カネボウ化粧品は、2008年3月、ファッション感度が高く、女性としていつまでも現役感を持って輝く、50代後半から60代女性をコアターゲットとするプレステージブランド「CHICCA」を発売した。「CHICCA(キッカ)」とは、イタリアの人たちが親しみを込めて“可愛い”というときに使う言葉。ブランドコンセプトを、「NIPPONのMADAMを恋する瞳にする」とし、新たな価値を提案している。プレステージマーケティンググループ部長の浅香純子氏に聞いた。
ファッション感度の高い「NEW60’S」がターゲット
――50代以降の女性の特徴をどうとらえていますか。
50代以降の女性は、人生の中で一番解放されている時期を迎えていると思います。20代の頃は、恋愛やファッションを謳歌(おうか)しつつも、仕事、結婚、経済的なことなどについて、何かと将来への不安がつきまといます。30代、40代は、既婚者は子育ての心配事や家事負担が増え、働く女性は中間管理職の憂うつを抱える人が少なくありません。しかし50代になると、子育ても一段落し、家のローン返済も終わり、働いている方は職場での立ち位置も見えてきて、いろんな意味でゆとりができます。
今の50代は、70年代後半のハマトラブーム、80年代前半のDCブランドブームを経験し、70年代に創刊された『an・an』『non−no』『JJ』といったファッション雑誌の洗礼を受けているので、非常にファッション感度が高い。また、韓流ブームに象徴されるように、すてきな異性にときめくみずみずしいマインドを持っていて、そこが従来のこの世代の女性と大きく異なる特徴ではないかと思います。
――「CHICCA」の概要をお聞かせください。
私たちは、年齢を重ねながらも「女性であることを楽しみたい」と願うファッション感度の高い女性たちを、「NEW60’S(これから60歳を迎える50代女性や新しい感覚を持つ60代女性)」と定義しました。ところが、さまざまなアンケートの結果、彼女たちがメークに関しては意外におろそかになっていることが分かりました。これまでこの世代に向けては、シワやシミを隠すスキンケアや身だしなみのメークしか提案されてこなかったからです。そこで、NEW60’Sの方々に、メーク上手な「CHICCA=カッコかわいい」女性になってほしいと考え、この年代の女性向け化粧品では未対応ゾーンであった、百貨店の化粧品売り場に参入しました。誰でも簡単に最新のトレンドメークができるように、商品に“テクニック”を搭載。ポンポンと肌にのせるだけで「艶(つや)肌」になるファンデーション、専用のブラシで塗るだけで自然なグラデーションができるアイシャドー、肌の色を若々しく見せる透明感のあるリップグロス、という具合で、百貨店のカウンターで独自のメークメソッドを提案しています。
複層的な情報発信と、行動までじっくり待つ忍耐力が肝心
――どのようなコミュニケーション戦略を立てましたか。
発売当初はモード系雑誌に広告を出稿しましたが、美容室や病院で目を通すだけで買わない人も多いと分かり、新聞各紙で広告掲載を始めました。クリエーティブの工夫としては、NEW60’Sは、ブランドネームを信用して購買する傾向が強いので、カネボウの企業ロゴを大きく目立たせ、また、若い人のようにネット検索する人が少ないと考え、販売している店舗名を明記しました。さらにアンケートで「百貨店の化粧品コーナーは販売員も客も若いので近寄りがたい」「高い商品を無理やり買わされそうでこわい」といった意見が多く聞かれたことを受け、和やかなメークレッスンの風景を載せました。中でもターゲットが多く読んでいると実感できたのは朝日新聞で、出稿直後ばかりか、数カ月後も問い合わせが来ることに驚いています。きっと紙面をとっておかれるのでしょう。
新聞の他に効果を感じているのは、百貨店発行の冊子やDM、それとクチコミです。また、高級化粧品はリピーターをいかにつかむかが重要で、顧客へのフォローとして当社社員が手書きでDMをお送りしています。
――彼女たちの意識や消費の傾向は。
認知からトライアルまでにとても時間がかかる傾向があります。若い方は、広告を見たらすぐにネットで詳しい情報を確認し、店頭に足を運んでサンプルを手にしてくださいますが、シニアの方は、新聞広告の問い合わせが数カ月後に来る例もあるように、初動がとても遅い。また、「何を見て店頭に来てくださったのですか?」とうかがうと、若い方は「新聞、雑誌」と具体的な答えが返ってきますが、シニアは「いろいろ」という方が圧倒的に多く、つまり、情報をためたうえでやっと行動に移るのです。ただし、一度気に入っていただくと、長く愛用してくださいます。大事なのは、複層的な情報発信と、反応があるまでじっくりと待つ忍耐力。おかげさまで、発売以来前年比クリアのプラス成長を遂げています。
――今後の方向性と課題は。
2008年に販売を開始した時、販売担当には「百貨店ブランドはコンセプトとターゲティングが命。NEW60’Sをとらえ、商品よりもコンセプトを売ることに重きを置いてほしい」と伝えていました。ただ、当時は「NIPPONのMADAMを恋する瞳にする」というコンセプトに対するお客様の反応が薄かったそうです。それが丸2年たった今、同じことを店頭で言うと、「そうよね、いつまでも恋していたい。恋って楽しい」という反応が普通に返ってくるそうです。つまり、NEW60’Sは確実に進化しているのです。そうした進化を敏感にとらえ、彼女たちの想像よりもちょっと先を行く提案を続けることが課題で、それがオトナの女性をつかむ秘訣(ひけつ)でもあると思います。クレバーで確かな美意識を持ち、購買欲が強いNEW60’Sは、今後ますます輝き、時代をリードしていく予感がします。