フレンチシェフの三國清三氏、マーケティングやブランディング分野の大家・魚谷雅彦氏、放送作家で脚本家の小山薫堂氏。全く違う世界で活躍する3人の共通点は、ポルシェを所有しているか、かつて所有した経験があって今でもファンであること。ポルシェ ジャパンは、彼らがポルシェに対する思いを語る広告を、朝日新聞と『AERA』との連動企画でシリーズ展開した。クローズアップした商品は、4ドアの「パナメーラ」だ。
エモーショナルなアプローチで「欲しい」という気持ちを刺激
「ポルシェが4ドアモデルを出していることを知らない方が多く、認知向上を大きな目的としていました」と話すのは、執行役員 マーケティング部長の牧野一夫氏。
初回に登場したのは、三國氏(5月11日付朝日新聞朝刊/『AERA』5月21日号掲載)。自身の料理哲学とポルシェとの共通点や、フランスの三ツ星レストランの、オーナーシェフたちがポルシェに乗っているのを見てあこがれた思い出。料理の世界と同じように、トップで居続けるために、誰よりも速く、誰よりも新しいことをしてきたポルシェが、4ドアのパナメーラを出したことへの共感などを語った。
第2弾は、魚谷氏(9月7日付朝日新聞朝刊/『AERA』9月17日号掲載)。ポルシェが、ブランディングにおいて重要な二つの柱、機能的価値と付加価値をうまく融合させてブランド作りをしていること、快適な居住性を保ちながら、スポーツ性、デザイン性、走行性を備えていること、初めてパナメーラに乗ったとき、すぐに「欲しい」と思ったという。
そして第3弾は、小山氏(10月12日付朝日新聞朝刊/『AERA』10月22日号掲載)。26 歳のときに父親にお金を借りてまでして真っ赤な「カレラ」を買った思い出や、自身の創作活動に求められる「異なる要素の組み合わせによる新しいアイデアや価値の創出」はポルシェの伝統でもあり、パナメーラも受け継いでいることに触れた。
「ポルシェブランド自体の認知度は高く、品質には絶対の自信を持っています。それもあって、従来は自動車雑誌などを通してスペック中心の機能訴求を行ってきました。ただ、クルマ好きの方を主な対象とするあまり、『近寄りがたいブランド』『自分には手が届かないブランド』という印象が強くなってしまうのも良くないと考えました。そもそも車を買う動機となるのは、『欲しい』というエモーショナルなものです。ポルシェに乗っている方が、どんなふうに社会で活躍し、どんなライフスタイルを送り、どんな理由でポルシェを愛しているのか、といったことを深く掘り下げ、心理的に読者を刺激したいと考えました」
朝日新聞朝刊 全7段 3回シリーズ
人選のポイントは、ポルシェのオーナーの経験をもち、社会的な仕事を成し遂げ、それに満足せずに走り続けていること、そして、ポルシェに対する思い入れが強いこと。ジャンルの違う顔ぶれを探して、三國氏、魚谷氏、小山氏に白羽の矢を立てた。
「食、ビジネス、文筆と、いろんな分野のお話を伺うことができました。読者にとっては、『この人がポルシェに乗っているのか』という意外性もあったと思います。魚谷氏は、ビジネスパーソンの関心を引くこともできたと思います。皆さんに自由に語っていただきましたが、ポルシェの精神をよく理解されていて、とても説得力のある内容となりました。3人の仕事に対する姿勢とポルシェに多くの共通点があることもわかりました。また、機能訴求から離れた広告を作ろうという意図でしたが、結果的に『4ドアなのに走りのパフォーマンスを犠牲にしていない』という商品特性を伝えることもできました」
広告で認知を高めつつ、実物に触れる機会を増やす
ビジュアルは、4ドアであることがよくわかる写真を採用した。朝日新聞が7段モノクロであったのに対し、『AERA』は1ページのカラー広告で、車体の色を確認できる。国内外の競合車種にはないボディーカラーを選んだ。
「朝日新聞と『AERA』の相乗効果によって、幅広いリーチとブランドへの深い理解の両方を獲得するねらいがありました。ポルシェは走りのパフォーマンスを高めながら、環境保護への対応もしています。ですから単なる趣味の車ではなく、日常的に乗っていただける車です。社会的なメディアを活用し、社会的なメッセージとして発信したいという思いもありました」
さらに、パナメーラを特集したスペシャルサイトをネット上で展開。広告は、サイト訪問やカタログ請求といった具体的なアクションにもつながった。新聞広告は金曜に出稿し、土日の販売店訪問も促した。「広告を見た」という来店者も多かったという。
パナメーラがデビューしたのは2009年。現在、同社の全モデルの中で販売シェアは約2割だ。
「このクラスのマーケットは値引き合戦が激しいのですが、ポルシェは過剰な値引きをしてまで販売台数を増やそうとは思っていません。ただ、リーマンショック以降も当社が好業績を続けているのは、パナメーラやSUVの『カイエン』といった新しい柱が加わったからで、スポーツカーと同じように大事なラインアップです。認知を高めつつ、堅実に売っていきたいですね」
ポルシェは、フラッグシップ商品である「911」のオーナーを集めたレース企画など、イベントに力を入れてきた。さらに近年は、ゴルフ場や六本木ヒルズなどの複合商業施設において展示会や試乗会を開催し、「ポルシェとの偶然の出会いの場」を増やしている。
「車は3次元のものなので、2次元のメディアで魅力のすべてを伝えるには限界があります。私でさえ、新しいモデルを初めて見るときは、常に驚きと発見があります。できるだけ多くの方に、実物を見たときの高揚感や、試乗したときの満足感を味わっていただきたい。そして、サーキットだけではなく、実生活でも楽しめる車であることを伝えていきたいと考えています」
パナメーラの顧客は、導入当初はポルシェユーザーの買い替えが多かったそうだが、しだいに競合車からの移行も増えているという。最後に牧野氏は、今後の抱負について語ってくれた。
「パナメーラの認知をさらに高める努力を続けていきます。また来年は、当社のアイコンといえる『911カレラ』がデビュー50周年を迎えます。走行パフォーマンス、環境対応、デザイン性など、ポルシェのクルマづくりの精神を、東京モーターショーをはじめ、様々なステージで幅広くメッセージを発信していきたいと思っています」