局名を一新して、BS市場への挑戦を朝日新聞紙上で宣言

 どうして、パンナムの翼はあんなにまぶしく見えたのだろう――。こんなコピーの横に40代以上ならおそらく誰もが懐かしさを覚えるマリンブルーのロゴ、そして、紙面中央には同色のコスチュームに身を包んだスチュワーデスの笑顔。記事スタイルの全15段の紙面の大半を使って語られるのは、パンナムと日本との関わりだ。3月1日に開局した「イマジカBS」は、朝日新聞紙上で開局キャンペーンを展開。開局から半月後の3月16日に出稿したこの全面広告が話題を集めた。

セレクト感のある編成で、ほかの映画チャンネルと差別化

小島聖良氏 小島聖良氏

 この3月1日、BSデジタル放送に7つの新しいチャンネルが開局した。昨年10月開局の12チャンネルに加え、既存局と合わせて合計31チャンネルの本格的なBS多チャンネル時代がスタートしたことになる。そのひとつイマジカBSは、開局にあたって朝日新聞を中心に据えたキャンペーンを展開した。

 「CSからBSという大きな市場へ進出するに当たり、これまでCSで放送していた内容をそのままBSに移行させるのではなく、内容を拡充し、合わせてロゴやチャンネル名も一新した。新しいチャンネルを立ち上げることへの意気込みやそこにこめた思いを広く伝えるには、やはり最も信頼のおける新聞というメディアがふさわしいと考えました」と、IMAGICA TV編成・制作局の小島聖良氏はそのねらいを説明する。

 新規開局の12チャンネルを見ると、CSの放送内容をほぼそのままBSに移行させたチャンネルが大半を占める。だが、イマジカBSは、BSへの進出を“新たなチャンネルの立ち上げ”と位置づけた。その理由は、「CSを見る層とBSを見る層は明らかな違いがある」(小島氏)からだ。

 「前身であるCSの『洋画★シネフィル・イマジカ』は、アート系の映画に強く、ヨーロッパの古い映画や西部劇などここでしか見られない作品をそろえていたため、コアな映画ファンに支持いただいてきました。でも、BSへ進出し市場が大きく広がるのであれば、それほど映画に詳しくない層も取り込んでいかなくてはならない。そのためには、ハリウッドの大作映画や大型ドラマなどメジャーな作品も編成していく必要がありました。しかし、だからといってそちらに走りすぎれば、ほかの映画専門チャンネルとの差別化が難しくなってしまう」(小島氏)。

 激しい競合の中でどうやって独自性を打ち出していくか。イマジカBSが選んだのは、「CS時代に培ってきたイマジカならではの編成は継承しつつ、一定割合まではメジャーな海外ドラマやハリウッド映画を入れていく。ただし、そのメジャー作品の選び方にも、イマジカBSらしいセレクト感を打ち出していく」(小島氏)という道だった。

 それは、同じハリウッド作品のなかでも、ストーリーが練られてしっかりしているもの、人間が描けているもの、歴史を踏まえたり、社会性のあるテーマを追ったもの…・・・。「開局の目玉として打ち出したハリウッドドラマ『PAN AM / パンナム』も、まさにそんな作品。単なるスチュワーデス物語ではなく、米ソの冷戦やアメリカの高度成長のひずみ、そういった時代背景の中での組織と人間のあり方が丁寧に描かれています。多くの人に観てもらえる間口の広さがあり、かつ、うちらしい作品」と小島氏は語る。
実は、このキャンペーンの一環で朝日新聞を選んだ理由もそこにある。「社会問題への意識が高く、高学歴で知的関心の強い朝日新聞の読者層とイマジカBSの作品ラインアップの相性が非常によいのではないでしょうか」(小島氏)

SNSを利用して新聞広告の情報を拡散

 開局キャンペーンは、『PAN AM / パンナム』の日本独占初放送を強力にプッシュする形で展開された。
その皮切りは3月3日。まず、イマジカBSの開局を、作品ラインアップとともに全15段カラー紙面で告知し、続く10日の紙面では、米国で人気のドラマ『PAN AM / パンナム』を、日本で独占初放送していることを伝えた。さらに、16日には、日本人の心に残るパンナムの姿を記事スタイルで綴る全15段のカラー広告を出稿。その結果、開局後の加入者数は、CS時代の4倍にも跳ね上がった。

 「加入者増はプロモーションの力だけによるものではありませんが、『PAN AM / パンナム』が楽しめるチャンネルとして、認知していただくことはできた」と小島氏は胸を張る。

2012年3月3日付 朝刊 全15段 IMAGICA TV 2012年3月3日付 朝刊 全15段
2012年3月10日付 朝刊 全5段 IMAGICA TV 2012年3月10日付 朝刊 全5段
2012年3月16日付 朝刊 全15段 IMAGICA TV 2012年3月16日付 朝刊 全15段

 キャンペーンは新聞に加え、紙面を見た人を加入につなげる導線としてのウェブサイトでの展開、さらに、新聞広告の情報を拡散させる経路としてのSNSの強化を図った。また、16日の広告紙面では、東京と大阪での「PAN AM / パンナム展」開催を告知。イベント当日は、広告紙面を額に入れて会場の壁に掲げ、紙面で取り上げたパンナムゆかりの品々を展示したが、予想を超える動員があり好評を博したという。

 「新聞広告の内容が、信頼性の高い確かな情報としてSNSの世界で大きく広がり、それがイベントへの大量動員につながった」と小島氏は分析。今後はさらにSNSを強化し、マス広告との連動をはかっていく構えだ。

 イマジカBSへの加入理由を見ると『PAN AM / パンナム』が見たかった、という声が圧倒的に多い。これは広告キャンペーンの成果である半面、今後へ向けての課題も示している、と小島氏は見る。「『PAN AM / パンナム』でイマジカBSという新チャンネルに興味をもった人たちを、イマジカBSセレクションによる映画に引き込み、こんなおもしろい映画があるんだ、イマジカBSってなかなかやるじゃないか、というところまでもっていく必要がある。そのための編成に知恵を絞るとともに、イマジカBSはハリウッド作品を並べているだけじゃない、ということがしっかり伝わるプロモーションを行っていかなくてはならないと考えています」(小島氏)