3つの提案を意見広告で社会に呼びかける

 「一緒に考えませんか? 私たちの食と暮らしの未来のことを」。こんな呼びかけをした生活クラブ生協連合会の意見広告が2009年8月25日、朝日新聞の朝刊に掲載された。衆議院総選挙を前に、各政党に提案した「市民発の政策」をまとめたものだ。出稿のねらいなどについて、生活クラブ連合会企画部部長の前田和記氏に話を聞いた。

総選挙前のタイミングで
市民発の政策提案を広くアピール

――今回の意見広告の概要、出稿の経緯を聞かせてください。

生活クラブ生協連合会 前田和記氏 生活クラブ生協連合会 前田和記氏

 広告では、生活クラブ生協連合会が、総選挙を前に各政党に届けた3つの提案を解説しています。

 1つ目は「食料自給力の向上」です。国内の食料自給率の低さは社会的な問題になっており、選挙でも大きな争点にしてほしいと考えました。しかし、自給力を高める農業政策の制度が改定され、農業従事者が一生懸命作ったとしても、消費者の積極的な買い支えがなければ意味がありません。消費者が責任を持って食べることができる仕組みづくりのために、「食品表示制度の見直し」を2つ目の提案としました。

 「作る」団体としては農協、「食べる」団体は生協が国内で一番大きく、農協も生協も協同組合です。この協同組合が、日本では重視されておらず、むしろ規制が強められようとしています。食べ物のことだけでなく、地域社会がセーフティーネットとして機能するためにも、もっと協同組合を大切にする政策をとってほしい。それが3つ目の提案です。バラバラのように見えますが、実は3つの提案は関連しています。

 これら3つの提案は社会制度にかかわる問題なので、生協だけで努力するだけではなく、世論の争点にしていきたいという思いがありました。そのためには、総選挙のマニフェストに反映してもらおう、と。そこで、2008年10月と09年7月の2回にわたり、全政党に市民提案として意見書を届けました。そして、与党となった政党にはしっかりと政策に反映してもらうようアピールするため、総選挙直前というタイミングで広く社会に訴求できる意見広告の出稿に至りました。

――クリエーティブで工夫した点は。

 総選挙前には、おそらく政党の派手なマニフェスト広告が増えるだろうと踏み、あえて落ち着いたトーンのクリエーティブにしました。また、意見広告はどうしても字が多くなりがちなうえ、法制度にかかわることは専門用語がたくさんあります。でも、意見広告は読んでもらわないと始まりません。そこで、平易な表現を用い、文章をなるべく短くするよう努めました。これは、非常に苦労した点でもあります。


組合員、他の協同組合など
すべてのターゲットから高い評価

――反響は。

2009年 8/25 朝刊 2009年 8/25 朝刊

 私たちがマスメディアを使って情報発信する場合、まずは全国の組合員、次に農協や漁協といった協同組合や当連合会以外の生協、次いで政党、最後に一般的な読者と、ターゲットの順番を決めています。全国約31万世帯の組合員からは「非常によかった」という高い評価を受けました。他の協同組合からも「よくやった」というような声が聞こえてきて、しっかり受け止められたととらえています。各政党については、単にマニフェストに載せるだけではなく、実行されるために働きかける必要がある。そのアプローチとして非常に有効だったと見ています。最後に一般読者ですが、掲載後の朝日新聞社の広告モニター調査によると、おおむね好評でした。これらの結果を受けてか、生活クラブのホームページには、掲載直後、通常の1.5倍のアクセスがありました。

――新聞を使った意見広告に求めた特性は。

 紙面審査があるとはいえ、私たちが私たちの言葉のまま、信頼性をもってメッセージを届けられる媒体は、新聞しかないと考えており、意見広告を掲載するにはもっともふさわしいととらえています。

 また、昨年秋から、今回の意見広告に掲載した3つの提案を国会に請願しようという署名運動を始めました。そのいわばキックオフの位置づけが、この新聞広告でした。単に署名用紙1枚を持って署名をお願いするよりは、この広告紙面を持ってアプローチするほうが話のきっかけにも説得の材料にもなります。実際、全国の組合員の心の支えになったようです。署名は1月末に集約したところおよそ30万筆が集まりました。この署名は、今通常国会に提出する予定です。

――今後の展望を聞かせてください。

 食料自給力の問題、協同組合をはじめとする非営利組織の育成については、中長期的に取り組み続けていくべきだと思っています。今後、新聞広告を活用するとすれば、この2つの課題について発信していくことになるだろうと、一担当者としては考えています。

 今回は生活クラブ単体で出稿しました。これも個人的見解ですが、本来、協同組合の育成については、色々な協同組合と連名で出すのがメッセージの力としても予算的にも効果が大きいと思っています。2012年を「国際協同組合年」とすることが国連で決まったこともあり、協同組合の育成に国が施策としてどのように取り組んでいくかが問われると見ています。タイミングを見据えながら、他の協同組合と広く連携してメッセージを届けていきたいと考えています。