2014年12月、中外製薬の広告が朝日新聞朝刊に8回にわたり掲載された。12月2日の全7段の企業広告を皮切りに、疾患の啓発広告を6回、30日の全30段の企業広告までの展開。この広告キャンペーンについて、中外製薬広報IR部 広報 & e-Comsグループ課長の佐々木文子氏とプライマリーユニット プライマリー製品政策部 第3G(RA領域)課長の南里宜伸氏に狙いなどを聞いた。
科学の力で動くアート 自社の革新性を表現
「新たなスローガンのお披露目とともに、当社が目指すこと、そして社名を広く周知させるために、新聞とテレビによる企業広告を行いました」
佐々木氏は今回の狙いをそう説明する。新しいスローガンとは、広告のメインコピーでもある「創造で、想像を超える。」。同社は2009年からトップ製薬企業を目指すプロジェクトを始動し、社内外の調査やインタビューによって「自社の強み」を掘り出してきた。「それらをあらゆるステークホルダーに伝え、理解と共感を得ることで、企業価値、ブランド価値を上げていく。この新しいスローガンは、当社の姿勢や社員の想(おも)いを言葉にして表現したものです」(佐々木氏)
ビジュアルのインパクトに目を見張る。浜辺に置かれた巨大な物体。太さの異なる膨大な量のプラスチックチューブを、コンピューターによる綿密なシミュレーションによって導かれた長さや角度に調節し、結束帯などでつないだフレームで作られている。これは、物理学者でもあるオランダの芸術家テオ・ヤンセン氏による「ストランドビースト(=砂浜の生命体)」というアート作品だ。ボディーに並んだペットボトルに蓄えた空気を動力にして自走できる。
「従来の枠組みにとらわれていては新しい薬を開発していくことはできません。これまでにないものを作り出す革新性を旗印にする当社にとって、科学と自然の力を融合して動くことのできる芸術作品という斬新なコンセプトにとても共感できたのです」
佐々木氏は、このアート作品を起用した理由をこう説明する。製薬会社の広告は安心や優しさを伝えようとするものが多いが、あえてシャープな世界観を表現した。インパクトのある広告にしたのには、もう一つ理由がある。「一般の方、特に若い年代の方たちの当社に対する認知度はそれほど高くありません。まず『これ、なんだろう?』と目に留めてもらい、社名を知ってもらいたかったのです」と佐々木氏。広告をよく見てみると、動くアートの前には1匹のラブラドール・レトリーバーが。「この作品だけではやや無機質な感じになってしまいます。製薬会社ですので『生命感』も添えたいと考え、犬に登場してもらいました。温かみや親しみやすさも表現できたと思います」
2014年12月30日付 朝刊 全30段
反響は予想以上に大きかった。「この物体は?」「撮影場所は?」といった問い合わせが、電話やメールで多数寄せられたという。社内でも好評で、CMで使った映像をイベントや会議で使いたいという依頼や社員が家族に褒められたといったエピソードもあったという。「インナーモチベーションの向上に効果があったととらえています」(佐々木氏)
部門間の連携でメッセージを効果的に発信
広報IR部による企業広告の取り組みが進む中、営業本部では疾患啓発のキャンペーンの企画が持ち上がっていた。そこで、部門を横断して連携することになった。
「企業広告からスタートし、疾患啓発へとつなぎ、最後は企業広告という展開です。当社としても、読者にとってもそのほうがわかりやすいだろうと考えました」と、疾患啓発のシリーズを取りまとめた南里氏。
広告で取り上げた疾患は、慢性腎臓病、関節リウマチ、ロコモティブシンドローム、大腸がん、乳がん、インフルエンザ。いずれも同社の主力領域だ。大腸がんや乳がんのオンコロジー領域と併せ、腎臓病や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)など「プライマリー」と呼ばれる領域への取り組みをシリーズで打ち出すことにより、一般の読者はもちろん、医療従事者の皆さんに当社の強みや方向性を示していけたらと考えました」(南里氏)。全国津々浦々まで届けようと、全国紙を中心に地方紙やブロック紙計34紙を組み合わせ、各県でのカバー率が30%以上になるようにしたという。新聞を読んでいる人の3人に1人がこの広告を目にする、という戦略だ。
広告のコンセプトは「家族が背中を押し、病院に行ってもらおう」。疾患啓発のコミュニケーションは医師が登場するケースが多い中、「大切な家族からのメッセージという形を取ることで、なかなか病院に足を運ばない人たちにも届くのではと考えました」と南里氏は説明する。
営業現場からは「パネルにして説明会・講演会の時に掲示したい」「病院がポスターとして張りたいと要望している」といった反響が続々と届いた。狙い通り、医療現場や医療従事者にもしっかりと響いたようだ。
これまでは、疾患別に啓発広告を出すことはあったが、今回のように複数の疾患でシリーズ展開したのは初めて。「次の掲載を楽しみにしている」という読者からの声も届くなど、シリーズという形で短期間に出稿したことの相乗効果は大きかった。また、企業広告と連携したことも意義があったという。「企業広告が先陣を切ることで、その後の疾患啓発についても中外製薬としての方向性がしっかりと伝わったのでは」と南里氏。佐々木氏も「部門間連携でコミュニケーション展開ができたことに手応えを感じています」と評価する。企業広告はブランドサイトなどでも発信しながら、2月以降もメディアに露出していく考えだ。
2014年12月22日付 朝刊 全15段