総合商社の三井物産は、社会貢献活動の一環として、長年携わってきた林業の経験も生かしながら環境教育を実施している。朝日新聞が主催する小学生向けの環境教育プロジェクト「地球教室」にも協賛し、イベントの模様を採録した企業広告が朝日新聞に掲載された。特に子ども向けの環境教育に力を入れる、その背景と狙いについて聞いた。
「人づくり」は次世代を担う子どもたちから
三井物産は、北海道から九州まで全国74カ所に社有林「三井物産の森」を所有している。面積は合計で約4万4千ヘクタールに及ぶ。日本の国土のおよそ0.1%にあたる広さだ。適正な管理を続けることで「持続可能な林業」に取り組んでいる他に、子どもたちに森の大切さを伝える環境教育の場としても活用している。その背景について、環境・社会貢献部長の守屋義広氏は、次のように語る。
「中・長期的な経営計画を練るとき、まず数十年先の世の中がどうなっているかを考えるようにしています。そこから逆算すると、例えば2020年の東京オリンピックの頃には、企業は従来型の経済的な価値を生むことと、環境への取り組みや社会的な活動を通じた社会的価値創造、この両立をより一層求められるだろうと予想できます。企業が社会で責任を果たしていくことを考えたとき、ステークホルダーとの対話や協働も重要となるはずです」
子どもを対象にする理由についてはこう語る。
「ステークホルダーには、株主や顧客だけではなく、社外有識者や地域社会も含まれます。それに加え、次世代を担う子どもたちにももっと目を向ける必要があることに気づきました。総合商社の事業は『B to B』が中心で、消費者の中でも子どもは遠い存在でした。けれども、数十年先の世の中を背負っているのは今の子どもたちです。次世代を担う彼らに接し、三井物産が取り組んでいることを伝えていくことは、将来の『人づくり』、そして『国づくり』にもつながると考えました」
さらに、森を使った環境教育は、「私たちの先達は林業のために森林を所有してきたのですが、当社の財産ともいえるこの社有林を使って、森の保全の重要性や生物多様性について子どもたちに正しい知識を身につけて、自ら考えてもらうことこそ、三井物産ができる『人づくり』なのだと思います」と守屋氏は説明する。
そうした背景から、三井物産では、様々な子ども向けの環境教育活動を行っている。小学校高学年以上を対象とした「森のきょうしつ」という森林・環境学習サイトの運営もその一つだ。クイズ形式で、楽しみながら森や自然、動物について学ぶことができる。また、小学校、中学校への出前授業も複数回実施している。「子どもたちの多くは、木を植えることだけがいいことだと勘違いしています。木を育てるためには、育った木を切って使うという循環も必要です。授業では『木(き)づかい』をテーマに話をしています」と話すのは、環境・社会貢献部 社有林・環境基金室社有林担当コーディネーターの斉藤江美氏だ。
国際森林年の2011年からは、朝日新聞が主催する環境教育プロジェクト「地球教室」にも協賛している。地球教室は「環境のことを考え、自ら進んで行動を起こす人になってほしい」という思いから始まった小学生向けのプロジェクトだ。オリジナルの教材も作成し、希望する小学校には無料で配布するほか、協賛企業とともにイベントも実施。その採録は朝日新聞と朝日新聞デジタルに掲載される。
「社会貢献活動を幅広い層に訴求できることは、新聞社の企画に協賛するメリットの一つです」と斉藤氏。社外に向けた発信ではあるが、実はインナー効果も高いという。「新聞に広告が掲載されると社内からの反響も大きく、当社の環境・社会貢献活動を社員に知ってもらう機会にもなっています」(斉藤氏)
社会に根付いたCSR 新たに「サス学」を実施
2014年9月には、地球教室のメインイベント「かんきょう1日学校」が東京・有楽町の朝日ホールで開催された。小学4年生から6年生まで約100名が参加し、協賛企業が自社の環境活動を発表した。三井物産は「森のめぐみと林業の仕事」というテーマで授業を行った。
10月には、千葉県にある三井物産の森、亀山山林で「森の課外授業」も開催。自然豊かな森の中で、自然と触れ合う機会がなかなかない親子が、間伐や自然観察を体験した。「親子20組の募集で、1千件近い応募がありました」(斉藤氏)。それぞれのイベントの告知広告とその模様を採録した広告特集も朝日新聞に掲載。11月19日付朝刊の「森の課外授業」の特集では、森で間伐体験をする子どもたちのイキイキとした様子を伝えている。
同社では、持続可能(サステナブル)な未来を創る力を育むための学びを「サス学」と名付け、2014年の夏に初めて、東京・大手町の三井物産本社で「三井物産『サス学』アカデミー」を開催した。5日間に及ぶプログラムで、子どもたちは、同社の事業活動や環境・社会貢献活動を題材に、地球環境などの社会問題を様々な角度から学び、それらを自分たちの問題として考え、解決方法を見つけ出し、テーマである「未来の仕事」についてプレゼンテーションを行った。その模様を朝日小学生新聞に3回にわたって掲載し、紙面の抜き刷りは環境イベントなどの機会に配布している。「『サス学』アカデミーに参加した子どもが、森の課外授業にも参加するなど、相乗効果も生まれています」(斉藤氏)
子どもとのコミュニケーションは、イノベーションのヒントにもなると期待する。「イベントではできるだけ営業の部署にも声をかけて、直接子どもたちとふれあう機会を設けています。私自身、「なぜ?」「どうして?」という子どもの純粋な質問や豊かな好奇心に、とても刺激を受けています。柔軟な感性に触れることはひらめきにもつながるはず。ビジネスにもプラスに働くと思います」(守屋氏)
現在、企業の社会貢献活動に対する世間の意識は、10年ほど前から徐々に変わってきているという。
「企業は社会で生かされているもので、社会的責任などを果たすと共に、社会に対して働きかけ、社会的価値を高めることで企業価値の向上につなげるというCSRの本質が根付いてきた実感があります。若い世代ほど意識が高いんです。今後は、世の中に必要なことであれば、同業他社とも連携をとって活動することも視野に入れています。そうすることで、社会貢献活動は企業の宣伝のためではないことが、より深く理解してもらえると思います」(守屋氏)