50周年の創立記念日に、企業の決意伝える全30段広告

 カラー複合機、プリンターなどの機器提供をはじめ、オフィスにおける文書管理、ICT基盤の最適化などのソリューションビジネスを展開する富士ゼロックス。今年創業50周年を迎えた同社が、顧客への感謝の気持ちと、次の50年への意気込みを伝える全30段の企業広告を展開した。

これまでも、これからも、根幹にあるのは“コミュニケーション”

西山知子氏 西山知子氏

 今回の広告は、富士ゼロックスの創立記念日にあたる2月20日にメッセージを発信することに意味があったと、広報宣伝部・宣伝グループの西山知子氏は語る。

 「対外的なコミュニケーションだけでなく、50周年という節目に社員一人ひとりが会社の方向性を改めて確認し、次の50年に向けて決意を新たにするための広告でもありました。そのため、2月20日当日に出稿日を限定できる新聞を告知媒体に選びました」

 どのようなメッセージを発信するかを決めるにあたり、過去50年の商品やサービス、折々で宣言してきたミッション、コミュニケーション活動などを総ざらいした。その根幹にあったのが、米国ゼロックス社の創業者、ジョセフ・ウィルソン氏が提唱した「我々の事業の目標はより良いコミュニケーションを通じて、人々の間により良い理解をもたらすことである」という理念だ。一方、1998年に制定された富士ゼロックスの企業理念(ミッションステートメント)は、「知の創造と活用をすすめる環境の構築」「世界の相互信頼と文化の発展への貢献」「一人ひとりの成長の実感と喜びの実現」の三つで構成されている。こうした理念に基づき、今回、「コミュニケーションで知をつなげてゆく。」というキャッチコピーが生まれた。

 「富士ゼロックスというと、複写機やプリンターなど、ハードウエアのイメージが強いと思いますが、お客様へ提供してきた価値を突き詰めると、ウィルソン氏の言う、『より良いコミュニケーション』や『より良い理解』を実現するための“効用”に行き着きます。つまり、創業当初からソリューション、サービスを重視してきたのです。そうした思いを、『人間が知を創造し、伝達し、新しい価値を生み出し、進化してゆく。そのためのコミュニケーション環境をつくること。それが私たちの使命です。』というボディーコピーに込めました」

 同社のビジネスモデルは、ここ10数年のデジタル化やネットワーク化に伴い進化を続け、クラウド技術を活用したドキュメント共有環境の提供など、新しい分野にも進出している。広告は、「脱・複写機メーカー」のイメージを醸成する役割も担っており、ボディーコピーはこう続く。「これからメディアは多様化し、まったく新しい技術が生まれ、さらにめまぐるしく変化していく時代になることでしょう。それでも人間が中心という私たちの基本的な姿勢が変わることはありません。よりよいコミュニケーションのために、これからも最先端のソリューションを提供しつづけていくことを誓いたいと思います。今日から富士ゼロックスは、つぎの50年へ。」。

子供たちのまなざしに、未来を映し出す

 広告でまず目に飛び込むビジュアルは、世界各国の子供たちだ。真っ白なシャツを着た7人が肩を寄せ合い、真剣なまなざしをこちらに向けている。

2012年2月20日付 朝刊 富士ゼロックス

2012年2月20日付 朝刊

 「何かと暗いニュースが多い時代の中で、明るい未来を予感させるような広告を目指し、子供たちの表情に思いを託しました。笑顔をほとんど見せていない点がやや不自然に思われたかもしれませんが、子供たちのまなざしに当社のお客様に対する真摯(しんし)な姿勢を重ね合わせました。お互いが寄り添う姿は、当社とお客様の関係、社内の組織間の連携、さらに当社が提供するサービスによってお客様が新たに創り出す“つながり”を表しています。さまざまな人種の子供たちを登場させ、アジアパシフィック地域を中心にグローバルにビジネスを展開する当社の意気込みを表現するとともに、次の50年への期待感を醸成したいという願いもありました」

 同社のビジネス形態は主にBtoBだが、一般紙への広告出稿は、「ビジネスパーソンだけでなく、今後当社とかかわるかもしれない学生の皆さんを視野に入れているほか、社員の家族にも読んでもらうというねらいがありました」と西山氏。

 「当社のコミュニケーション活動において最も重視しているのは、営業や開発の担当者がお客様と直接交わす対人コミュニケーションです。広告は、まさにそうしたコミュニケーションを後押しするためのもの。ですから、広告展開前にはいつも社内に対して広告のねらいなどをアナウンスし、営業活動などに役立ててもらっています。今回は、『コミュニケーションで知をつなげてゆく。』というキャッチコピーを打ち出しましたが、『知をつなげる?』と思う方もいらしたはずです。単純でわかりやすいキャッチはあえて求めず、営業担当者がお客様に直接『こういうことなんです』と説明することで、親密なコミュニケーションにつながっていくことを期待しています」

 冒頭、広告制作を始めるにあたり、過去の事業内容やコミュニケーション活動を見直したとあったが、企画の大きなヒントとなったのが、1962~97年までの同社の広告展開作品をまとめた社内向け冊子。15年前に作成されたこの冊子の中に今後の課題と可能性を見出したという。

 「富士ゼロックスという会社が、革新的な商品を生み出してきたばかりでなく、複写機のレンタルサービスなど、従来はなかった新しい概念を次々と生み出し、提案してきた歴史に改めて刺激を受けました。と同時に、どんなに技術が進歩しても、人が介在し、お客様との関係を構築している点は、全く変わっていないのだと思いました。これまでと同じように、あるいはこれまで以上に、『革新』と『より良いコミュニケーション』を生み出すことが、全事業に共通する課題です。広告も、既存の表現を越えなければなりません。手前みそですが、過去の広告の多くが、今見ても色あせないコピーやビジュアルで企業理念をしっかり伝えています。当社の事業は、ソリューションやサービスといった視覚化しにくい分野がますます拡大しています。それをどうやってわかりやすくお伝えしていくか。どんな広告手法が効果的なのか。情報技術やメディア環境の変化に対応しながら、探り続けていきたいと思います」