この秋、新雑誌が創刊する。その名は『MADURO(マデュロ)』。50代と60代の「成熟男子」に向けたライフスタイル誌だ。3月13日付朝日新聞朝刊に「創刊準備号、間もなく発売!」の全面広告が載った。同誌の紹介に続いて、「やんちゃボウズはやんちゃボーズ!?」のコピーでオーディオメーカー、ボーズのイヤホンの実体験ルポへとつながっていく。一見、『MADURO』創刊の告知広告に見えるが、実はボーズの広告だ。この狙いを、ボーズのブランドマーケティング部 部長の富藤元一氏に聞いた。
オピニオンリーダーを介して 製品を疑似体験してもらう
「現代において、もはや『マスメディア』は存在していない。そうした認識のもと、今回のコミュニケーションに踏み切りました」と富藤氏は切り出した。
「テレビや新聞を家族がシェアしていた時代、マスメディアは親世代から子ども世代まで幅広い層に情報を発信する媒体でした。しかし、インターネットやスマートフォンが普及した今、マスメディアはかつてのように機能しなくなった。そう考えているのです」
その上で、今回の出稿の背景についてこう語る。
「ソーシャルメディアが普及し、マーケティングの手法としても『拡散』という言葉が使われるようになりましたが、生活者は決してマスに拡散しているわけではありません。大小の差こそあれ、それぞれの生活者が特定のコミュニティーの中で拡散している。そういう時代ならば、ある特定のコミュニティーに対してリーチすることができないか、と考えたのです」
『MADURO』は、「ちょい不良(ワル)」が社会現象にもなった伝説の雑誌『LEON』で初代編集長を務めた岸田一郎氏が手掛ける。3月に発売された創刊準備号でも、今回の新聞広告でも、そのコンセプトを「成熟男子=やんちゃジジィ=ヤンジー」のために「まだまだオモロいことが山ほどありまっせ、死ぬまでにやっておきたいワクワクするモノコトを毎月一冊にまとめてお伝えする」と岸田氏は解説している。
「『MADURO』はコンセプトから非常にラジカルな雑誌で、ある特定のコミュニティーに対して岸田編集長ならではの言葉でメッセージを発信している。この層に属さない人には全く関心のない媒体かもしれませんが、属する人には強い求心力を秘めている。その特定のコミュニティーに、より効果的にリーチするためのツールとして、新聞広告やBS放送を活用したのです」(富藤氏)
今回の広告企画は、『MADURO』とBS朝日、朝日新聞のコラボレーション企画「成熟男子―やんちゃジジィの作り方―」の一環として展開された。昨年6月に発売したノイズキャンセリング機能を搭載したイヤホン「クワイアットコンフォート20i」を、岸田編集長自らが使い、その感想を自分の言葉で表現している。ボーズ側からの修正や要望などは一切入れていないという。
「『クワイアットコンフォート20i』は、私たちも最初に体験した時は驚きました。周囲の騒音をシャットアウトし、どんな環境下でも理想的なサウンドが楽しめる、というこの製品のテクノロジーを、より多くの方と共有したいという気持ちでいっぱいになったのです。まずはターゲット層に発信力のある人――今回は岸田編集長に、リアルな体験や感想を、自らの言葉で語ってもらうことでコミュニティーの人たちに疑似体験してもらおう。新聞、BS放送、雑誌、いずれにもそのテーマを一貫させました」(富藤氏)
たゆみなき研究開発、誠実な情報提供で ユーザーとの信頼関係を築き続ける
掲載後、「クワイアットコンフォート20iを岸田さんが紹介していた」という反響はあったが、ボーズの広告だと認識した読者や視聴者は少なかったようだ。「岸田編集長の誇張のない正直なインプレッションが届いてうれしいです」と富藤氏は振り返る。今回の連動企画に象徴される同社の活動への独自の姿勢は、ボーズという企業の成り立ちに大きく関わっている。
米国のボーズ・コーポ―ションは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のアマー・G・ボーズ博士によって1964年に設立された。大学院生時代、バイオリン奏者でもあったボーズ博士が当時最高のスペックだと思われるスピーカーを買ったが、実際とはかけ離れた音質にがくぜんとし、自らの手で生演奏の感動を再現できるオーディオを作ろうと考えたのだ。そうしたルーツを持つ同社は、研究開発を第一義のミッションとして据えている。
「研究開発の結晶としてのテクノロジー、製品、そしてよりよいサウンドライフをオーナーの皆さんに約束する。そのために、広告宣伝のコミュニケーションにおいても、誇張することなく誠実にメッセージを伝えていき、ユーザーたちとの会話を積み重ね、関係性を大切にしていくことが最も重要と考えています」。富藤氏はそう言葉を結んだ。