メディアとともに和食の魅力を発信 企業ブランド向上につなぐ

 2013年12月、「和食(日本人の伝統的な食文化)」がユネスコ無形文化遺産に登録された。海外はもとより、日本国内でも和食の魅力が再認識されている。そうした中、最近の朝日新聞に掲載されているキッコーマンの企業広告が目を引く。全5段広告で「まごころも、遺伝するのかな。」のコピーと洗練されたクリエーティブだ。同社は、朝日新聞の和食に関するイベントへの協賛や、和食の献立を提案する特集と連動する形で、継続的に企業広告を展開している。その趣旨や狙いについて聞いた。

母から子、そしてその子どもたちへ
「和食の継承」を温かなクリエーティブで

大津山厚氏 大津山厚氏

 キッコーマンは、全15段の企業広告だけでなく、様々な企画と連動した特集にも出稿している。こうしたコミュニケーションについて、同社の理事で経営企画室 コーポレート政策推進担当部長の大津山厚氏は次のように説明する。
  「2011年から、農林水産省が和食のユネスコ無形文化遺産登録の検討会を開くなど、国内外に向けて和食文化を継承し、その魅力を発信していく動きが高まりました。創業以来、和食に寄り添ってきた当社も貢献できることがあるだろうと考え、新聞や雑誌などのメディアの協力も得ながら、『和食の継承』をテーマにしたコミュニケーションに取り組むことにしたのです」

 同社は2005年に「食育」に本格的に取り組むことを宣言し、そのスローガンを「おいしい記憶をつくりたい。」とした。このスローガンをテーマにした論文・作文コンクールを社内で行った際、「誰かのためにごはんを作り、それがおいしい記憶となって、次の世代に引き継がれていく。そんな『おいしい記憶のバトンリレー』ができるといい」という内容の作品が最高賞に受賞した。この「バトンリレー」の言葉は、2010年に新しい社歌を制定する際、作詞を担当した秋元康氏も歌詞に用いている。

 この流れやコンセプトを受ける形で、「和食」を軸としたコミュニケーションを、様々な切り口で継続してきた。最近の企業広告は「まごころも、遺伝するのかな。」というコピーとともに、母から子へ、そしてその子が母になったときに自分の子へ……と継承していく味を、スタイリッシュでありながら温かみのあるクリエーティブで表現している。
  真上から撮影した料理の写真が印象的だ。「料理を中心に、家族が食卓を囲んでいる温かな雰囲気が伝わるビジュアルに仕上がったと思います。日本人の世代から世代へ、そして、それぞれの家族の世代から世代へ受け継いで行く味。『おいしい記憶のバトンリレー』を応援したいという私たちの思いを表現しています」(大津山氏)

 こうしたコミュニケーションは全15段の企業広告と、今回のように献立提案をする特集紙面や、食に関するイベントの採録紙面の下に広告を出稿するという2つの軸で進めてきた。大津山氏は「企業広告では私たちの食への思いを情緒的に訴えることに重心を置いています。全10段のレシピ提案の記事体広告のように、読者にとって役に立つ情報と全5段の企業広告を連動させることで、当社の思いを伝えながら、具体策としての商品への理解促進や読者の行動喚起もできる紙面になる」と分析し、こう続けた。
  「企画の部分は、読者を知り尽くしている新聞社からの提案がとても面白く、紙面全体がうまくまとまっていると思います」

2014年6月28日付 朝刊 キッコーマン 2014年6月28日付 朝刊
2014年3月22日付 朝刊 キッコーマン 2014年3月22日付 朝刊
2014年3月16日付 朝刊 キッコーマン 2014年3月16日付 朝刊
2013年12月15日付 朝刊 2013年12月15日付 朝刊
2013年11月24日付 朝刊 2013年11月24日付 朝刊
2013年3月30日付 朝刊 2013年3月30日付 朝刊

読者のお役立ち情報とともに
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2014年5月6日付 朝刊 広告特集 2014年5月6日付 朝刊 広告特集

 朝日新聞が提案する広告特集に積極的に協賛するようになったのは2010年ごろからだ。テスト形式で商品知識を学ぶ「生しょうゆ検定」「豆乳検定」や、辞書編集部を描いた『舟を編む』の著者の三浦しをんさんと、東京農大名誉教授の小泉武夫さんが「『おいしい』という言葉を使わないでおいしさを表現する」というテーマに挑戦したイベントの企画など、「本当にびっくりするような興味深い企画の提案がありました」と大津山氏は笑顔を見せる。「新聞の読者が興味を持って読んでくれて、当社のメッセージが届く。やはり情報や思いを文字で表現できるのは大きいですね」

 朝日新聞の広告特集『ボン マルシェ』と連動した、5月のレシピ提案企画は好評で、読者のモニター調査では「ぜひ作ってみたい」「実際に商品を見てみたい」といった、読者の行動につながるコメントも数多く見られるという。レシピを切り取って保存しているケースも少なくない。
  「全5段広告についても、『ほんわかとした』といった共感のコメントや、キッコーマンに対しての好意的な発言など、非常に高い評価をいただきました。心強い半面、このような感想を見ると、さらにいい企画に取り組んでいこうと、身が引き締まります」(大津山氏)

 一方で、課題としているのが若年層への訴求だ。食の選択肢が増えている今、日本の食文化を支えてきたしょうゆの価値を、若い世代にもしっかり伝えていかなければならない。同社ではかなり早い時期から工場見学を一般の人に実施してきたが、2005年からはさらに食育への取り組みとして、実際にしょうゆ醸造を学べる体験型の工場見学も始めた。こうした活動を通じて、日本の発酵食品の魅力や和食の大切さなどを伝えている。ただ、若い世代に対するコミュニケーション手法については試行錯誤の段階という。今後の展望について次のように語った。
  「朝日新聞に掲載する広告特集や当社のメッセージは、若い人にも理解・共感してもらえるはず。ウェブコンテンツとして再利用する、あるいは若い人も参加したくなるイベントで発信するなど、メディアの皆さんとともに考えていきたいですね」