住友林業が昨秋から今年にかけて朝日新聞などで展開したシリーズ広告「教えて、木の力」。木の価値や可能性について、様々な角度からの取材によって表現された広告に込められた思いは何か。同社コーポレート・コミュニケーション室の大西宏樹氏に、この広告を実施した狙いや反響について語ってもらった。
住宅以外にも多岐にわたる事業 企業の総合力を知ってほしい
標高1,000メートル級の山々に整然と広がる檜(ひのき)の森。フリーアナウンサーの木佐彩子さんが、大木の木肌に手のひらを当てて、気持ちよさそうな笑顔を見せる――木の可能性を考える全8回のシリーズ広告「教えて、木の力」。その第1回で取り上げたのは、森林サイクルを守る「保続林業」を理念とし、永続的な木材資源の確保と、自然環境の保全を行う山林環境事業の現場だ。
「住友林業は、木に関して川上から川下までを扱う住生活の総合企業。ところが住宅の事業領域では広く知られているものの、森林管理や木材建材の流通、木質バイオマス発電や介護施設運営などの領域においては、十分に認知されているとは言い難い面がありました。このシリーズ広告では、当社の幅広い事業を紹介することで、企業集団としての総合力、言い換えれば、点ではなく線でお客様のお役に立てるということを伝えられるものにしたいと考えました」と、大西氏はその狙いを説明する。
シリーズのスタートは昨年9月。第1回から第7回までは、木佐さんを聞き手に、四国社有林や木質バイオマス発電所、筑波研究所など各地で取材を敢行、それぞれの専門家が「木の力」を語る全5段広告を掲載。また、今年1月に掲載した第8回では総集編として、市川晃社長と木佐さんの対談を全30段で掲載した。
新聞に加え、週刊誌『AERA』には、この新聞広告シリーズに加筆した採録特集を20ページにわたって掲載。この誌面は増刷小冊子としてもまとめられた。また、朝日新聞デジタルでもアーカイブとしてバックナンバーを読めるようにした。
住宅購入のキーパーソンは奥様 最先端の技術をわかりやすく伝える
建材としての木がどのように思われているか。消費者のイメージをJ-MONITORで調査すると、消費者が木に抱くイメージは非常に漠然としている。また、木材は鉄骨などと比較して、火災や地震に弱いのではないか、耐久性が劣るのではないか、といったネガティブなイメージを抱かれることも少なくない。
「だからこそ、木に対する正しい理解を促す紙面にする必要があった」と大西氏は力を込める。記事体広告でじっくり読ませる手法を選んだのも、各事業の専門家が登場して木の機能性についてワンテーマずつ語るスタイルも、ナビゲーターの木佐彩子さんが読者代表として素朴な疑問を専門家に投げかけていく展開も、すべては「正しい理解」のための仕掛けだ。
「住宅購入のキーパーソンは女性であることが多いですね(家庭では奥様の意向が大きく影響します)。ですから、女性が読みやすい紙面にすることを意識しました。ただ、今回伝えたい内容は、当社の研究所をはじめ、最先端の現場からの、専門家によるハード面や技術面の解説が中心ですから、どうしても難しくなりがちです。それをいかにかみ砕いてわかりやすく伝えるかは、今回の広告制作の大きなポイントでした」
社内コミュニケーションツールとして情報共有にも成果
AERA
2013年2月4日号内で20ページ特集を掲載
このシリーズを朝日新聞の週末別刷り『be』を軸にしたクロスメディア展開した理由については、「朝日新聞は、高所得世帯を読者に抱え、ターゲットである女性にもよく読まれ、社外関係者にも広く届く媒体であるため、以前から重要な媒体でした」(大西氏)。そして、今回のクロスメディア展開を通して、その使い方について新しい発見もあったという。
「『be』は、土曜日という比較的時間のある日に読まれるので、じっくり読んでいただきたい内容を載せる媒体として、非常に適していると感じました。また、『AERA』にまとめて掲載し、さらにそれを増し刷りして小冊子にまとめたことは、インターナル(社内的)な意味でも大きかったと思っています。日本全国、世界各国で働いている社員にも知っておいてほしい内容が一覧できるわけです。社内からは「こういうものが欲しかった」という声が上がりました。『住友林業が様々な分野でお客様のお役に立っていることを説明するツールとして使いたい』『オーナー様向けのイベントで使いたい』といった具体的利用アイデアも寄せられています」(大西氏)。
一般読者からの出稿後の反響もいい。 「広告接触後の調査によると、30代の女性など私たちがまさに伝えたかった層へのアプローチに成功しています」と大西氏は評価する。
また、自由回答欄に寄せられたコメントを見ると、「住友林業の幅広い活動を再認識した」「住友林業の目指しているものが理解できた」といった声に加え、「木の家が耐震性や耐火性にすぐれていることを初めて知った」「木の力を再認識した」など、木の価値、森の価値にまで視野を広げた声も多いという。
「今回の広告展開では、当社の活動内容にとどまらず、業界としての情報発信もできたのではないかと考えています。木の価値、森の価値、さらには建築物の木造化・木質化を通して、木材資源の用途拡大を図る『木化(もっか)』への取り組みは、住友林業が伝えていくべき最重要課題ですので、今後も継続的に発信していきたいと思います」(大西氏)
2012年12月22日付
2013年1月11日付 朝刊 全30段