日本の20倍強の国土面積を持つオーストラリアは、日本からの観光客の誘致拡大を目指し、昨年来、世界遺産を前面に押し出すキャンペーンを行ってきた。その動きと今後の展開について、オーストラリア政府観光局日本局長の堀和典氏に聞いた。
── 世界遺産キャンペーンを始めたきっかけは。
新たなキャンペーンのテーマを決定するには、話題性、優位性、商品化の可能性と価格競争性という4つの視点を考慮する必要があります。オーストラリアの世界遺産には、これらすべてが備わっていると考えました。
話題性の面では、国立公園だったものが世界遺産に登録されることにより注目度がアップし、訪れる人が飛躍的に伸びる。「世界遺産」という言葉そのものがブランド化してきた昨今、オーストラリアの世界遺産を推すことにより、話題を喚起できるのではないかと考えました。
優位性に関しては、オーストラリアにある17の世界遺産のうち15が自然遺産で、世界各国最多を誇っています。しかもオーストラリアの4つの自然遺産は、ユネスコが世界遺産の条件として設定する4つの条件のすべてをクリアしているという点でも、世界で他に例がありません。こうしたことから、オーストラリアの世界遺産には、質量ともに優位性があると判断しました。
また、商品化の観点から言うと、グレートバリアリーフやウルルをパッケージした旅行商品はすでに売られていました。しかし、もっと多くの人の手に渡るようにするには、これらの場所を、世界遺産として改めてとらえなおしてもらえる商品に仕立てることが大切だと考えました。
価格に関しては、1997年くらいから、日本の消費者の海外旅行のとらえ方、旅の仕方が変わってきているようです。単に価格が安いものや単なる観光コースが売れなくなりました。特に2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件や2003年のSARS問題以降、旅行市場は高品質・高付加価値の時代に移行してきました。従って、このタイミングで世界遺産をプロモーションするのは、こうした時代の流れに完全に呼応していると思います。
── どのようなコミュニケーション活動を展開していますか。
最初に、コミュニケーション活動を2段階に分けました。第1段階にあたる昨年は、朝日新聞で8ページのエリア広告特集を展開しました。エリア広告特集が、世界遺産の大きさやスケール感を訴えるのに適していました。さらにトレインジャックも仕掛けて、16の世界遺産を印象づけました。アクセス可能なこれらの世界遺産を1年かけて見せることにより、「オーストラリアにはいっぱい世界遺産があるんだ」という消費者のイメージを醸成したのです。
第2段階に入った今年6月からは、それぞれの世界遺産にまつわるストーリーや感動を、実際その場所を訪れた人に語ってもらっています。例えば、「人も自然も、想像を超えたオーストラリアの体験。宇宙飛行士としての私の原点です。」と語った毛利衛さんの話や、いにしえの自然の姿に感動したDJで作家のロバート・ハリスさんの熱っぽい語りなど、リアルな感動を自分の言葉で伝える。そうしたストーリーを展開し、読者に読み込んでもらうには、新聞は理想的な媒体です。
さらに旅行会社を巻き込み、店頭で使えるツールを開発し、コンテストを行ったところ、全国で547店舗が参加してくれました。そこで、色々なお客様からオーストラリアのことを聞かれるため、旅行会社の人たちが一生懸命オーストラリアのことを勉強してくれたことが、思いがけない波及効果でしたね。
ストーリーテリングが大切だということを理解した旅行会社のパンフレットのスタイルも変わってきました。例えばHISのパンフレットは、前方ページには通常あるパックや料金の紹介が一切ありません。代わりにオーストラリアの世界遺産の素晴らしさを紹介する記事が美しい写真と共に載って、消費者が本当に行きたくなるような構成になっています。
── 今後の活動の方向性は。
消費者との様々な接点を強化していくため、メディアとのタイアップ活動を積極的に展開していきます。特にストーリーテリングは今後も継続していく予定です。
さらに、オーストラリアの先住民族アボリジニの間で、古代から受け継がれてきたウオークアバウト(walkabout)という考えを組み込んでいきたいですね。彼らの子どもたちは、13歳になると、6カ月間砂漠で水や食料を自力で見つけ、自分を見つめる一人旅に出されます。そのコンセプトを取り入れ、本当の自分を探すためオーストラリアへの旅に出ませんか(Come, walkabout)という呼びかけをしていきます。この「自分探しの旅」という考え方を通じ、今後ともダイナミックにオーストラリアをプロモーションしていくつもりです。