カメラファンと女性層、2つのターゲットの心をつかむ

 2009年7月、オリンパス イメージングは、小型・軽量でデジタル一眼の高画質を実現した「OLYMPUS PEN E-P1」を発売。モノとしてのカメラにこだわりをもつマニア層と、気軽に持ち歩けて画質も本格的なカメラを望んでいた女性層の2つのターゲットにアピールし、両者から大きな支持を得た。イメージング事業本部マーケティングサポート部マーケティングコミュニケーショングループ グループリーダーの大山義之課長に聞いた。

デジタル一眼の市場を広げるブレークスルー

――「OLYMPUS PEN E-P1」(以下、「E-P1」)の特徴は。

 「E-P1」は、レンズ交換式デジタル一眼システムの大幅な小型・軽量化を実現する規格として、2008年8月にパナソニック(当時、松下電器産業)と共同で発表した「マイクロフォーサーズシステム」という規格にのっとって商品化されました。

 弊社の調査によれば、コンパクトデジタルカメラをご購入したお客様の約2割が「デジタル一眼が欲しい」と思われています。それを断念する主な理由は、「重い」「大きい」「難しそう」「高い」の4つです。この4つのバリアを取り払った時、コンパクトカメラと比べればまだ小さなデジタル一眼の市場に、飛躍的なブレークスルーがあるはずです。「マイクロフォーサーズシステム」は、デジタル一眼の機構を大きく変えることで、それを可能にしました。

――「PEN」といえば、ハーフサイズカメラとして人気を博し、40代以上の世代には懐かしい名称です。オリンパスのブランド資産を、今改めて活用した経緯は。

 「E-P1」の開発陣は、昔の栄光にすがる気はまったくありませんでした。とはいえ弊社には「PEN」や一眼レフカメラの「OM」シリーズなど、小型軽量を得意とした歴史をDNAとして受け継いでいます。新しいフォーマットの中でムダをそぎ落として生まれた普遍的なカタチが、結果としてオリジナルの「PEN」を彷彿(ほうふつ)させ、開発陣が自然発生的にこれを「PEN」と呼ぶようになりました。

 くしくも2009年は、「PEN」誕生50周年にあたりました。これは本当に偶然のことでしたが、ハーフサイズカメラとマイクロフォーサーズは新しい技術で小型化を目指し、写真の楽しさを広げるという意味において似たような発想を持つともいえます。「PEN」を使ったことのない世代でも、「家にあった」とか「父が使っていた」といった思い出を持たれている方が多く、ブランドに対する親近感や伝統が受け入れられる環境に恵まれていました。

――コミュニケーション戦略の狙いは。

 昨年あたりから、弊社はデジタルカメラ事業におけるコミュニケーションのテーマを「再現力」から「表現力」へとシフトさせています。マニュアルからAE(自動露出)、AF(自動焦点)と進化したカメラの歴史は、いってみれば失敗をなくすための歴史です。今日のカメラは、誰もがほぼ失敗のない写真が撮れるレベルにまで到達しました。これからのカメラには、自分が撮りたいように、自分なりの表現がしたいという気持ちにどれだけ応えられるかということが求められると弊社では考えています。特に「E-P1」はそんな弊社の思いが強く表れたモデルで、カタログでも例えば「何万画素」とか「秒何コマ」といった従来的なスペック訴求を目立たせていません。

 また「E-P1」は、カメラ好きの方々に受け入れていただける機械としての完成度と、女性の方々が店頭で見かけて思わず手にとっていただけるスタイリッシュな魅力を持ち併せています。普通であれば相反する、2つのターゲットを設定してコミュニケーションを展開しました。

――プロモーション事例について教えてください。

 カメラ愛好家の方々をターゲットにしたコミュニケーションとしては、6月の「E-P1」発表の前に、「PEN」発売50周年を記念したスペシャルコンテンツを公開し、同時にプレゼントキャンペーンなどで「PEN」ブランドを再認識していただけるよう盛り上げました。

 広告媒体として主に使ったのはカメラ雑誌、男性誌、女性誌などで、大きく2つの方向性で広告クリエーティブを制作しています。『アサヒカメラ』のようなハイアマチュア向けのカメラ雑誌では商品にフォーカスし、モノとしてのよさを訴えました。一方、女性誌やライトユーザー層向けのカメラ雑誌では、キャラクターになっている宮﨑あおいさんの写真を使うなど女性の共感を意識したつくりにしました。もちろん宮﨑さんは男性ファンも多い方です。テレビCMでは、宮﨑さんのシャープでかっこいい側面にスポットを当てて、商品の本物感をアピールしました。

2009年 8/16 朝刊 2009年 8/16 朝刊

――新聞を使ったコミュニケーションとしては、8月に「E-P1」を使った企業広告を朝日新聞に出稿しました。

 雑誌の長所が細かなターゲティングができることだとすれば、新聞の長所は情報の圧倒的な伝播(でんぱ)力です。「E-P1」は、想定ユーザーに向けてより効率的にリーチできる雑誌をメーン媒体としました。一方、新聞に掲載した広告は、高画質でありながら小型・軽量化を実現した弊社の商品や技術力が社会に貢献できることを伝える企業広告であり、これはあまねく皆様に知っていただきたいものです。幅広く社会に発信できる新聞のメッセージ力が生かせると思いました。

――商品のヒットをどう受け止めていますか。

 発表以来、商品に対する期待の高さは感じていましたが、実際の販売数としても結果が出せていることをありがたく思っています。ユーザー登録をいただいたお客様の属性を分析すると、ご購入いただいた方の約25%が女性で、これはデジタル一眼としては画期的な多さです。また発売当初はすでにデジタル一眼をお持ちの方の買い替えや買い増しが多かったのですが、現在では「E-P1」を初めてのデジタル一眼としてご購入いただいている方が増えており、これも期待通りです。

 「E-P1」はデジタル一眼のエントリー機的な役割を持つモデルですが、価格的にはデジタル一眼の中で最安価のカテゴリーにある商品ではありません。「エントリー機=安いモデル」という常識を壊したという意味でも、これからの市場に新しい可能性を開くことができたと思います。