資生堂は今年1月21日、シニア女性向けの総合ブランド「PRIOR(プリオール)」を発売。マス広告での認知促進と、地域に根差した活動による接点拡大の両面で、シェアを伸ばす意向だ。
シニア女性にはAISASでいう「Search」がない
今年1月、資生堂からシニア女性をターゲットとした大型ブランド「PRIOR(プリオール)」がデビューした。足掛け3年、累計6,672人へ調査を行い、彼女らの生活や意識、具体的に商品に求めるものまでを追究。数年後には50歳以上人口が日本の全人口の半数を占めるという超高齢化社会に向けて、消費意欲の高いシニア女性のシェア拡大を狙う。
過去にも同社では、この世代に向けて商品展開を進めてきたが、苦戦していたのが現状だった。ヘアケアブランド「TSUBAKI」のローンチを成功させた手腕をもってプリオールのブランドマネージャーに就任した石川由紀子氏は、「最初からブランド開発を予定していたわけではないんです」と語る。「当社の提供する商品や美容情報と、お客様が求めるものに隔たりがあるのではないか。そんな問題意識がまずありました」
そこで2012年7月、社内にシニア研究プロジェクトが発足。最初は石川氏含め3人で、リアルな50歳以上の女性たちを知るためのさまざまな調査を実施した。「そのひとつエスノグラフィーでは、被験者のご自宅を訪問しました。驚いたことに、誰も鏡台に向かわず、洗面台でパパパッと。でも、女性として美しくありたいという意識は高く、いいものはすぐに周囲にあげたり勧めたり。友人やご近所の非常に小さいコミュニティーの中で、すごいスピードで情報と商品が回っていたんです」
彼女らの行動には、購買プロセスで指摘されるAISASモデルでいう「Search」、調べて吟味するプロセスがほぼないのだ。振り向いてもらうためには、まずその小さいコミュニティーに入りこむ必要があった。
「どこで買えるの?」 新聞広告にダイレクトな反応
プロジェクトチームでは、地域の事業所主体の美容講習会を開始し、シニア女性向けの情報誌を発行。調査や施策を通して、「商品への具体的な期待」も見えてきた。細かい動作が面倒だから、省エネで最大限にきれいになりたい。理論的にはシワが目立つとしても、「ツヤッ」「キラッ」で気分が上がる。2013年6月、石川氏は「やはりブランドが必要だ」と提案。試作を重ね、100人単位でモニターを集めての大規模調査を繰り返した。「彼女たちの理想の仕上がりを追求し、機能と心情のバランスが取れるスイートスポットを見つけていく。そうしたら1年半が経っていました。お宝探しの旅でしたね」
ニーズを集約したコピー「大人の七難 すんなり解決」では、「すんなり」が最重要だと石川氏。そうして迎えた発売日と翌日の新聞広告には、女優の原田美枝子さん、宮本信子さんとともに、ごく一般の女性を掲載。前述の小さいコミュニティーには皆より少し情報通の“プチカリスマ”が存在し、その人をお手本にしているという実態に即したクリエーティブに仕上げた。ちなみに石川氏も登場、ブランドへの親近感が湧く演出だ。発売翌日からはエリアごとに順次、折り込みチラシも活用した。
すると2日間で、同社のシニア女性向け専用ダイヤル「きらめきMs.美容相談室」へ500件を超える連絡が。「しかも『どこで買えるの?』と『価格はいくら?』の2つが突出していました。この直接的な反応や、登場した一般女性への共感、また事後調査での純粋想起率4.6%という結果にも手応えを感じました」
決して“応援歌”で終わりにはしない。そう考える石川氏は、3月の新聞広告に、彼女らが求めるソリューションを提供する意味を込めて、商品を全面に提示した。今後も広告展開と地域に根差した活動と広告展開の両方で、直裁的な感性を持つシニア女性にアプローチしていく。