7月2日付の朝日新聞朝刊を、赤を基調とした全面広告が飾った。三菱東京UFJ銀行のリテールサービス向上プロジェクト「Do Smart」のキャンペーン、第1弾の広告で、同行が展開するファクト(施策や商品・サービス)について消費者に広く認知してもらおうという内容だ。
「ファクト」をわかりやすく幅広い層のインサイトに訴える
「都市銀行は、しばしば『富裕層向けの銀行』という印象を持たれることがあり、お客様に敷居の高さを感じさせてしまっているのではないか、という懸念がありました。そこで、改めて都市銀行の主要な機能の一つである「利便性」や、実際に店舗を構えているからこそできる「相談力」、そして、メガバンクならではの商品ラインアップやサービスをしっかりとお伝えし、広告のコピーに託した『もっと使える、もっと頼れる銀行へ。Do Smart▶』(注)という、当行が目指す姿を訴求しようと考えました。」
三菱東京UFJ銀行マーケティング室 室長の小林薫氏は、キャンペーンの背景をそう解説する。
コミュニケーションの「顔」には、阿部寛さん、三浦春馬さん、石原さとみさん、そして親子役の小日向文世さんと成海璃子さんと、幅広い層を網羅する俳優陣を起用。新聞、テレビ、デジタルメディアと、様々な利用者に届くよう、複数の媒体で展開している。
人気俳優たちはそれだけで大きなインパクトがある。しかし、「イメージ広告になってはならない。信頼される銀行であるために、しっかりとファクトを伝えることが重要」と考えたという。コミュニケーションの幕開けとなる7月2日付の紙面では、インターネット通帳、スマホアプリやネットで外貨といったウェブでの便利なサービスや機能、そして窓口相談について触れ、 「Do Smart▶」のコピーとともに訴求した。以降、月1回出稿している全5段広告では、新しいファクトを、「利用者が語る」という設定のコピーとともにわかりやすく紹介している。
「今回のキャンペーンでは、お客様に共感を得てもらうため、利用する側が自分の言葉で語るコピーにこだわりました」と小林氏。8月14日付を皮切りに7回にわたって住宅ローンについての広告も出稿したが、金利を前面に出すクリエーティブではなく、「利用者のインサイト」を重視し、「金利の次に気になること」に対応する商品――固定と変動を組み合わせたミックス借入、いざというときに備えられる安心の商品など――をコピーとして打ち出した。
2012年8月 全7回シリーズ 変形スペース広告
目指す方向を内外に強く訴求「進化への挑戦」の歩みを止めない
広告の効果については、「広告が強く目を引き、改めて三菱東京UFJ銀行を認識した、という意見が聞こえてきています」と小林氏は手ごたえを語る。さらに、今回のキャンペーンで個人顧客と同じぐらい意識したのが、行員やその家族といったインナーへの訴求だった。
「ファクトを提供していく行員一人ひとりがしっかりと『Do Smart▶』に込められた「お客様とそのご家族の末永い幸せを実現すること」という想(おも)いを日々実践していくことが、何より重要です。行内ではこれについて理解を促進してきましたが、改めて新聞広告が全国的に掲載されたことで、意識が高まったようです。そういう意味では、メディアの中でも最も信頼性が高く、多くの行員や家族の目に触れる新聞広告は最適な媒体でしたし、期待通りの効果があったと感じています」(小林氏)
今回のキャンペーンでは、小林氏が「意外」に感じた反応もあった。
「これまでは、住宅ローンなどの商品広告を出すと、自社サイトの商品紹介ページへのアクセスがポンと上がり、時間とともに減っていくのですが、今回は広告が平日に掲載されると、その後の週末にアクセス数が上がるといった現象が見られました。新聞広告で興味を持ち、時間のある週末にじっくりウェブサイトでチェックする、という具合に、新聞からウェブに誘導できたように思います。媒体の特性を活(い)かして、いい相乗効果が生まれたととらえています」
今後の展望や課題について聞いた。
「お客様に対しても、行員などのインナー向けにも、キャンペーンが一定の効果を上げている手応えはあります。しかし、銀行を選ぶということは、飲料などの消費財のように、『広告の印象がいいから、その銀行の商品を試してみる』という行動にはなかなかつながりにくい。ですが、住宅ローンを組むときなど、銀行へのニーズが生まれたときに思い出してもらえるように、『好き』という印象や『信頼できる存在』という印象を持っていただくことが重要です」
さらに続けて、こう締めくくった。
「信頼感は短期間で醸成できるものではありません。このキャンペーンも、お客様に共感してもらえるファクトを伝え続けるという基本は守り、反響を見て適宜、軌道修正しながら、3年、5年と時間をかけて進めていきたいです。常に目指すのは『進化への挑戦』。お客様とのコミュニケーションにおいても、進化に挑戦していきたいですね」