美しくモダンな市松模様に60年の堅実な歩みを表して

 1952年12月1日、日本初の国立美術館として開館した東京国立近代美術館。2012年は開館60周年のメモリヤルイヤーで、記念のシンボルマークの制作をはじめ、特設サイトの開設や様々なイベントも開催した。開館記念日の前日、11月30日には夕刊紙面に二連版・全30段の広告を掲載。これまでの歩みをダイヤグラムで表し、東京国立近代美術館のメッセージとして発信した。

60周年事業の締めくくりとしての新聞広告
美術館の真面目な姿勢を伝えたい

中林和雄氏 中林和雄氏

 60周年記念事業としてまず行ったのは、開館60周年を表す「60周年シンボルマーク」の作成だ。デザインは美術館のシンボルマークも手がけた平野敬子氏によるもの。平野氏はこの作品により、第15回亀倉雄策賞を受賞した。「60周年記念サイト」も開設し、記念企画の最新情報のほか、充実したコンテンツを掲載している。10年ぶりに実施した所蔵品ギャラリー(2階から4階)のリニューアルも60周年事業の一環だ。建築家の西澤徹夫氏が美術館のキュレーターと共同で実現、サイン関係はデザイナーの服部一成氏が手がけた。記念グッズなども発売した。

 周年記念広告は、開館記念日(12月1日)の前日の11月30日付朝日新聞夕刊に掲載された。「数々の周年事業の締めくくりの位置付けで、美術館の60年の歩みを表すような広告を作ろうと考えました」と話すのは、東京国立近代美術館 企画課長の中林和雄氏。開館記念日は入場料が無料になるほか、記念シンポジウムや教育プログラムなどイベントの開催予定もあったが、新聞広告ではそうしたイベント情報を大きく告知するのではなく、「60年間、堅実に展覧会を開催してきたという事実をストレートかつ愚直に表したいという思いがあった」と語る。広告のアートディレクションは、デザイナーの高田唯氏に依頼した。「毎年無料で配布する年間スケジュール表を、2012年版は特別に『開館60周年記念手帳』として制作しました。高田さんにはそのデザインを手がけていただいたこともあり、新聞広告もお願いすることにしました」(中林氏)。

 美術館の歩みをダイヤグラムで表現する、というアイデアの源となったのは、デザイナーの大溝裕氏が手がけた60周年記念動画だ。「これは、これまで開催してきた約500の企画展の中から主要100件ほどを抽出し、そのタイトルロゴが次々に現れるスピード感のある動画です。それをヒントに高田さんと内容を詰めていきました」と中林氏。この動画は3月にJR中央線、5月に東京メトロのドア上のディスプレーで放映したもので、現在ユーチューブでも公開されている。

 市松模様に表したモダンなダイヤグラムは、美術館のシンボルマークのデザインをモチーフにしている。「平野敬子さんが手がけた60周年記念のシンボルマークは、1952年から75年まで当館の展覧会のポスターやチケットなどのグラフィックを担当したデザイナーの原弘氏の仕事を継承しつつ、グリッドシステムを規範としています。高田さんは、平野さんが作り上げたシンボルマークのコンセプトを受け継いでいるのです」(中林氏)

 全30段というスペースに、60年間に開かれた企画展、488タイトルが全て正式名称で掲載されている。「タイトルを省略するかどうか、長いタイトルを改行した場合、文字をどのようにそろえるかなど、細かい部分まで考え尽くされています。読みやすさと見た目の美しさを考慮しながら、何度も検証しました。高田さんのセンスと力量があってこそ実現できた広告です」と中林さんは振り返る。

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2012年11月30日付 夕刊 全30段 国立近代美術館

2012年11月30日付 夕刊 全30段

日本初の国立美術館として信頼される存在に

 広告媒体として新聞を選んだことについて、「開館記念日の前日に出稿日を限定できることと、できるだけ幅広い世代に当館の存在を周知させたいという狙いがあった」と中林さん。背景には、全国的に美術館が増加していることが影響する。「ここ20年、美術館は増加傾向にあります。当館も若い頃から親しんでいただいている50代以上の世代には認知度が高いのですが、40代より若い世代には認知度がやや低いという統計があります。そういうこともあって、この機会に当館をより多くの方々に認知してほしいと考えました。美術館は新聞社と連携して企画展を開催することも多く、私たちにとっても新聞は身近なメディアです。とりわけ、朝日新聞の読者は芸術に関心の高い方が多いというデータも参考にしました」と中林さん。掲載日以降、新聞広告の抜き刷りを来館者に無料で配布。特設サイトでも、この原稿をPDFでダウンロードできるようにした。

 東京国立近代美術館の所蔵作品は、開館初年の23点から現在の約1万5千点まで増加。所蔵作品を展示するスペースも約3,000㎡まで拡大した。明治以来、近代美術の歩みを一望できる美術館の存在を切望されていた歴史があり、それを初めて実現させた美術館でもある。

 「一会期あたり200点前後を展示し、年間約1,000点もの作品が常設展示される美術館は国内では他にないと思います。所蔵品の展示は企画展に比べると、少し地味な印象を持たれることが多いのですが、当館の根幹は所蔵品の収集と研究、そして展示にあります。2013年からは新しい所蔵作品展『新生!MOMATコレクション』も始まります。私たちの目標は、見る人の記憶に残り、何らかの影響を与えられる、そんな展覧会を企画すること。これまでの60年を踏まえ、これからも堅実に歩み、信頼される美術館であり続けたいと思っています」

開館当時の国立近代美術館(1952年) 開館当時の国立近代美術館(1952年)
現在の東京国立近代美術館 MOMAT(2012年) 現在の東京国立近代美術館 MOMAT(2012年)
「夏の家」 「夏の家」
60周年記念企画としてインドの建築家集団スタジオ・ムンバイに委嘱し美術館前庭に設置
(2012年9月から公開)
Photo: Masumi Kawamura
パフォーマンス・イベント「14の夕べ」 2012年8月に14夜連続で行われた60周年記念のパフォーマンス・イベント「14の夕べ」から
大友良英 one day ensembles 「INVISIBLE BORDERS」
(2012年9月2日)
Photo: Hideto Maezawa