企業姿勢を伝え、知名度を向上、営業支援にもつなげたシリーズ広告

 新日鉄興和不動産は、2012年10月に興和不動産と新日鉄都市開発が合併して誕生した。興和不動産は東京都心のプライムエリアでオフィスビルの開発・賃貸を中心に事業を展開し、新日鉄都市開発は都市部の市街地再開発、建て替え、等価交換など都市再生分野のマンション開発・分譲を中心に手掛けてきた。新たな船出を迎えた同社は、14年3月に朝日新聞に全5回のシリーズ広告を掲載した。

事業の原点に立ち返り、訴求ターゲットを転換

吉田みき子氏 吉田みき子氏

 新日鉄興和不動産は、市街地再開発やマンション建て替え事業などの「都市再生」分野を得意としている。市街地再開発では地権者の意見を取りまとめたり、立ち退きをお願いする難しい交渉が必要で、10年以上におよぶプロジェクトになることもある。また、マンション建て替えでは、一人一人の権利者と向き合い、対話を重ねながら合意形成を図っていくなど真摯(しんし)で粘り強い対応が必要とされる。この分野において業界トップクラスの実績を持つ同社は、朝日新聞東京本社版に記事体広告と純広告を組み合わせた企業広告を掲載した。

 この広告の狙いについて、広報室の吉田みき子氏は次のように話す。
「当社は2012年10月に興和不動産と新日鉄都市開発が合併して生まれた新しい会社です。それに伴い新しい社名の認知を広めたいと、13年度の中頃から企業広告を企画していました。同時に社内からは、自社の強みを効果的に伝えることによって営業をサポートしてほしいという強い要望もありました」

 業界屈指の実績を持つ同社だが、地権者や管理組合がディベロッパーを選ぶ際、大手の競合他社とともに、その選択のリストに名を連ねることが重要な課題だ。そこで、合併後初めての大型出稿となる今回の広告では記事体広告を利用した。これまでアプローチしてきたのは主に首都圏に勤務するビジネスパーソンだったが、今回は地権者やマンションの管理組合、築年数の古いマンションに住む人など、個人をメーンターゲットにした。
  また、全5回のシリーズ広告によって接触率、閲読率を高め、真摯な事業スタンスを広く知ってもらおうと考えた。

2014年3月4日付 朝刊 全15段 2014年3月4日付 朝刊 全15段

 「当社の街づくりの原点は、地域の方々の懐に飛び込んで地権者や住民一人一人と真摯に向き合い、粘り強くご要望をくみ取ってきたことです。そして街の持つ歴史や良さを生かしながら、さらに資産価値を向上させる開発を行ってきたこと。こうした事実を十分な紙面を割いて伝えたいと考えました。その点、記事体広告なら、当社の特長を余すところなく伝えることができます」(吉田氏)

 例えば、こんなところにも同社の事業スタンスが表れている。
  「マンション建替え円滑化法」では、所有者の5分の4以上の賛成・同意が得られれば建て替えを進めてよいと定められている。しかし同社はこれまで円滑化法を使って手がけた全てのプロジェクトで、所有者全員の合意を得た上で建て替えを行ってきた。また、合意形成の難しさなどから途中で撤退するディベロッパーも少なくない建て替え事業において、同社は一度も撤退したことはなく、全ての事業を完遂している。

事業に取り組む社員の「人間力」を広告で表現

 広告クリエーティブで打ち出したのは、「都市開発力とは、人間力そのものである」という同社のポリシーだ。
「手がけた物件そのものに焦点を当てることも考えましたが、社員に登場してもらい、再開発の意義や街づくりにかける社員の思い、苦労したエピソードなどを伝えることにしました。純広告と組み合わせたのは、カラーのビジュアルで視認性を高め、まずは新社名を知ってもらった上で記事を読んでもらいたいと考えたからです」(吉田氏)

2014年3月 朝刊 全7段シリーズ

2014年3月10日付 3月10日付
2014年3月19日付 3月19日付
2014年3月24日付 3月24日付
2014年3月28日付 3月28日付

 掲載後は「詳しく話を聞かせてほしい」という問い合わせがあったほか、記事体広告に登場した社員あてに、実際に担当していたマンションの権利者から「広告を見てうれしくなった」と連絡があったという。また、純広告で写真のモデルを務めた若手社員は、広告を営業ツールとして持ち歩き、会話のきっかけにしているという。
  今回の広告によって、「社名の認知を広める」「事業スタンスを伝える」「営業を支援する」という狙いをおおむね達成することができた、と吉田氏は言う。

 キャンペーンでは新聞以外にも、ビジネス誌、交通広告、ポータルサイトで広告を展開した。これほど多面的な展開を行いつつも、吉田氏は「メーン媒体として新聞広告の有効性は非常に高い」と言い切る。
  その理由として、「当社は合併会社であることから、社名の認知を広めることは当然重要なことですが、それと同じくらい、社会的な信用度を高めることが重要であると認識しています。新聞は社会的な信頼度が圧倒的に高いメディアであり、企業の姿勢をメッセージとして訴求することを通じて、ステークホルダーからの信頼を得るには最も適した媒体と考えています。もちろん、企業の認知度や信頼度は一気に上がるものではありません。これからも継続的な広告展開を行い、少しずつでも着実に認知・信頼を高めていきたいですね」という。