳します。1年を通じて県内各地の魅力的なスポットを周遊・探訪していただけるよう、春、夏、秋に、地域ごとにスポットをあてイベントを実施するなど、継続的に盛り上がりを仕掛けていきます。
メーン会場の平城宮跡(奈良市佐紀町)は、県内各地へのゲートウエーと位置づけています。完成したばかりの第一次大極殿、遣唐使船の復原展示、朱雀門ほか、歴史や文化を体感できる施設も設けています。交流広場のまほろばステージでは、11月7日(日)までの連日「せんとくん」が登場し、来場者とふれあいます。

平城遷都1300年祭のマスコットキャラクター「せんとくん」

せんとくん愛嬌(あいきょう)のある表情が印象的な「せんとくん」
せんとくん着ぐるみはイベントで大活躍
せんとくんぬいぐるみをはじめ
せんとくんグッズも多数展開
復原された第一次大極殿平城宮跡には、第一次大極殿を復原
遣唐使船の復原展示全長約30メートル、マスト高約15メートルと、
原寸大で復原された遣唐使船

――新聞などのメディアを、どのように活用していますか。

 主にパブリシティーを活用して、様々な角度から奈良の魅力を全国に発信していくという手法をとっています。「せんとくん」というシンボライズされた存在がいることは、世の中の関心を集める上で、非常に効果的だったと思います。県内で新しいキャラクターが誕生したり、関西圏の各地域と様々な交流が生まれたことも、認知の広がりを生んだと思います。

2009年12月30日付朝刊2009年12月30日付朝刊
2010年1月1日付朝刊2010年1月1日付朝刊
2010年4月24日付朝刊2010年4月24日付朝刊

――最後に今後の抱負とウェブ「広告月報」の読者へ向けた一言をお願いします。

 今年の「平城遷都1300年祭」は決してゴールではありません。1年かけて奈良の魅力を多くの方に気づいていただき、そこから奈良県の新しいステージが始まると考えています。奈良は、近年人気を集める体験型・学習型の旅にマッチした場所です。昨年は興福寺の国宝「阿修羅展」が東京や九州で大きなブームになり、歴史や仏像に心魅(ひ)かれる人々が多いことを印象付けました。
万葉のころの光景がそのまま残り、日本人にとってかけがえのないものがある。日本を代表するデザイナー故・田中一光さん(1930-2002)も奈良市の出身でしたが、おおらかで壮大な空気に満ちた場所は、クリエーティブに携わる人たちにとっても、新たな発想を生み出してくれる貴重な場所になりうるのではないでしょうか。