ライオンのロングセラー商品「トップ」は、1956年に誕生した同社初の合成洗剤。電気洗濯機の普及、水質問題への関心の高まりなど、社会の変化に対応しながら、文字通りライオン製品を代表するトップブランドの座にあり続ける商品である。ライオン ハウスホールド事業本部ファブリックケア事業部副主任部員の相原亮氏に聞いた。
時代のトップを新しい技術で走っていく
――相原さんの略歴をお聞かせください。
私は2002年4月から、洗剤や漂白剤、柔軟仕上げ剤などの洗濯周りの商品を統括する現在の部署に配属され、以来、粉末の衣料用洗剤のブランドマネジメントに携わっています。具体的には「トップ」「消臭ブルーダイヤ」「部屋干しトップ」の3製品が中心です。
以前は営業部員として、札幌などの各地を転任しており、マーケティングが専門というわけではありませんでした。ファブリックケア事業部の人員構成は多士済々で、営業出身と研究畑出身が半々といったところです。
「トップ」製品には柔軟剤入りの「香りつづくトップ」や、新製品「トップ クリアリキッド」などの液体洗剤もあり、現在、粉末と液体の売り上げはほぼ同じです。液体には私とは別のブランドマネジャーがいて、さらに全体をマネジメントする人間がいるといった体制になっています。もちろん、同一ブランドの中で粉と液の各製品をどう位置づけ、育てていくかということはお互い話しあっています。
――「トップ」は、半世紀以上の歴史があるブランドですね。
「トップ」の発売は1956年。日本人の洗濯が粉石鹸(せっけん)から合成洗剤へシフトする先駆け的な商品であり、化学繊維が普及する中で、どんな衣類にも使える洗剤として生まれました。その後、アピールポイントは変化しましたが、当時の開発者たちが「トップ」という名前に込めた「時代の先頭を新しい技術で走っていく」という精神は、今でも受け継がれていると思います。
発売当時の「トップ」は青いパッケージでした。お客様が「赤いトップ」として認識されているのは、タンパク汚れを分解する成分として初めて酵素を配合した、1979年発売の「酵素パワーのトップ」からでしょう。この時に「トップ」は洗浄力を強く打ち出し、その商品コンセプトを今日まで引き継いでいます。
1980年には「無りんトップ」を発売し、社会問題化していた水質汚染にいち早く対応したことで、お客様のご支持を一気に集めることができました。「トップ」がライオンを代表するナンバーワンブランドになったのは、このころからです。
1990年代からは、洗浄成分の一部を植物成分(パームやし)に切り替えています。これは、当時はアピールしていませんでしたが、いずれ環境の時代が来ることを見据えた上での取り組みでした。2006年からは植物成分の使用をパッケージに表示するようになり、今年からはその比率を約4分の3まで高めています。これにより1990年の当社商品と比べて、CO2の排出量を51%カットしています。
――時代と共に製品を刷新してきた一方で、守られてきた「トップ」ブランドのコアバリューとは何でしょう。
粉末タイプの「トップ」は、遊び盛りのお子さんがいらっしゃるようなもっとも洗濯回数の多い世代に向けた商品です。洗浄力がある、目に見える汚れがよく落ちる洗剤だというのが最大の訴求ポイントです。かつてトップの代名詞であった酵素パワーも、洗浄力の裏打ちとしてのキーワードといえます。
例えば「部屋干しトップ」を2001年に発売する時、「トップ」の名を付けることで、お客様の商品理解がまだ不十分でも「部屋で干してもにおわないだけでなく、洗浄力もあるのだろう」と思っていただけました。我々の先輩たちの努力のおかげであり、このブランドイメージを守っていくことは大きな使命です。
それに加えて、トップは50年以上続く商品でありながら、最先端のライフスタイルにフィットした商品であるという点も、ブランドを形成する重要な要素です。例えば最近では、「一度洗いでしっかり落ちる」ことをパッケージにも書いて訴求しています。実は近年増えている節水タイプの洗濯機は、一回落とした汚れがまた付着しまう場合があり、現在の「トップ」は汚れの再付着を防ぐ成分を新たに配合しています。
顕在的データと潜在的な消費者意識から市場を探る
――ブランドマネジャーとしての仕事の内容をご紹介ください。
商品のコンセプト作りから、市場やお客様の動向の調査、パッケージデザイン、お客様とのコミュニケーションまで、すべての商品戦略に対して責任をもちます。また洗濯用洗剤は、花王、P&G、ライオンの3社で9割以上を競い合う市場です。自分たちがやりたいことよりも、競合を意識した戦略をとるべき場合もあり、他社の動向も注視する必要があります。
また関連部署は10カ所以上にまたがっているため、定期的に一堂に会して現状を話し合う場をセッティングしています。特に私が気をつけているのは、研究部門との情報の共有です。今の市場状況や課題点を知らせず、要望だけ伝えてもこちらの真意は伝わりません。幸いライオンの場合、本社も研究開発本部も私のいる東京オフィスから近く、メールに頼らず、できる限り足を運んで直接誰とでも話すようにしています。
――ユーザー層の志向など、情報収集はどのように行っているのでしょう。
顕在的なデータの把握ということでは、20代から50代までの女性を中心とした千名以上を対象に「洗濯実態調査」を毎年行っています。これは、奇数年は夏、偶数年は冬と実施時期を隔年で変え、ほぼ同一の何百項目という質問に答えていただくもので、定点観測的にトレンドの推移や志向変化の兆しを調査しています。
また製品のリニューアルに取り組む前には、主婦の方々に集っていただきグループインタビューを行い、お客様の潜在的な意識に照準を合わせてお話をうかがっています。こちらは一歩先の消費者意識を探ることが目的で、2006年ぐらいからは購入動機と環境配慮との関係が大きなテーマですね。ゴミの分別をしっかり行い、食べ物の原材料や生産国を気にする主婦が増えていますが、次は日用雑貨にも環境負荷や原料への意識が及んでいくのではないかと思っています。
身近な水環境を守る「トップ エコプロジェクト」を展開
―― 近年の代表的なコミュニケーション活動の事例をご紹介ください。
洗剤は水とのかかわりが切っても切れないものです。そこで私たちのもっとも身近な水環境である「川」をテーマに、2008年から「LIONトップ エコプロジェクト」という環境保護・啓発活動を始めました。
これには二つの柱があり、ひとつは今年6月から8月までの3カ月、「トップ」の売り上げの一部を、全国各地の水環境を守る活動にあてるというものです。
その際に配慮したのは、我が社のメーンブランドにふさわしく、取り組みを全国津々浦々まで浸透させると同時に、一人ひとりの参加意識、当事者意識を高める活動にしようということでした。そこで支援する活動をエリア分けした上で、お客様からの売り上げをそのお客様の地域の川のために使い、店頭に掲示するボードにも「ご協力いただいた基金は皆さんの川をきれいにするために使います」ということを各地域で明記しました。地域の営業のサポートもなりますし、販売店さんからも「地元のことを考えてくれている」「環境というテーマは、小売業とベクトルが合っている」と好評です。
二つめは、小学生以下を対象に、きれいな水の川や湖など淡水の自然を題材にした絵を募集する「ぼくの、わたしの、川の絵コンテスト」です。こちらは、私たちの心の中にある思い出の風景、あるいは理想の風景を描いてもらうことを通じ、川の大切さを身近に感じてもらおうというものです。初年度には基金が1,200万円、応募いただいた絵は3,500点と大きな反響がありました。昨年は基金を集めるまでの段階でしたが、今年は23団体に基金を援助して実際の活動を行っています。
――「トップ エコプロジェクト」では新聞広告も使われましたが、普段、特に意識されているメディアはありますか。
洗剤というのは指名買いばかりではありません。店頭に行ってから値段も含めて何を購入するかを決めるお客様も多い商品です。ですから普段のメディア接触の中で「トップ」を記憶させる広告だけではなく、家からお店にいくまでの間のメディア、お店で手を伸ばしていただくためのメディアも重要です。例えば電車のつり革であったり、店内ディスプレーであったり、商品をかごに入れていただける最後の一押しに何が効果的か考えますね。
テレビやケータイなどメディアがパーソナル化している中で、新聞というのは、家族でニュースを話題にしたり、話し合ったりすることのできるメディアです。特に環境問題について家族で話し合っていただきたいテーマですし、取り組みの内容や私たちの思いを詳しく伝えられるということで新聞広告を活用しました。また新聞というのは当社の広告の周囲にクールビスの記事であるとか環境関連の話題が載ることで、記事の関連で見ていただけるメリットもあります。
――ブランドマネジャーとしてもっとも大切にしていることは何でしょう。
ロングセラー商品というのはどんなに努力していても、お客様からは古く見られてしまったり、社内からも「新しい商品を出したほうがいいのでは」といわれたりすることもあります。ブランドの可能性を信じてこの仕事に取り組むためは、ブランドに対する思い入れや愛を強く持っていなければいけません。
その一方で、ブランドを客観視する部分も必要です。いま「トップ」が人々にどう思われているのかとか、お客様のイメージとの距離感を冷静に見られるということが必要です。
トップは地球環境問題がクローズアップされる前から植物原料を使い始めたことが、いま大きく花を開かせて、地球にやさしい洗剤としてのポジションを得ることができました。「トップ」50周年の節目を経験した自分は、次の50年のためにどのような種をまけばいいのか。後に続く社員のためにも、そんな長期構想をもつことも大切だと思います。