国内外とも売り上げが好調な富士重工業「スバル」。2013年11月から14年1月まで計3回にわたり、朝日新聞朝刊にすばらしい景色をモチーフにした企業広告を掲載した。このシリーズ広告の狙いについて聞いた。
美しい風景に書き込まれたコピー
今だから響く「王道の企業広告」
出稿の経緯を、同社のスバル国内営業本部マーケティング推進部宣伝課主事の大高慎哉氏は次のように語る。
「11月23日から一般公開された『第43回東京モーターショー2013』のタイミングに合わせ、もう一度しっかりとスバルブランドを訴求していこうと考えました」
昨年の東京モーターショーは、例年以上に同社にとって特別なイベントだった。スバルブランドを代表する「レガシィツーリングワゴン」の後継車と位置づける、「レヴォーグ」を披露するワールドプレミアの場でもあったのだ。
青空、紅葉する山並み、そして海。どれも美しく印象的なビジュアルが新聞紙面を飾った。しかし、主役であるはずのクルマは風景の一部に溶け込み、一見すると自動車メーカーの広告とは分からない。
「スバルはどちらかというと『クルマ好きが好むメーカー』という印象が強いと思います。紙面上にクルマの存在感が大き過ぎると、あまりクルマに興味がない読者は読んでくれない可能性がある。今回の企画はそんな方たちにも読んでいただきたいと思っていたので、あえてクルマを前面に出さないクリエーティブを選択しました」
もう一つ目を引くのがボディーコピーだ。最初の広告では飛行機メーカーをルーツに持つスバルだからこその安全への姿勢を、2回目では独自の技術がサポートするドライブの楽しさを、そして最後の3回目ではスバルが目指す走りと環境の両立について「ブルーボクサー」を例にしながら、それぞれ十分な文字量で書き込まれている。
「スバルの魅力とそれを支える技術と思いを文字にして、しっかりと読んでもらいたかった。その観点で、広告の受け手が能動的に『読む』新聞は、メディアとして最もふさわしいと判断しました」(大高氏)
印象的なビジュアルだったこともあり、掲載後の反響も上々だ。
「自動車会社の広告なのにクルマが小さいのが逆に新鮮でインパクトがあった」といった感想が読者から寄せられ、「意図した部分が伝わった」と大高氏は手応えを見せる。また、「最近はあまり見かけない『正統派の企業広告』に、企業としての真摯(しんし)な姿勢が伝わってきた」といった声もあったという。
販売店に広告紙面を張り出したディーラーも少なくない。アイサイトなどの安全技術がセールスポイントだが、今やどのメーカーのクルマにも類似した技術が搭載されている。
「お客様に安全技術のベースとなる歴史や考え方を説明するために、今回の広告を見ていただく。そういった場面でも利用してもらえたようです」(大高氏)
技術、楽しさ、そして思想――
流れを意識した広告コミュニケーション
同社は、昨年1月には安全運転をサポートする運転支援システム「アイサイト」を中心とした安全技術について、同6月にはテレビCMと連動した「体感スバル」の新聞広告を、いずれも各3回のシリーズで展開していた。今回の企業広告はそれに次ぐ形となった。
「技術を分かりやすくしっかりと説明し、その技術によってもたらされる安全性や楽しさをテレビCMと連動する形で訴求。それらを受けて、技術の根底を支える思想を語るという流れを作ることができた。結果として、トータルでスバルブランドのコミュニケーションができたと捉えています」
と大高氏は一連の広告キャンペーンの成果を振り返る。
実は、新聞を使ってのブランド訴求は久しぶりだった。
「以前は『クルマ好きのためのクルマ』と思われていたスバル車ですが、アイサイトをきっかけに、販売台数も含め、幅広い層に支持していただけるようになりました。このタイミングならば、企業広告にも高い興味を持って見てもらえる。そう判断しました」(大高氏)
ソーシャルメディアをはじめ、ウェブの活用が欠かせない時代でもある。今年1月には、スポーツ用多目的車(SUV)「フォレスター」が人気アニメ「進撃の巨人」とコラボしたテレビCMを一度だけ放映し、ウェブの動画コンテンツへと誘導した取り組みでは、公開1カ月を待たずに1千万回と驚異の再生回数を記録し、社内でも大きな話題になったという。
そうした新しい取り組みの結果も含め、コミュニケーションの展望について、大高氏は、
「ユーザーが自分の言葉で情報を発信してくれるネットの世界は、その発信力と拡散力を含め大きな魅力です。一方で、クルマに求める技術力や安全性を伝えるためには、情報に誠実さや正確さも求められ、それを伝えられるのは信頼性の高い新聞ならではと考えています。テレビCMで幅広く『入り口』を作り、深い情報を提供できる新聞やウェブにつなげ、試乗会に足を運んでいただき、体験していただく。そうした流れを作ることが今後のスバルが目指すコミュニケーションの方向性です」と語った。