第1回の栄えある大賞には、ユニクロの「ヒートテック」の開発・販売(ファーストリテイリング)が選ばれた。ユニクロの機能性インナーにおけるマーケティング活動が総合的に高い評価を受けた。同社グローバルコミュニケーション部部長でプロジェクト・マネジメントディレクターの諏訪賢介氏に話を聞いた。
インナーにもアウターにもなる
衣類の新カテゴリーに成長
――「ヒートテック」開発から現在までの経緯をお聞かせください。
商品自体は2003年から販売しています。当初はインナーの性格が強く、寒い季節に温かくなれるという機能性はもちろん、肌触りのよさや、男性用と女性用をどうするかなど、これまで色々な試行錯誤と改良をしてきました。その中で、アウターとしても使えるのではという発想に至り、現在はインナーとしてはもちろん、重ね着したときに見えても見せてもいいし、アウターそのものとしても着用していただける機能やデザインの商品として販売しています。もはや単なるインナーではない、衣類の新しいカテゴリーを創出できたと感じています。
――東レと共同開発された経緯は。
日本の素材開発のテクノロジーは世界でも屈指のものを有しています。お客様により近い私たちと、東レの技術力が手を組むことで、お客様のニーズを反映させた商品が開発できたと考えています。
――消費者のニーズはどのように吸い上げていますか。
ウェブやお電話などを通じて寄せられるご意見ばかりでなく、日本全国にある750店舗からも、お客様がどのような商品を求めて、どういうサービスを望んでいるのかといったことを発信してもらう仕組みを作ることで、モノづくりと売り場のスタッフが常に近い距離で情報交換するようにしています。また、ヒートテックの企画やデザインは女性中心のチームで取り組んでおり、女性の視点の細やかな商品開発が、性別や年齢を問わず、幅広い層に支持されているのではと見ています。
国内外統一したメッセージを
同じ見え方で伝えていく
――どのようなマーケティング戦略を展開されましたか。
コミュニケーションについては、新聞広告、雑誌広告、屋外広告、店頭販促物など、すべてビジュアルを統一し、ヒートテックの機能性と品質を伝えました。これは国内に限らず、海外の店舗がある国でも同様です。というのも、当社は今、グローバルで展開することを最大の目標にしています。徹底的に議論した結果、「ユニクロ発・ヒートテックに、世界が驚きはじめています。」というシンプルなメッセージを、世界中で同じ見せ方で展開することに。このメッセージは、すべての広告活動にコピーとして使いました。
11月には、ニューヨーク、ロンドン、北京、パリ、ソウルでグローバルキャンペーンを実施しました。各都市の街角に「ヒートテック 巨大自動販売機」を設置、中ではヒートテックを着用したダンサーが踊っています。自販機のそばに待機した、銀色の全身タイツを着た「ヒートテックマン」が道行く人をサーモグラフィカメラで撮影、体の冷えている人にヒートテックを薦めます。薦められた人が自販機のボタンを押すと、トップスとボトムスの上下セットになったギフティングキットがもらえるというサンプリングのイベントです。各都市4,000個ずつを配布しました。現地のマスコミから取材を受け、さらにそれを日本のテレビ局が取り上げるなど、いい意味での「情報の逆流」もありました。
グローバルを意識し、ウェブも活用しています。世界中のブロガーから試着希望者を募り、その着用実感を動画などで発信してもらうという、ユーザー参加型のプログラムです。当社では「リサーチエンターテインメント」と呼び、ヒートテック以外の商品でも力を入れています。
――新聞広告も活用されました。
当社はアパレル企業としては、新聞広告を非常に重要視しています。新聞は説得媒体であり、ジャーナリズムであるため信頼感を醸成できるからです。普通、アパレルの広告はスタイリングを見せるだけでもいいのですが、私たちは新聞でしっかりと機能を語り、ヒートテックの価値を伝えていきたいと考えました。読んでもらわなければ始まらないため、デザインや色使い、文字の大きさ、レイアウトなど、クリエーターと徹底的に議論しました。また、先ほども触れましたが、デザインは日本と同じで、各国の言語で機能や品質を説明したクリエーティブの広告を海外の新聞にも掲載しました。ニューヨークタイムズにも出稿、この街に1店舗しかないブランドが出すのはどうかと思われるかもしれませんが、私たちは流行や空気感、雰囲気でモノづくりをしているのではありません。世界中のあらゆる方に本当にいい商品を届け、喜んでいただきたい。その思いをちゃんと伝えるためには、新聞は最も適したメディアととらえています。
――今後の課題、展望について聞かせてください。
今回の受賞は大変うれしいものでした。今年以降は、それを上回る結果を出さなければと身が引き締まります。
現在、全社を挙げて世界中で戦っていくことを大きな課題に掲げており、モノづくりの観点でもコミュニケーションの観点でも、日本でも世界でも同じメッセージ、同じ見せ方で取り組んでいきます。評価いただいたヒートテックのマーケティングはまさにその一例で、今回、色々な課題も見えてきました。試行錯誤を繰り返しながら、 日本発の真のグローバルブランドを目指していく考えです。