成田空港からウィーンへオーストリア航空の直行便が就航して、今年で25周年を迎えた。それを記念してオーストリア航空は、ウィーン市観光局とオーストリア政府観光局と共同で、6月6日付朝日新聞朝刊に二連版・全30段の広告を掲載した。
ホームベース・ウィーンの「音楽の都」としての魅力を発信
オーストリア航空は、毎年ウィーン市観光局とオーストリア政府観光局と共に観光キャンペーンを実施している。例年は、ゴールデンウイーク前後と初秋の2回に分けてキャンペーンを行っているが、今年は就航25周年ということで、「よりインパクトのあるキャンペーンとなるように6月から7月に広告を集中させ、全30段の新聞広告を皮切りに展開することが決まりました」と話すのは、同社マーケティング スーパーバイザーの伊東綾子氏。
就航以来、常に同社の根底にあった「音楽の都であるウィーンと日本を直行便で結ぶ航空会社」をテーマに、ホームベースのウィーンを中心に音楽に関連する観光情報を発信。25周年にちなんで、25個のトピックスを紹介する読みごたえのある紙面で展開した。「新聞は能動的に接する媒体です。そういう読者にひとつの読み物として楽しんで読んでいただき、できれば保存してもらいたいという狙いがありました」と、新聞の特性を生かした企画だったと振り返る。
最も伝えたかったことは、「生活のあらゆる場面に音楽が満ちた穏やかな国である」というオーストリアの魅力だ。それは25個のトピックスの最初に紹介されているように、機内のインテリアやサービスにも反映されており、オーストリア航空に乗った瞬間から体感できる。名所やイベントの情報も、旅をする人が「知ってうれしくなるような情報」になるように心掛けたという。
「ガイドブックのような情報をただ掲載するのではなく、私たちが現地に行って実際に体験してきたすてきな時間や感動したこと、面白かったこと、本場に行かないと味わえないことなどを盛り込みました。ウィーン市観光局とオーストリア政府観光局と情報を共有しながら、とっておきのトピックを25個に絞っています。旅はエンターテインメントでもあるので、訪れてみたくなるような、臨場感が出るように工夫しました」(伊東氏)
紙面にちりばめたイメージ写真は、ウィーンの市民が音楽を楽しむ様子のカットを大きめに、プロの音楽家が演奏するシーンは小さめに配している。その理由について「オペラやクラシックなどの音楽は高尚で近寄りがたいイメージがあると思います。けれども、ウィーンでは決してそうではなく、大人から子どもまで、それぞれのレベルで音楽を楽しめる環境があるんです。特にオペラがオフシーズンになる夏の期間は、外で楽しむ演奏会もたくさん開催されています。そんな開かれた環境であることをお伝えするためにも、市民目線の写真を中心に選びました」と伊東氏は語る。
グローバルブランディングがリニューアル
定められたトーン&マナーの中で日本らしさを追求
記事体広告の下には、オーストリア航空の広告も掲載されている。ウィーン本社が定めた世界共通のフォーマットをもとに日本版にアレンジしたもので、オーストリアを旅した前後の旅人の心の変化を表している。このブランドコンセプトは今年5月にリニューアルしたばかり。リニューアルのポイントについて伊東氏は、次のように説明する。
「オーストリア航空のブランドプロミスは『We fly for your smile』(あなたの笑顔をのせて飛びたい)です。このタグライン自体は現在も変わらないのですが、メッセージの伝え方が変わりました。例えば、これまでは『成田からの唯一の直行便』『新しい機材の魅力』『11時間で快適に』といったコミュニケーションが中心で、『お客様の笑顔のために、どのように飛ぶのか』という『How』で表現していました。それを、さらに原点に立ち戻り『なぜ私たちは飛びたいのか』という『Why』にフォーカスすることで、お客様の視点に立ったコミュニケーションに変化したのです。お客様にはそれぞれ旅の理由がありますよね。旅によって何か心境の変化があるはずです。それを『Before/After』、または『From/To』を使って、旅をする人の心の変化を表すストーリーにしています。『A地点からB地点に移動するだけではない、心に素敵な変化をもたらす旅のために、私たちは飛びたい』という考え方です」
同社の広告は、ロゴはもちろん、「Before(To)/After(From)」の配置やサイズ、色のトーンなども細かく指定されている。そのルールの中で、日本で展開するにふさわしい広告にしようとこだわったのは、記事体広告と同様に「音楽」をキーワードにアレンジすることだった。広告写真も日本版のオリジナルで撮り下ろした。その背景について伊東氏は、
「競争の激しい日本の空では、本国で決められたクリエーティブをそのまま展開するのではなく、より効果的に伝えるための言葉やモチーフが必要と考えています。今回掲載したような記事体広告も日本ではなじみ深いものですが、オーストリアでは珍しい体裁だそうです。そうした違いは、本社とのやりとりの中でしっかり伝え、理解してもらっています」と語る。
同時期の広告展開としては、JR恵比寿駅の大型看板や東急沿線の車内広告、女性誌発行のウェブマガジンのほか、7月16日には朝日新聞の広告特集『ボン マルシェ』にも掲載した。「オーストリア航空の利用者にはシニア層も多く、その層にも確実に届けられる新聞広告は広告戦略には欠かせません。朝日新聞には継続して広告を掲載していますので、読者に中にも少しずつですがオーストリア航空やウィーン、オーストリアのイメージが定着しつつあると思います」と伊東氏。
今まで積み重ねてきたイメージは、今後も生かしていきたいと考えているという。「25年経ったから全く新しい展開を始めるというのではなく、今まで伝えてきたことをベースに新しいトピックスを加えながら、楽しみにしてもらえるような広告を今後も作っていきたいと思っています」