朝日新聞社広告局は、出版各社とコラボレーションし、「EDO NOVELS」と銘打った広告特集を、2007年6月27日と12月20日、そして2008年6月19日に、それぞれ4ページにわたって掲載した。江戸時代が舞台の小説の広告とともに、「江戸城大奥キーワード」、浅野妙子さんが語る「江戸時代の『心』を脚本に書きたい」など、識者による「江戸指南」があわせて掲載された。この企画は紙面だけの展開にとどまらず、賛同する書店が特設コーナーを設け、紙面と連動する形で店頭フェアを実施した。国内外の計25店で「EDO NOVELS」フェアを行った紀伊國屋書店新宿本店長の斧田壮介氏と同店課長の市川房丸氏にお話をうかがった。
来店者の江戸時代への興味を喚起
── 「EDO NOVELS」について印象をお聞かせ下さい。
最初に「EDO NOVELS」という企画名を聞いたとき、今までにない言葉だったので新鮮味を覚え、どんな書籍を取り上げるんだろうと期待を持ちました。
── 店頭で具体的な展開は。
新宿本店では、1回目(昨年6月)は、直木賞を受賞して注目を浴びていた松井今朝子さんの作品を中心に、1階フロアのカウンター前を使い「EDO NOVELS」フェアを3週間展開しました。2回目(同12月)は、佐伯泰英さんの文庫を中心としたラインアップだったので、文庫売り場である2階フロアにコーナーを設けました。いずれも、朝日新聞に掲載された4ページの広告を増し刷りにして提供されたので、売り場でも無料配布しました。
── 来店客の反応は。
書籍の新聞広告は、普段から抜き取ったり、切り取ったりして持参をされるお客様がいるのですが、今回も「EDO NOVELS」の紙面を自ら持って来店された方が多数いました。
売り場スペースとの兼ね合いもあり、広告に掲載された書籍がほとんどを占めるラインアップとなりましたが、「広告に載っているもの以外にどんな本があるのかも参考にしたい」といった感想も聞こえ、関連する書籍への関心までも高めることができたようです。実際に、江戸の町の古地図や江戸仕草(しぐさ)についての解説本など、いわゆる関連本に関しては、意外と動いたな、という実感があります。通常、そうした本は専門書のコー斧田壮介氏ナーに置かれていて、本当に好きなお客様の目には触れるのですが、時代小説が好きなお客様が手にする機会はあまりないというのが実情です。「EDO NOVELS」というくくりによって来店者の江戸時代への興味を喚起したことで、関連本も購入されたのでは、と見ています。
「隠れた名作」で企画にふくらみを
── 書籍の売り上げの動向は。
売れるもの、目立つものが売れる、という傾向はあります。書店の棚の中から興味を引く1冊を探し出すというよりも、目立つところに平積みされている本から選ぶ、という感じですね。「本を発見する」「出会う」といったことが書店に足を運ぶ楽しみだったと思いますが、そんな風に「書店を遊ぶ」というお客様が減ってきているのかもしれません。若い人からはやはり、「ケータイ小説」について聞かれることが多いですね。
── 目立つものが売れる状況の中、今回のような新聞広告の企画をどう評価されますか。
書店では、ある程度テーマを設定してフェアをすることはできますが、そのジャンルの周辺情報を細かく説明する、ということまでは取り組めません。4ページという大きな紙面を割いて、これだけ江戸について詳しく解説できるのは新聞の特長と言えるでしょう。解説すると、興味のある読者はひきつけられ、ひいては書店に足を運んでくれると期待しています。
今後期待したいのは、「隠れた名作」も取り上げてもらえたら、ということです。広告がメーンなので「売れ筋」の本を中心に企画されることが多いと思いますが、実際に売る側からすると、売れ筋は企画の良(よ)し悪(あ)しにあまり左右されずに、ある程度は売れます。それはそれで大切なのですが、たとえば司馬遼太郎や松本清張といった人気作家も、数は多くありませんが江戸時代を描いた作品を手がけています。これがまた、非常におもしろい。そういった隠れた名作も特集記事などで取り上げられると、企画自体に広がりが出てくると思います。
また、「EDO NOVELS」という言葉は非常にいいネーミングですし、小説だけに限らないジャンルというのもおもしろいと思いますね。広告はもちろん、記事部分でも、頻繁(ひんぱん)にこの言葉が紙面で使われると、より広がるのではという期待があります。書店としては、手間やスペースの限界はあったとしても、新聞社や出版社側の企画をさらに膨らませるような独自の品ぞろえを、来店するお客様に提案していけたらと考えています。