「医療の挑戦者」をシリーズで紹介 医療現場から社会に貢献する企業姿勢を訴える

 日本人の「命を支える杖」でありたい。2012年6月20日付の朝日新聞全国版朝刊に、このメーンコピーから始まるストーリーが掲載された。日本の「近代医学の父」として知られる北里柴三郎博士が、ドイツ留学時代に冒頭のセリフを口にしたときのエピソードが紹介されている。

「医療でイノベーション」 テルモの原点を知ってほしい

木田健一氏 木田健一氏

 これは、医療用品や医療サービスを提供するテルモの企業広告だ。この日を皮切りに、2013年3月21日までの9カ月にわたり、全16回のシリーズ広告として展開された。出稿に至った背景を、テルモの理事で広告デザイン室アドバイザーの木田健一氏は次のように語った。

 「当社の企業イメージを調査したところ、一般の方では9割近くが「テルモから想起するものは、体温計」との回答でした。でも実際は、当社売り上げにおける体温計の占める割合は1%にも満たないのです。心臓カテーテルや脳動脈瘤(りゅう)治療用コイルなどの先進的医療製品から痛くない針やあらかじめ薬液の入っている注射器などのユニークな技術の製品が実際にはテルモの成長をリードしています。医療現場に役立つために、このようなユニークで先進的な医療技術に常に挑戦しているというブランドイメージを醸成していく必要があると考えました。
  ただし、医科向け医療製品は、一般の方には具体的性能はもちろん商品名さえ広告してはいけないという広告の規制があります。そこで、テルモのこのような医療への挑戦意欲、そして製品などを知ってもらうために、その医療や技術に始めて挑戦した人の物語として広告にしました。ここに北里柴三郎という「テルモの原点」があり、企業のミッションがあることを、社内外に問うていこうと考えました」

 テルモは1921年、北里柴三郎をはじめとする医学者らの手によって設立された。創立以来、「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げ、医療イノベーションを起こすことをミッションとしてきた。その原点を多くの人に知ってもらい、安心や安全、信頼感をしっかり伝えながら、同社の先進性も訴求していきたい――。そこでシリーズ広告として医療のイノベーションにチャレンジした先人の偉業を紹介する「医療の挑戦者たち」をテーマにすることに決定した。

 しかし、読み物にしたことによる苦労も多かったという。
「北里博士については比較的資料もそろっているのですが、博士以外のエピソードで、興味深く、さらに当社が展開するテーマとして適切なストーリーを探すのは、かなり大変な作業でした」と木田氏。社内外のスタッフで構成されたチームで、世界中の医療の歴史からエピソードを探し出す。重要なことは「きちんと裏付けされた史実なのか」。たとえ、事実があったとしても、脚色して「物語」にすることはできない。「医療関係の論文から探し出し、専門家に監修を依頼し、さらに読み物として読み応えのある内容を目指しました」

手間をかけて作られた広告から社会的メッセージ 社内外から大きな反響が

 毎回紙面を飾ったイラストも重要な「作品」だ。実は線画ではなく、石膏(せっこう)版をエッチングする手法を使った版画なのだ。木田氏は「写真が残っていない中、いかにエピソードのイメージを表現するかに心を砕きつつ、斬新な技法を用いることで『新しさ』も感じてもらいたかった」と振り返る。

 そして、企業広告として「社会的メッセージ」を発することにも重きを置いた。2013年元日に掲載された全15段広告では、北里博士が研究への取り組みや人との交わりに対して貫いた信念を評した「熱をもて。誠をもて。」、同3月18日付の全15段紙面では「世界に学び、先頭に立つ。」というコピーで、次世代を担う若者を激励するメッセージを込めたという。

テルモ「医療の挑戦者たち」シリーズ(全15段)

2012年6月20日付朝刊 2012年6月20日付朝刊
2013年1月1日付朝刊 2013年1月1日付朝刊
2013年3月18日付朝刊 2013年3月18日付朝刊

 反響は予想以上に大きかった。医師や医療関係者からも多くの電話や手紙が寄せられた。「ソビエト連邦(現ロシア)の若き医師が脳動脈瘤(りゅう)のカテーテル治療に初めて成功したエピソードは、その分野の専門医からも、『知らなかったが、非常に興味深かった』といった声が届きました。多くが『面白いのでもっと続けてほしい』といううれしい反響でした」と木田氏は笑顔を見せる。「広告を病院に飾りたい」といった声も寄せられた。
  インナーコミュニケーションでも成果があった。「当社の発起人である北里博士の理念、情熱を知ることで、社員一人ひとりが改めて原点、ミッションを見直すきっかけとなったようです」と木田氏。

 広告媒体に新聞を選んだ理由については、「最も信頼性のある媒体だから」ときっぱり。「今回のような体裁の企業広告は、しっかりと読んでもらうことで、コンセプトや私たちの思いが伝わる。そういう意味では、新聞だからこそできたシリーズ展開だと思います」と総括した。

 今後のコミュニケーション戦略について聞いた。
「今回の企業広告はブランディングへの第一歩に過ぎない。今後は、新聞を『入り口』として自社サイトに誘導するなど、メディアの特性を生かしながら、複数のメディアを組み合わせて発信していきたい」と締めくくった。

テルモ「医療の挑戦者たち」シリーズ(全5段)

2012年7月3日付朝刊 2012年7月3日付朝刊
2012年7月13日付朝刊 2012年7月13日付朝刊
2012年8月21日付朝刊 2012年8月21日付朝刊
2012年8月28日付朝刊 2012年8月28日付朝刊
2012年10月2日付朝刊 2012年10月2日付朝刊
2012年10月9日付朝刊 2012年10月9日付朝刊
2012年11月6日付朝刊 2012年11月6日付朝刊
2012年11月13日付朝刊 2012年11月13日付朝刊
2012年12月4日付朝刊 2012年12月4日付朝刊
2012年12月12日付朝刊 2012年12月12日付朝刊
2012年2月5日付朝刊 2012年2月5日付朝刊
2012年3月5日付朝刊 2012年3月5日付朝刊
2013年3月12日付朝刊

2013年3月12日付朝刊