愛用者のエピソードをシリーズで紹介 トータルのブランドイメージを構築

 アーミーナイフ、キャリーバッグ、腕時計などを提供し、130年の歴史を持つライフスタイルブランド「ビクトリノックス」。愛用者は世界中に広がり、クオリティーの高いその製品は日常生活や非日常の現場でも役立ってきた。日本支社であるビクトリノックス・ジャパンは、10月に5日連続のシリーズ広告を展開。この広告の背景に迫る。

多岐にわたる製品イメージを 「ビクトリノックス」につなげたい

田中麻美子氏 田中麻美子氏

 ビクトリノックスはスイスで生まれたブランド。中でも有名なスイスアーミーナイフはわずか9センチのボディーに30以上の機能を備え、文字どおりスイス軍にも採用されている。どのジャンルの商品でも高いクオリティーを誇り、日常生活はもちろんのこと、災害などの緊急時にも役に立ったと評価も高い。同社はそうした愛用者のリアルな体験談を伝えるグローバルキャンペーンを昨年から始めた。ビクトリノックス・ジャパンの代表取締役CEOの田中麻美子氏は、グローバルキャンペーンの狙いを次のように語る。
  「当社の商品は多岐にわたり、それぞれの商品にたくさんのファンがいます。しかし、これまではビクトリノックスというブランドではなく、商品ごとに個別に認知されていました。特に日本では「スイスアーミーナイフ」と「ビクトリノックス」というブランド名がつながっていないことが課題。愛用者のリアルなストーリーを紹介し、『Companion for your life(人生のパートナーでありたい)』というブランドメッセージを発信することで、ブランドそのものの認知を広めたいと考えました」

  そこで10月20日~24日の朝日新聞に全5段の広告を掲載。田中氏が重視したのは5日連続で掲載することだった。

  「5日間掲載し続けることで注目度も上がりますし、次の日はどんなストーリーなのかと楽しみにしてもらえます。愛用者の体験談を、読み物としてじっくり読み込んでほしいと考えました」

2013年10月20日付 朝刊 2013年10月20日付 朝刊

 広告は、世界各地のユーザーがどんなシーンでビクトリノックスの製品に助けられたかを、1日1エピソードずつ紹介するという内容。「阪神淡路大震災で避難した時にアーミーナイフのおかげで非常食の缶を開けられた」「東日本大震災の時にビジネスキャリーバッグのおかげで無事に帰宅できた」など、日本人がリアルに共感できる感動的なエピソードも盛り込んだ。クリエーティブはグローバルで統一し、ホームページとも連動させた。
  「以前からスイス本社のホームページには、当社の製品によって命拾いをしたという感謝のコメントが数多く寄せられていました。本社ではこうしたエピソードを一冊の本にまとめたくらいです。日本でも、感謝のコメントをきっかけに、阪神淡路大震災を経験した救急救命医と長く交流を続けています。このようなリアルな体験談を多くの方々に紹介したいと考えました」(田中氏)

2013年10月21日付 朝刊 2013年10月21日付 朝刊
2013年10月22日付 朝刊 2013年10月22日付 朝刊
2013年10月23日付 朝刊 2013年10月23日付 朝刊
aaa2013年10月24日付 朝刊 aaa2013年10月24日付 朝刊

ジャケットの広告を掲載後 電話が一日中鳴り続く

 この広告の掲載後、ホームページのアクセス数は急激に増え、売り上げにも貢献したという。
「最も反響が大きかったのは、10月23日に掲載した『エクスプローラージャケット』の広告です。氷点下の夜を屋外で過ごさねばならなくなった北欧の男性が、エクスプローラージャケットのおかげで寒さをしのぐことができたというエピソードでした。ありがたいことに掲載翌日は一日中電話が鳴りやまず、在庫を確保するよう、慌てて直営店に連絡したほどです」(田中氏)

 今回のシリーズ広告によって、アーミーナイフだけでなく、他の商品やビクトリノックスブランド全体の認知を広めることができ、キャンペーンの目標を達成できたという。田中氏は新聞というメディアの魅力についてこう語る。
  「新聞は社会的な信頼性が高く、老若男女問わず多くの方に読んでもらえるメディアです。なかでも朝日新聞なら全国にリーチできます。以前掲載した商品広告の反響も非常に良かったので、今回も朝日新聞を選びました。インタラクティブなメディアが増える中で、今後、新聞社にはトラディショナルなメディアならではの発想で新しいコミュニケーション方法を見つけてほしいと期待しています」

田中麻美子氏 田中麻美子氏

 同社では広報活動の一環として、子どもの幼児期に感受性を養う手助けをしたいと考え、様々な機会を捉えて正しいナイフの使い方を伝えているほか、親子でナイフを使う体験を提供する「脳育工作キット」を販売している。

 「サバイバルグッズや防災用品としてではなく、日常的な道具としてナイフを使ってほしいと考えています。危険だからと取り上げるのではなく、指先を使ったり、道具の新しい活用方法を考えたりすることで、感受性を豊かにしてほしい。CSR活動を通して、五感をフルに使うことの大切さ、危険に直面したときの判断力を養うことの重要性を伝えていけたらと考えています」(田中氏)