啓発活動のもとに企業・商品広告それぞれの効果を追求

 昨年夏、長らく例がなかったデング熱の国内感染が発覚したのは記憶に新しい。フマキラーはそれを受け、これまでの企業姿勢を一層強めて啓発活動に注力し、朝日新聞へ複数シリーズの小型広告を出稿。企業の姿勢を伝えながらも、商品広告では効力を前面に打ち出し、カテゴリ全体で前年対比を上回る売り上げを獲得している。

デング熱騒動を受け「命のそばに」プロジェクト開始

川端美虹(みこ)氏 川端美虹(みこ)氏

 フマキラーは5月25日~6月14日および7月12日~19日の期間、朝日新聞に4シリーズの小型広告を出稿した。

 感染症啓発キャンペーンの企業広告と、それにひもづく二つの殺虫剤の広告、そしてもう1種類は猫忌避材と呼ばれる、庭などでいたずらをする猫対策の商材の広告だ。用途と効力が一瞬で伝わるクリエイティブは、売り上げにも貢献した。

 同社の主力事業は、売上の7割を占める殺虫剤、除菌剤などの家庭用品、犬猫忌避剤を含む園芸用品の三つ。

 プロモーションの考え方について、宣伝・広報担当の川端美虹(みこ)氏は「限られた予算を最大限に生かすため、毎年各ジャンルから重点商品を絞り込み、多面的なコミュニケーションを図っています」と語る。

 今年も結果的に三つの商品に注力したが、広告展開の組み立ては例年とは異なっていた。

 背景にあるのは、実に69年ぶりに確認された、昨年8月のデング熱の国内感染。これを受けて今年はフマキラーでも積極的に啓発活動を行う方針を打ち出し、「命のそばに」と題したキャンペーンを立案した。

 その傘の下、国内向け殺虫剤では同社史上最も強い「効き目プレミアム」シリーズを開発。スプレー式の「フマキラープレミアム」と、腕などに付ける電池式の「どこでもベープ プレミアム」を主力商品とした。

 同社は企業理念に「ひとの命を守る。ひとの暮らしを守る。ひとを育む環境を守る。」と掲げ、デング熱やマラリアなどの感染症が今も人々の命を脅かしている国々では、商品展開とともに啓発活動も行っている。今回の国内キャンペーンにも、こうした姿勢がベースにある。

 また、東南アジアや中南米の蚊は日本の蚊より薬剤への耐性があり、これらの国で販売する商品はより効力の高い薬剤を使用する必要があるため、その研究を下地にした国内向けの新商品も早急に実現した。

 「当社はずっと『命を守る』という思いで殺虫剤を開発してきました。昨年のデング熱国内感染には、社員の皆が、日本であってはならないことが起きたという衝撃を受けました。訪日外国人の増加などを考えても、日本でも感染症は身近になっています。そこで、今年は啓発活動に注力すると早々に決定し、1月に実施した卸店と販売店向けの発表会でも『今年を感染症元年として立ち向かう』ことを強調しました」

インパクトあるクリエーティブで効力を伝え売り上げ向上

 啓発キャンペーンは、殺虫剤が売れ始める初夏に開始。まず5月25日からの1週間、昨年のデング熱国内感染の発端となった代々木公園の最寄り、JR原宿駅の構内で交通広告を展開した。

 続いて6月1日からの1週間、新聞広告を出稿。併せてプレス向けセミナーや、子供向けのレクチャーなども行った。

 毎日異なるクリエーティブで出稿した新聞広告は、日常に潜む蚊の恐ろしさを端的なコピーに込め、まるで紙面に止まっているかのようなリアルな蚊の写真を添えた。

 同社の開発拠点の広島工場で飼育されている蚊を東京のスタジオに輸送し、あらゆる角度から1日がかりで撮影。SNSなどでは、狙い通り「本物の蚊かと思った」と話題になり、交通広告とも合わせてテレビ番組の取材にもつながった。

※画像はPDFへリンクします。

 

2015年6月1日~7日付 朝刊「命のそばに。」

 続けて、前述の「効き目プレミアム」2商品を1週間ずつ出稿。同時にテレビCMも開始した。非常に高い効力を持つものの、薬事法の関係上、どう伝えるべきか、という点は悩んだという。

 川端氏は、「過去に朝日新聞に出稿した際の調査などから、きっと朝日新聞社にクリエーティブをお任せすれば最も効果的なものを提案いただけるだろうと思い、細かい指定はしませんでした」と振り返る。

 実際に、2商品とも複数の候補から「これしかない」と社内の意見が一致したのは、最もインパクトがあった案だった。電池式の商品は、腕などに付ける使い方が明確に分かることも重視した。

 

2015年6月8日~14日付 朝刊「フマキラープレミアム」

 

2015年7月12日~19日付 朝刊「フマキラープレミアム ベープ」

 「プレミアムと銘打ってはいますが、商品広告で訴えたいのは高級感よりもとにかく効力だと、選ぶ視点になって改めて気付きました。出稿後の調査では購入意向が高く表れ、現時点で殺虫剤全体の売上も前年対比を上回っているので、効果を実感しています」

 一方、今年の新商品である猫忌避剤「猫まわれ右 びっくりスプレー」のシリーズ広告の反響も上々だ。

 こちらも、ペットとして猫を飼う人への配慮などの課題を伝え、表現は新聞社サイドへ一任。すべての猫ではなく“悪さをする猫”向けだと分かるコピーとビジュアルで、柔らかに特徴を伝え、市場拡大につながった。

 

2015年5月25日~31日付 朝刊「猫まわれ右びっくりスプレー」

 新聞広告の利点について川端氏は、他のマス広告に比べて滞在時間が長く、記事を読む流れで能動的に読まれること、また信頼性が高く世帯単位で家族の目に触れることを挙げる。

 「出稿後の調査報告もとても助かっています。今後の施策にも生かせますし、自由回答は開発担当へもフィードバックしています」  

 啓発キャンペーンは来年以降も継続。イベントなども増やし、より立体的に訴求していく。