政府が、景気対策として発表した「定額給付金」。海外旅行商品を提供するエイチ・アイ・エスは、給付金額である12,000円で行ける目玉商品をいち早く打ち出し、大きな話題となった。本社営業戦略室広告グループ・グループリーダーの上原裕一氏に、キャンペーンの経緯などについて話を聞いた。
政府発表からわずか2日
新聞広告などで目玉商品を告知
――定額給付金のニュースをどうとらえ、どのように対応しましたか。
経済的に暗いニュースばかりの中、政府を挙げての景気対策ということで、金額や時期についてはずっと興味を持って注目しており、定額給付金を核として展開できないかは当初から考えていました。
今年3月、金額や時期についての政府発表を受け、社内で緊急ミーティングを行い、「12,000円で旅行商品を出せないか」を検討しました。旅行代金の一部としてではなく、定額給付金だけで海外旅行に行けますよ、という呼びかけは、消費者のモチベーションになるのではと考えました。検討の結果、ソウル旅行を燃油サーチャージ込み12,000円の目玉商品「定額給付金で行く!ソウル3日間」として売り出しました。
実は、政府発表の3日後から別内容でのキャンペーンを企画しており、すべての準備が整っていたのですが、急きょ広告物なども作り直して、定額給付金の目玉商品についてのニュースリリースを9日に配信、その日の朝日新聞朝刊をはじめ新聞広告にも掲載し、翌10日からキャンペーンをスタートしました。政府発表から2、3日 という短期間で対応したのは、メディアでのニュースを意識した面があります。話題性の高いキャンペーンを発信すれば、報道機関もエイチ・アイ・エスの取り組みをニュースとして取り上げてくれるだろう、と。実際、記事として取り上げた新聞もあり、それがテレビのワイドショーやニュース番組でも大きく放送されました。そのころメディアでは、「12,000円で何ができるか」が話題になっていましたが、海外旅行というのは驚きだったようです。メディアで取り上げられたことは通常以上の広告効果があり、エイチ・アイ・エスの取り組みを多くの方に知っていただき、共感してもらうことができました。目玉商品以外の商品についても興味を持ってもらえたととらえています。12,000円のソウル以外に、数千円の金額を足した台北やグアムといった商品も「定額給付金」を掲げて展開しましたが、こちらも好評でした。
――成果はいかがでしたか。
目玉商品はあっという間に売り切れました。ほかにも、料金を追加してホテルのグレードを上げたり、食事のオプションを増やしたりといった関連商品の売り上げも好調でした。
――キャンペーンのコミュニケーションについてお聞かせください。
マスメディアでは新聞とテレビ、ほかに電車の中づりなどの交通広告や、街頭ビジョンを使いました。今回のキャンペーンに限らず、テレビや交通広告は入れられる情報量が限られているので、「続きはウェブで」「詳しくは今日の新聞広告で」というように、たくさん情報を伝えられるメディアに誘引するようにしています。
元気のない今だからこそ
「海外旅行へ」という気運を作りたい
――朝日新聞では、3月9日から13日まで、「5日間連続新聞広告」と銘打ち、大々的に出稿しました。その意図は。
新聞を定期購読していても、細かなところまで読む日と読まない日があるという読者もいると思います。でも、毎日連続したり、同じ日で連続して載っていたりすれば、新聞をとっている人の目には必ず留まるはずです。また今回は、「5日間連続」と広告上でうたい、ほかの日にどういった特集を掲載しているのかも明記することで、一連の流れの中で広告を見てもらう工夫をしました。新聞を毎日捨てる人は少ないと思うので、前日以前に振り返って見てもらうこともできます。1回の広告では接触しない人にも、より多く目に留めてもらうことで、商品がたくさんあることが伝わればよいと考えました。また、新聞に希望した商品がなくても、ウェブサイトを訪れてもらえれば、と期待しました。
――様々なメディアの中で、新聞広告の特性や役割をどうとらえていますか。
マーケティングの世界では「AISAS」などネット時代の消費行動が重視されていますが、まだまだすべての人がウェブを見るとは限らないと思っています。特に旅行の場合は、新聞広告や駅などのパンフレットで検討する人も結構多いので、新聞広告はウェブを見ない消費者に対する重要な情報源と見ています。
広告主の立場から言うと、今回の定額給付金のキャンペーンもそうですが、最新の情報を提供したいと思っています。新聞は掲載日の前日入稿でギリギリ間に合う。実は、超アナログともいえる新聞が、最新の情報をマスで伝えることができるメディアなのです。私たちはお客さまに喜んでいただく企画を日夜考えていますので、さらに安くなったとか、設定日を増やせるとかいった「いい仕入れ」ができたとき、それをなんとか反映したい。自社のウェブサイトならできますが、そもそもウェブサイトに来ない人に対してはマスメディアでの発信が必要です。そういった層に対して、新聞は必須のメディアととらえています。
――今年は、「新型インフルエンザ」や「燃油サーチャージの値下げ」といった、海外旅行に影響のあるニュースがありました。このように国内外で起こるニュースに対し、どのように対応していますか。
定額給付金や燃油サーチャージの値下げといった、旅行を後押しできるようなニュースの場合は、今回同様、お得感を感じてもらえる商品をいち早く企画するという「スピード感」を心がけています。また、話題性のある商品を打ち出すことで、メディアにニュースとして取り上げてもらえるよう、戦略的かつ迅速にPRを打っていきます。
逆に、新型インフルエンザや紛争の問題など、ネガティブな要因については予期なく勃発するものなので、その都度対応しますが、安全な地域や旅行商品にまで誤解が及ばないよう、正しい情報を発信するようにしています。
――今後の課題、展望は。
当社だけでなく、旅行会社が一緒になって色々な商品、広告を打ち出すなどして、話題性を喚起することで、海外旅行を考えている人だけでなく、悩んでいる人にも「海外に行こうかな」という気分になってもらえるのでは。それが結果、マーケットの拡大につながり、業界の底上げにつながると考えます。また、そうした空気感、雰囲気を盛り上げるには、マスコミの力も重要です。事件や事故など、不安な話題のほうがニュース性が高いのは仕方がないと思いますが、必要以上に消費者の不安をあおるのではなく、明るい情報もきちんと伝えていただきたい。旅はエンターテインメント性が高く、情報コンテンツとしてもおもしろいので、たとえば世界の美しい景色や名所旧跡の存在を伝えたり、円高なので海外でショッピングがお得だったりといった話題も取り上げてほしいと願っています。もちろん私たち旅行会社は、不景気な今だからこそリフレッシュしてもらえるような、価格的にも消費者がハッピーになれるような企画や商品を提供していきたいと考えています。