輝く女性の生き方をファッショナブルに描き社会現象を巻き起こしたガールズムービー

 ニューヨークに住む4人の女性の恋と友情とセックスを、過激なトークと洗練されたファッションを織り交ぜながらコミカルに描き出し、大反響を呼んだテレビドラマシリーズ『セックス・アンド・ザ・シティ』(以下『SATC』)。人気はアメリカのみならず全世界に広がり、ついに映画化。日本でも大いに話題となった。マーケティング本部宣伝部宣伝アクアグループのマネージャー、冨家杏子氏に聞いた。

TV版を見なくても楽しめると告知

── 映画公開に際し、どのようなプロモーション戦略を立てましたか。

冨家杏子氏 冨家杏子氏

 『SATC』は、1998~2004年にかけてアメリカのケーブルテレビで放送され、日本ではWOWOWで5年前から放送を開始、パラマウント ジャパンからDVDも発売されました。映画の宣伝活動を始めるにあたり、両社から、ファン層は30~40代の働く独身女性と聞いていたので、まずはその層に向け、昨年末にプロモーションを開始しました。マスコミ関係者にファンが多かったこともあり、雑誌やテレビなどで早速取りあげられるようになったのは幸いでしたが、それまで『SATC』を見たことがなかった人たちが、全94話を見てみたいとレンタルビデオ店に殺到し、常に貸出中という現象が起きました。その調子で全話の視聴を待っていたら公開のタイミングに合わないと考え、テレビシリーズを見ていなくても映画が楽しめることをコミュニケーションの主眼に置くことにしました。

── 具体的な活動内容は。

テレビシリーズのおさらい映像や映画の予告を30分に編集して配布したスペシャルDVD テレビシリーズのおさらい映像や映画の予告を30分に編集して配布したスペシャルDVD

 まず、テレビシリーズのおさらい映像や映画の予告を30分に編集したDVDを作成し、女性に人気のシネコンなどで配り、この映像を公式ホームページからも見られるようにしました。紙媒体では、登場人物4人のキャラクターそれぞれの性格、職業、趣味、ライフスタイルなどを細かく解説し、映画の世界に入りやすいよう配慮しました。PRするうえで良かったのは、テレビシリーズが30代の独身女性の幸せ探しをテーマとしていたのに対し、映画は、40代になったキャラクターのうち2人が子育てをしている設定で、40代の主婦層もターゲットに取り込めた点です。おりしも、「アラフォー」という言葉がもてはやされ、結婚後も仕事をして社会に認められている女性たちが脚光を浴び始めた時期でもありました。女性誌と連携してパーティー付きの試写会を催し、ブログのクチコミで評判が広がるような仕掛けをすることで、「映画だけ見ても楽しめる」という雰囲気を醸成しました。

マスコミ関係者がヒットを後押し

── ヒットの要因をどのように分析しますか。

 何といっても映画のできが良かったこと。そして、公開の時期を10月から8月に早めたことも奏功しました。アメリカでの公開が5月なのに秋まで待てない、という声を受けての決断でしたが、アメリカで大ヒットした熱が冷めないうちに公開できたことは大きかったですね。

 この映画ならではの動きとして特徴的だったのは、マスコミの応援が強力だったことです。「情報番組で扱いたい」「バラエティー番組のパロディーに使いたい」といった映像の貸し出し依頼が引きも切らず、社会現象として広がりを見せました。それと、パトリシア・フィールドが担当したファッションへの関心が高く、女性誌なども、映画紹介のページではなく、巻頭やファッションページで特集したいとの働きかけがすごく多かったですね。映画とのタイアップになかなか応じてくれないような高級ファッションブランドが、「この映画だったら」と協力してくれたのも印象的でした。

── 朝日新聞で広告特集を展開しました。

 女性がどう輝いて生きて行くかを描いた力作だったので、タイトルの過激さで内容を誤解されるのはもったいないと思っていました。そういう意味で、信頼性の高い朝日新聞での展開はとても意義深かったです。4人のキャラクターをきちんと描き、かつ「『婚活』時代」(光文社新書)の著者・白河桃子さんのコラムを掲載して情報の信頼性に厚みを持たせるという朝日新聞社からのアイデアも意図に沿ったものでした。実は、公開が始まってから宣伝部が驚いたのは、50代の夫婦の観客が予想以上に多かったことで、朝日新聞での告知が効いたと見ています。改めて感じたのは、新聞広告は意外性を狙えるメディアだということ。今回は、朝日新聞で「SEX」という言葉が登場する珍しさがインパクトとなりましたが、社会的な映画をエンターテインメント性を持たせて紹介するなど、他の映画の宣伝にも応用できるのではないかと思っています。

── 公開後の展開は。

 おかげさまでロングランが続き、ターゲットが絞られた映画にもかかわらず、興行収入は10月段階で16億円を突破しました。来年1月23日にはDVDも出る予定で、もうひと盛り上がりするのではないかと期待しています。

D面
8/6 夕刊センター版 A面
 B・C面