ユニークなデザインの新型移動体 新聞を起点に話題広げる

 9月10日、誰もが目を留める個性的なバイクがデビューした。その名は「トリシティ」。二輪バイクのフォルムで前輪が2つある「三輪バイク」だ。この2カ月前の7月1日、ヤマハ発動機の全15段広告が朝日新聞紙面を飾った。「2014年、LMW発進」のコピーに、赤い文字でデザインされた「LMW」もパッと目を引く。だが、車両は全貌が見えない。果たしてLMWとは?

傾けて曲がるバイクならではの運転感覚と安定感のある乗りやすさを両立

田中伸明氏 田中伸明氏

 「カーブを曲がる時、乗用車や、後輪が2つある三輪バイクが、ステアリング(ハンドル)で進行方向を変えるのに対し、二輪は車体を傾けることで曲がります。英語で『傾く』は『Lean(リーン)』。LMWは『Leaning Multi Wheel(リーニング・マルチ・ホイール)』の頭文字です。二輪のように傾けて旋回する三輪以上の車両の総称で、当社独自のシステムを搭載した新しいカテゴリーです」
  そう説明してくれたのは、ヤマハ発動機 広報宣伝部宣伝グループ主査の田中伸明氏。このLMW最初の製品が「トリシティ」だ。二輪は走り出しや低速時にどうしてもフラついてしまうが、初心者でも安定感のある運転が可能。それでいて、二輪と同様の操作性と乗り心地を実現している。ボディーコピーにもあるが、「2+1輪のユニークなスタイルは、まさに第3の移動体」。LMWカテゴリーのヤマハ製三輪バイクは国内初登場だ。

 「当社ではガソリン車ばかりでなく、電動バイクや電動アシスト自転車、ボートなどの水上の乗り物と、様々なパーソナルモビリティを手がけており、これらを使用するシチュエーションと技術を組み合わせることでさらに進化させられるものと考えています。その第一弾がLMWであり、新しいカテゴリーブランドの訴求とともに、『ひろがるモビリティ、はじまる』と宣言したのが、今回の新聞広告です」(田中氏)

 「トリシティ」のターゲットは、バイクに乗り慣れている層はもちろんだが、二輪免許が取得できる16歳から30代前半の若い層へのアピールに力を入れているという。その背景には、若者の二輪車離れがあるという。
  「興味の対象がスマホやゲームなどに移ってしまったことが原因のひとつと考えられますが、興味を引くような機能やデザインならば若い人たちにもきちんと響くことが様々な調査からわかっています。そうした製品を開発し、しっかりと情報を届けることが重要と考えました」と田中氏。イメージキャラクターに女優の大島優子さんを起用し、彼女が小型二輪免許を取るプロセスを特設サイトで紹介するなど、コミュニケーションも若者層を意識している。大島さんは努力家の一面と優れた運動神経で見事免許を取得した。

2014年7月1日付朝刊 全15段 2014年7月1日付朝刊 全15段

 まったく新しい機構を搭載した、新しい乗り物の登場という高揚感を盛り上げるために新聞広告を出稿したが、そこに至るまでには社内で様々な議論があったという。
「ターゲットである若い人たちに情報が届くのかと懸念する声もありました。しかし話し合う中で、若い人たちのバイクライフには、おそらく親の経済的な支援が必要だろう、と。親世代の40代以上は若いころからバイクに慣れ親しんだ世代で、新聞を読む習慣もあります。テレビCMやウェブで子ども世代の興味を引き、新聞広告で親世代にも情報を届けることで、親子共通の話題として盛り上がってもらえるのでは、という期待も込めました」と田中氏。掲載した7月1日と翌2日には同社の特設サイトへのアクセスが急増、「初速の反応の良さで、新聞の力を改めて実感しました」と評価した上でこう続けた。
「今の時代、新聞広告だけで情報発信を完結させることは考えにくいが、新聞広告のリーチや反響の速さは、ウェブやソーシャルメディアへの誘導など話題拡散のきっかけになります。ターゲットや目的を考慮しながら、今後もクロスメディアの中で新聞も活用していきたいですね」

二輪離れした若者の目に魅力的に映るモノづくりとプロモーションを

 「トリシティ」は、9月発売の2カ月前という早いタイミングでの発表だったが、ウェブコンテンツや、全国7都市で実際に製品に触れられるエキシビションを開催するなど、継続的に話題を提供し続けたことで期待感を膨らませることに成功した。「エキシビションでは私も店頭に立ちましたが、『ウェブで見たバイクだ』『大島優子ちゃんのCM見ました』と若い人たちから声をかけてもらい、情報がしっかりと届いているという手応えがありました」(田中氏)。また、本社と、販売部門であるヤマハ発動機販売の若いメンバーでプロジェクトチームを立ち上げ、プロモーション手法を検討。100人のモニターに納車の様子や「トリシティ」を初めて見た人の反応をツイートしてもらう企画や、5つの大学のミスキャンパスコンテストの候補者を「トリシティアンバサダー」に任命、その魅力を伝えていくプロモーションなど、若年層を意識した取り組みもスタートしている。

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人目を引くスタイルの「トリシティ」 人目を引くスタイルの「トリシティ」

 こうした戦略が奏功して、当初「年間7千台」という売り上げ目標の中、予約だけで4千~5千台に達し、カラーによっては今でも納車を待ってもらうほど好調だという。
  二輪バイクの国内生産台数は、80年代に360万台でピークに達したが、2012年には40万台まで落ち込んだ。業界団体である日本自動車工業会では、100万台に引き上げることを目指している。
「『トリシティ』は125CCの小型二輪車のカテゴリーです。制限速度が60キロまであるこのクラスはバイク市場拡大のキーになると見ており、若いユーザーも開拓できる起爆剤になると期待しています」と田中氏。海外では125CCクラスはバイク市場で最大のボリュームを占める。「トリシティ」は日本と同時期に欧州でも発売するなどグローバル市場を視野に展開を進めている。また、LMWカテゴリーの製品は、今後続々と市場に登場する予定だ。