光文社のファッション誌『STORY』は、2002年の創刊以来、40歳前後のアラフォー世代を中心に高い支持を得てきた。同誌と、姉妹誌『美STORY』の編集長を務める山本由樹氏に、今のリアルな40代女性について語ってもらった。
「したたかわいい」が気分
感性で選び取る新しい40代がやってきた
――『STORY』は創刊から何度か誌面をリニューアルし、その都度インパクトのあるキャッチコピーを掲げてきました。その背景と経緯を聞かせてください。
02年の創刊時、「40代女性」の主流は外に出る機会があまりない専業主婦でした。そこで「外に出なければキレイになれない」というキャッチコピーで、外に出かけるためのファッションを提案。積極的に外出することでライフスタイルが変わり、一人の女性としてもっと輝ける、というメッセージを込めました。07年には、「40代、もう一度女を頑張ろうよ!」というキャッチコピーで、強さやポジティブなセクシーさを前面に打ち出し、表紙モデルも黒田知永子さんから清原亜希さんに交代しました。そして今年4月、「ニッポンの40代はもっともっと若くなる!」という新しいコンセプトで動き始めました。
STORYは当初から、40歳前後のいわゆるアラフォー女性の生き方とファッションを中心に語る、というコンセプトがありました。読者の年齢は数年たてば上がります。特に今の40代は5歳違うと、経験も、そこから得てきた価値観もまったく違います。実際、私は創刊時から誌面づくりに携わってきましたが、5年くらいの単位で違うタイプの40歳が出てきました。その読者層の変化とともに、コンセプトをリニューアルしてきたのです。
――現在のアラフォーの特徴は。
8年前のアラフォーは、女子大生のときにハマトラが大流行し、フクゾーのポロシャツ、ミハマの靴、キタムラのバッグという、ある種制服のようなファッションをしていました。情報源は『JJ』を代表とするファッション誌で、「雑誌から学ぶ」というスタンスだったのです。しかし現在のアラフォーは、渋カジの第1世代。渋谷で言えばシップスやビームスといったセレクト系のショップで、自分に似合うファッションを自分のセンスで探してきた人たちです。感性で選ぶ。そして、自分が納得しなければ動かない。それが現在のアラフォーの特徴だと思います。
感性で選び取っていく今のアラフォーは、半年前までタブーだったことが、今シーズンはOKになったりします。たとえば、少し前まで絶対に生足は出したくない、ミニスカートはレギンスなしでは無理、と言っていたにもかかわらず、この春は生足でミニスカートをはき始めているんです。07年から強さ、ポジティブなセクシーさをコンセプトにしてきましたが、不況となった今、「強さが決して得にならない」と彼女たちは感じ始めています。妻がかわいくなることは夫にとってもうれしいわけで、夫婦関係にもプラスに働くはずです。そうしたことを今のアラフォーは無意識のうちに感じ、「強い」から「カワイイ」にシフトしてきている。いい意味で、すごく「したたか」だな、と思います。『STORY』ではずっと「大人カワイイ」をうたってきましたが、より高度な「したたかわいい」を追求していきたいですね。
――40代女性のライフスタイルも変わってきているのでしょうか。
先ほど、創刊当時の40代女性は多くが専業主婦で外出する機会があまりなかった、と触れましたが、今のアラフォーは、仕事をしていたり、専業主婦でも積極的に外の世界とつながっていたりするなど、日常的に外に出ていて、「週末くらいは家で過ごしたい」と思っています。外出の機会が多く、ファッションの幅も広がってきているので、かつての40代より見た目も若々しくなっていると思います。それでいて、普段の生活は丁寧に過ごしたいと考えているようです。見た目は若々しくてかわいいけれど、地に足が着いている。それが今のアラフォーが手に入れたいライフスタイルだと見ています。
ページを開くことでライフスタイルが変わる
「生活必需品」としての雑誌を目指す
――誌面づくりで心掛けていることは。
ファッションを雑誌から「学んで」いたかつての読者層は、たとえば「ママ友とのランチ」「保護者会」「夫の実家に帰るとき」といった具合に、TPOに合わせてファッションを語ればよかった。しかし今のアラフォーは、感性で選びとるので、そのやり方ではもう読者はついてきません。4月から、表紙の新モデルになった富岡佳子さんは、この世代のアイコン的存在です。これまで色々なファッションを経験してきて、感性で好きなものが分かっています。そして、その感性はどんどん進化している。正直、富岡さんのセンスに雑誌を預けている部分が大きいですね。彼女の進化し続けるセンスで40代の読者を引っ張っていってもらいたいと思っています。
また、『STORY』は創刊当時から、読者モデルや読者ライターなど、読者自身が発信する情報に力を入れてきました。編集部が一元的に情報を作って、上から発信しても説得力がない。私たちが「このファッションをはやらせよう」と作り始めたらダメだと思います。消費者が一番信用する情報源はクチコミです。アラフォー自身が知っているリアルな40歳のおしゃれなファッションを発信していく。そのことには、これまでもこれからもこだわっていきたいと考えています。
――『STORY』の読者層よりは少し上になりますが、50代の女性をどう見ていますか。
『STORY』に「女は『一生現役』主義」という人気連載があります。毎回、年齢を重ねた大先輩の女性たちが登場するのですが、みんなとてもキラキラしていて、かわいいんです。確かに40代より50代、50代より60代……と、肉体という「入れ物」は衰えていきますが、女性はオンナを辞めることは一生ないんだと思います。ファッションについては、入れ物に応じて語り方は変わってくると思いますが、女であるという核の部分は、50代もそれ以上も、まったく変わらないのだと思います。
多くの男性に「定年」というゴールがあるのとは違い、女性の人生はずっと続くマラソンのようなもの。ゆっくりゆっくり自己実現していけばいいと思います。
――40代女性は、今、メディアにどう接触していると見ていますか。また、そこから見えてくる課題はありますか。
インターネットに接する時間が増えた分、ほかのメディアに触れる時間はほかの世代同様減っていると思います。雑誌はメディアの中で唯一といっていいほど「購入するときに、その都度お金を払う」媒体です。配達されることの多い新聞よりもハードルが高い。そのハードルを超えて選んでもらうためにどうしたらいいかは常に考えています。今売れている雑誌を見ていると、1冊の雑誌に込められているものは単なる情報ではいけない、と考えます。その雑誌を買うことで1カ月が始まると感じたり、ページを開くことでライフスタイルが変わったり、読者にとっての「生活必需品」にならなければならないと思います。これは雑誌だけでなく、新聞にも言えることではないでしょうか。
――『STORY』『美STORY』の今後の方向性を聞かせてください。
『STORY』『美STORY』ともに、単なるファッション誌、ビューティー誌ではなく「アンチエイジング雑誌」ととらえて作っています。高齢化に伴い、アンチエイジング市場はこれからどんどん活発になっていくでしょう。そんなとき、ライフスタイルの中心になれるような雑誌を目指していきたい。ファッションもアンチエイジングのひとつの手法ですし、『美STORY』は「美・食・習」を掲げ、より広くアンチエイジングを語っています。洋服や化粧品を超えたものをいかに取り込んでいくかが2誌の大きなテーマなので、さまざまな企業と読者層の潜在的なニーズを掘り起こしていけたら、と期待しています。