JOCオフィシャルパートナーである明治は、ロンドン五輪期間中、朝日新聞の五輪特設面に16日間連続で広告(計約90段)を掲載した。この広告展開の狙いについて、マーケティング推進本部宣伝部長の村上欣也氏に話を聞いた。
ロンドン五輪をきっかけに、乳製品の良さを幅広い人に認知してもらいたい
ロンドンでの熱戦の模様を伝える記事を囲むように、逆L字形に切り取った広告紙面。右側の縦スペースには赤地に白抜きで「夢にむかって、つづけよう。」の文字が躍り、記事の下にはアスリートたちの笑顔の写真が並ぶ――。
五輪期間中に16日間連続で出稿された同社の一連の広告はスペースも様々なら、内容も、乳製品を通じて生活に役立つ情報や、選手の表情をとらえたものまで多彩。しかし、同一面での掲載に加え、デザインの統一感と全体を貫く「夢にむかって、つづけよう」というコピーにより、シリーズ展開していることが明確に打ち出されたインパクトの強いものになった。
「『夢にむかって、つづけよう。』は、JOCオフィシャルパートナーになるにあたり、テレビCM、新聞広告のほか、商品パッケージ、消費者向けプロモーションなど、すべてをつなぐものとして設定したトータルなキャンペーンコピー。『夢に向かってがんばり続けるアスリートたちをサポートしたい』という想(おも)いと、『生活者が乳製品を毎日取り続けることによる健康づくりを支えたい』という想(おも)いの両方を託しました」と、村上氏はそこに込めたものを説明する。
明治 朝刊 変形スペースシリーズ 全16回の一部
そもそも、なぜ、五輪スポンサーとして名乗りを上げたのか。その背景には、同社の長きにわたるレスリング競技の支援活動がある。
「実は、当社は、約50年前の東京五輪のころから、レスリング競技団体への乳製品の提供や大会運営の支援活動を行っており、1997年からは『明治杯』(当初は明治乳業杯)という冠大会も開催しています。社員に五輪のメダリストがいたことが直接のきっかけではありますが、支援し続けた最大の要因は、当時は今ほどメジャー種目でなかったレスリングというスポーツを育てていきたいという気持ちが強かったからだと聞いております」(村上氏)
協賛や支援活動によって企業イメージのアップを狙っていたわけではない、と村上氏は振り返る。
一方では、牛乳やヨーグルトなどの乳製品が、バランスのとれた栄養価の高い食品であることは良く知られている。スポーツや栄養の専門家が「身体づくり」や「コンディション調整」の両面から注目し、多数のアスリートがすでに食生活に取り入れているという現状もあった。
「そんな状況のなか、スポーツ競技やアスリートに対して継続的に支援・協賛を行っていくことで、乳製品の価値向上に加え、当社の製品ブランド、さらにはコーポレートブランドの価値向上につなげていこうという機運が高まり、当社は2011年秋に日本バレーボール協会のオフィシャルスポンサーに名乗りを上げます。続いて2012年3月、世界最大のスポーツイベントである五輪を活用すべく、JOCと、乳製品カテゴリーにおけるJOCオフィシャルパートナーシップ契約を締結、レスリングとバレーボールの日本選手団へのサポートをより強固にしていくことにしました」(村上氏)
掲載直前に入稿できる新聞だから ニュース性の高い情報発信が可能に
契約の締結が今年の3月という遅い時期だったため、準備は急ピッチで進められ、6月には、テレビCMを中心にした広告活動、消費者へのプレゼントキャンペーン、五輪協賛商品パッケージによる商品展開などがいっせいにスタート。これと同時に、新聞紙上での広告展開の企画が進められていく。
テレビCMに加え、新聞広告を活用することにしたのは、「自分たちの考え方をしっかり伝えたかったから」(村上氏)だ。
「15秒、30秒のテレビCMだけでは『夢にむかって、つづけよう。』というコピーに込めた想(おも)いがすべて伝えきれない。じっくり読んでもらえる媒体を使う必要性を感じていました。そんなときに、新聞社からの提案が、五輪期間中に連続掲載し、日本選手の活躍をタイムリーに広告に取り込み、報道と広告を連動させて見せていく方法だった。直前入稿が可能な新聞ならではのプランであり、ニュース性の高い情報発信ができるという点にも魅力を感じ、やってみようということになりました」(村上氏)
この決断の伏線になったのが、5月15日の「ヨーグルトの日」に合わせて、前日の朝日新聞全国版夕刊で展開した「明治ブルガリアヨーグルト」のマルチ広告だ。1面から終面まですべての面に商品情報を掲載したこの「ヨーグルト新聞」は、大型の広告でなくても、一つ一つの広告を重ねることで大型での展開以上の効果を上げることを示す先例だった。「前回は同じ日の全ページに掲載、今度はそれを連日1つずつ。ああ、それも面白いね、ということになりました」(村上氏)
こうしてスタートした五輪キャンペーンだが、同社には日を追って「毎日見ていますよ」「明日が楽しみです」「存在感がありますね」などの声が届くようになったそうだ。
朝日新聞の読者調査の結果を見ても、掲載初日から最終日にかけて五輪スポンサーとしての認知度が、約20ポイントも上昇。なかでも最も注目を集めたのは、レスリング女子の金メダル3個獲得の快挙に合わせ、8月11日に掲載した「金メダルおめでとう」のお祝い広告だ。
この広告は、広告接触率、興味度、好感度がすべて80%を超える高評価を得たと聞いています。当社にも社内外からたいへん大きな反響が寄せられました」(村上氏)
また、キャンペーンを通じて、商品メッセージよりも、乳製品を続けて摂取することの大切さなどを訴求したことが功を奏したのか、読者モニター調査には、「五輪終了にあたって、明治の広告シリーズが終わるのが残念」という、広告への感想としては異例の声も届いているという。
「連日掲載によって『五輪』 と『明治』が力強く結びついて読者に記憶されたことの意義は、非常に大きかったと思っています。また、五輪という特別な条件下ではありましたが、今回のキャンペーンを通して、新聞は企画次第、使い方次第で大変おもしろい展開ができる媒体だということを改めて実感することができました。これからの時代は、既存メディアだけでなく、新しいメディアも活用しながらコミュニケーションを行っていくことになりますが、その際、新聞をはじめとする既存メディアについては、今回のキャンペーンのように、これまでとは違った使い方、見せ方ができるような工夫をしていきたいと思います」
明治 朝刊 シリーズ広告