生活者にとって「いいものを安く」とは普遍的なニーズだが、加えて、商品が持つブランドの世界観が重要な選択基準となっている。メーカーはどのように「売れるブランド」を模索しているのか。花王・ファブリック&ホームケア事業ユニット・ブランドマネージャーの深澤勝義氏にうかがった。
インサイトと連動し購買喚起をはかる
── 購買につなげるためには。
まず、ブランド独自の生活者への“約束”と世界観を明確に持つというのが大前提です。さらに、定量調査やターゲットとの直接対話を通じて普遍的な“インサイト”を見つけ出し、ブランドと結びつけるコミュニケーションが大事だと考えます。またそれと両輪で、使って納得していただき、次の購買につなげるための機能追究が欠かせない要素だと思っています。
── インサイトとブランドを結んだ商品の成功例は。
私が担当した中では、エッセンシャルというヘアケア製品があります。若年層をターゲットとしたブランドで、発売から30数年が経過し“古い”“安い”というイメージがつきまとっていました。そこで、機能面をさらに掘り下げ、「毛先15cmのケア」というコンセプトを固めました。同時に若い女性たちのインサイトを検証すると、彼女たちの関心事は異性や友達から「カワイイ」と言われることなんですね。それとブランドを結び、「毛先15cmが変われば『カワイイ』はつくれる」というメッセージを発信しました。
── どのようなプロモーション活動を行ったのですか。
プロモーションに先がけターゲット層の方々に当社の女性社員と一緒にホテルに泊まってもらい、使用感を調査しました。その中で「むちむちになった」「ぷるぷるになった」など、若い人特有の言い回しがたくさん出てきて、コミュニケーションにそのまま生かしました。その際はイメージの一貫性に留意し、パッケージやPOP広告を含めすべてのメディアで「カワイイ」を具現化。メディアはモバイルやファッションイベントなど、若年層の関心が高いものを選びました。活動の結果、売り上げは急伸。市場でも話題となりました。
── 生活者の普遍的なインサイトと連動させていくことで購買につながると。
そう思います。「カワイイ=エッセンシャル」と、端的な言葉で商品を連想させることを私たちは“チャンク”と言っていますが、他のヘアケア製品も、「新・家族シャンプー=メリット」「アジアンビューティー=アジエンス」といった具合に生活者のインサイトと連動させてブランドの自分事化を目指しています。また、生活者のインサイトが刺激されるような時と場所の視点からメディアを選び、商品をアピールすることも大事だと考えます。例えばサンプリングでは配る場所を重視しており、メリットでは家族で観(み)に行くような映画館でサンプルを配り、楽しい思い出とともにブランドの印象をインプットしました。
生活者と流通とWin-Win-Winの関係に
── 店頭メディアの位置づけは。
店頭では、起用タレントの顔をPOPに反映させるなど、マスメディアで印象づけたイメージのリマインド効果が当然重要です。ただ、テレビCMで好意的なイメージを喚起されても商品を目の前にすると理性が働くものなので、信じるに足る機能的なベネフィットを伝えるようにしています。
── 店頭のスペースを広げるための取り組みは。
昨今の流通のニーズは、GRPが多いものから棚に並べるという単純なものではありません。そうした中でメーカーが努力すべきは、いかにブランドの付加価値を高めるかです。当社の商品が他より10円高くても、「カワイくなれるなら」「子どもと使えるから」と選んでもらえれば、お店も価格面でナーバスにならず利益を上げられます。目指すはそうしたWin-Winの関係です。また、どのお店にどの商品を重点的に並べるかの見極めも大切です。現在、例えば洗剤のカテゴリーの売り上げは、粉洗剤6割、液体洗剤4割という比率ですが、若い人は液体洗剤を使う傾向が強く、若年層の利用率が高いドラッグストアには液体洗剤を重点的に展開しています。そうしたニーズは日々変化するので、常に検証を重ねています。
── 新聞メディアの可能性は。
信頼性の高い理性メディアという点が一つ。それと、以前「母親が子どもの洗濯物を見てふと成長に気がつく」というシーンを切り取った広告を展開し反響を得たことがありますが、新聞も生活者のインサイトを意識するとすごく効くと思います。毎日見慣れているからこそ大胆なアイデアでサプライズを与えることもできますし、季節ごとの話題と連動できるメディアでもあると思います。
── 最近注目のメディア使いやコミュニケーション手法は。
生活者の生活動線をたどり、気分にあったメッセージを発信することに意義を感じています。例えばスタイルフィットという夜用の洗濯洗剤は、電車のドアステッカーが案外効くんです。仕事帰りに「今晩洗濯しなくちゃ」という気分になるからで、そうした接点をたくさん見つけることがますます大事になってくると思います。
昔の遊びが説明されており、子どもと一緒に遊びを楽しもうと思うこどもの日だからこそ成立する表現。生活者の気分を意識した「その日だけ用のキャンペーン」(深澤氏)には、毎朝届く新聞広告が最適だ