企業のサラリーマンが加入する健保組合の連合組織、健康保険組合連合会(略称:健保連)は、持続可能な日本の健康保険制度のための提言や医療行政に対する自らの意見を、政治情勢や国民の関心に照らし合わせながら継続的に主張している。さまざまな広報活動の中で、意見広告の位置づけを鈴木克惠理事に聞いた。
持続可能な健康保険制度のあり方を伝える
――健保連では以前から新聞紙上に意見広告を積極的に掲載しています。
大きな契機は、昭和46年に健保法改正案や診療報酬のあり方などをめぐって日本医師会が保険医(健康保険加入者の診療を行う医師などのこと)の辞退を全国一斉に届け出るという事態が起こったことです。健保連としては、健康保険制度を守るためにメディアを使った強い発信が必要だと考え、意見広告を展開した経緯があります。当時は診療報酬の不正請求が社会問題化するなど国民の医療制度への関心が高く、意見広告にも大きな反響がありました。例えば、昭和56年には我々の意見広告に寄せられた数多くの投書を紙面に載せた意見広告をつくるといった斬新な試みを行い、高く評価されました。
健康保険制度の課題は国民生活に密着した極めて政治的なものです。近年は産科、救急、小児科などさまざまな分野で国民の不安が広がり、医療の現場でも医師不足が深刻化するなど、その将来に対する関心が改めて高まっています。例えば、平成20年度から施行された高齢者医療制度は、政権交代に間接的ながら大きな影響を与えたと思います。65歳以上の医療費が全体の半分を超えている今日、負担をどう分担して制度を維持するかが最大の問題であり、国の方策の是非を我々としても主張する必要性が高まっています。そこで現在では、基本的には年1回、健保組合の全国大会が開催される当日に意見広告を新聞に掲載しています。メッセージの根底にあるのは全国大会の決議であり、その中から何をテーマにするか、健保連全体のスローガン策定と並行して決めています。
――2009年には、11月と12月の2回にわたって朝日新聞に全15段の意見広告を掲載しました。
このところ、新聞の使い方は地域に密着した地方紙を含めたものでしたが、我々の活動は中央の国政の当事者やリーダー層、オピニオン層の理解を得ることが重要です。その点を再認識し、平成19年度からは全国紙を1ページ全面広告として積極的に利用するようにしました。年2回掲載は久しぶりでしたが、それだけ今回伝えた、「不足する高齢者医療費の財源として、国が健保組合に1,400億円もの負担を『肩代わり』させようとしている」という問題が重要だということです。我々はこれに対して、不退転の決意で反対を述べる姿勢です。
ただ、2つの紙面のテイストは違います。11月の紙面は、夏の総選挙で政権交代が実現した世間の空気を反映した、コピーや子供を使った写真に明るい未来をイメージさせたものです。一方、12月の紙面は政府の施策に対して明確に反対を表明した政治色の強いもので、反対の理由や、その前提となる医療制度の現状を文章で詳しく伝えました。このように伝えるべき内容や掲載時の社会情勢によって、紙面の方向性を変えています。
「なぜそう主張するのか」を伝え社会を説得できる意見広告
――メディアが多様化している中で、新聞広告に期待していることは。
一言でいえば新聞の持つ社会性、公共性、信頼性が意見広告に合致しているということです。新聞社は情報に対する責任を大事にしていると思いますし、だからこそ広告も信頼を得ることができます。また、健保連を構成する健康保険組合の加入者は約3,000万人ですが、そのほかにも協会けんぽや国民健康保険に加入されている方々もたくさんいらっしゃいます。その点も意識しながら、我々の主張を国民全体の利益に展開できるような形で伝えることも重要です。健保連としての結論だけを伝えるのではなく、それが医療制度、健康保険制度を守り改善するためだということを理解いただくことで、社会の賛同が広がります。そのためには主張をサポートする情報という根拠が必要なわけです。
――掲載した意見広告の反響はいかがでしたか。
2回目の意見広告を掲載した12月17日、鳩山総理はCOP15出席のためコペンハーゲンに向かう日でしたが、政務を執られていた午前中、閣僚との懇談の中で我々の意見広告が話題になったそうです。健保連の姿勢が伝えたい相手にタイムリーに訴求できたと思っています。またそれが直接的な要因かは分かりませんが、当初1,400億円と示されていた国庫負担の「肩代わり」は、予算編成の段階で500億円まで縮小されました。ただし、我々が「肩代わり」そのものに反対している姿勢は現在も変わっていません。
また、今回の政府の制度改革案では、健保連を構成する1,474の組合のうち約4割の負担が少なくなるという政府の試算が出ています。そういった分断的な施策を制度改革の論議の中ではなく予算編成の中で唐突に出してきたことも、非常に理不尽なことです。部分的な損得の問題ではなく、政策そのものが将来にわたって国民皆保険制度を維持していくという大局に立っておらず、予算のつじつま合わせというのが我々の主張であり、今回の意見広告は内部の結束力を高めるという点でも役割を果たしました。
――今後の取り組みについては。
今はこの問題に関して、たとえ法案が上程されたとしても、この肩代わりの部分については不退転の決意で反対を述べていくという姿勢を主張することが重要です。そのためには、現在3誌・紙ある広報誌など我々の持つさまざまなメディアを使いながら、政府・与党や関係団体の理解を促す運動を続けていきます。また、メディアの中にはこの問題の本質を良く理解してくださる方々も数多くいらっしゃいますから、記者会見もできるだけ頻繁に行うように心がけています。
意見広告に関しては、毎年全国大会が開催される11月ごろの掲載が定着していますが、今後は社会の動きや医療に関する国民の関心をタイムリーにとらえながら、より興味をもってもらえるタイミングでの掲載も検討しています。新聞は企画の立ち上げから掲載までの時間が比較的短く済みますから、機動性を生かした紙面も考えていきたいと思います。