世界一連覇を果たしたスーパーコンピュータ「京」 その技術と活用法を訴求

 2011年11月、世界のスーパーコンピュータの性能ランキング「トップ500」で、富士通と理化学研究所が共同開発した「京(けい)」が、前回の同年6月に引き続き連覇を果たした。富士通では、この発表をはさんで朝日新聞紙上に、3本の全面広告を出稿。世界一の技術とその応用の可能性がていねいに分かりやすく語られた。

語るべきことを新聞でしっかり伝えてから、スパコン世界一連覇に臨む

吉田大輔氏 吉田大輔氏

 6月に日本中を駆け巡った、日本製のスーパーコンピュータ「京」がスパコン性能世界一を獲得、というニュース。それは、震災後の日本人に希望を与える快挙だった。しかも、「2位じゃダメなんでしょうか」という、開発予算の事業仕分けのときに蓮舫議員が投げかけた質問が注目を集め、スパコンの重要性について国民的な議論も巻き起こっていた。

 「日本全体が元気を失っている時期に、純国産のスパコンが世界一という話題は、富士通にとってだけでなく、日本にとって明るいいい話題だと思いました。ただ、一般的にはスーパーコンピュータ自体の認知度は低い。ですから、広告展開にあたっては、とにかくシンプルに、日本の技術力の結集であるスーパーコンピュータ「京」が世界一を獲得した、ということを訴求ポイントにしました」と、富士通宣伝部の吉田大輔氏は、初めて世界一を奪取したときのことを振り返る。

 その後しばらくは、「スパコン世界一」を打ち出していたが、徐々にどのような分野で利活用されるのかを説明する内容にシフトしていき、10月にはその「スパコンの利活用分野」と「富士通のスパコン開発への取り組みの歴史」の2タイプのテレビCMをスタート。その頃になれば、コミュニケーション活動においても、当然、連覇のかかった11月のスパコン世界ランキングが視野に入ってくる。

 「11月のランキングでももちろん世界一獲得を視野に入れてはいましたが、取れるかどうかは当日まで分からない。ただ、いずれにしてもこのタイミングに合わせて、何かひとつプロモーションを打てないかと考えていた」(吉田氏)。そこへちょうど持ち込まれたのが、朝日新聞の広告特集を軸にしたシリーズ広告の提案だった。

 提案の中身は、11月のランキング発表に先立ち、WEBRONZAの一色清編集長(当時)を聞き手に、第1弾として富士通の開発責任者が「京」を生み出す技術と開発の意義について語る、第2弾として「京」の運用を担う理化学研究所が利活用の可能性について語る対談企画を紙上展開するというものだった。

 「富士通の持つスパコン技術や理化学研究所がそれをどんなふうに現代社会の課題解決に使おうとしているのか。それらを広く一般の方に、なるべく分かりやすい言葉で届けたいという思いは以前からありました。朝日新聞社からの提案はまさにそこを押さえたものだった。語るべきことを新聞でしっかりと語ってから11月の発表を迎えようと考えました」

2011年10月31日付 朝刊 富士通 2011年10月31日付 朝刊
2011年11月2日付 朝刊 富士通 2011年11月2日付 朝刊
2011年11月16日付 朝刊 富士通 2011年11月16日付 朝刊

連覇達成後も、タイミングをとらえて広告展開

 対談紙面の出稿は、10月31日と、11月2日。同じく2日には、世界一奪取から半年間で、目標だった1秒間に1京(10ペタ、1兆の1万倍)回という演算性能を達成したことを伝える記者会見を開催。これにたたみかけるように、7日には、「京」の技術を組み込んだ商用機「PRIME HPC FX10」の発売が報じられる。「京」が再びスパコン世界一に輝いたのはそれから1週間後の14日。その快挙が様々なメディアを通して伝えられるなか、16日付朝刊の全面広告には「世界一を、未来の力に」「世界NO.1 再び」の文字が躍った。

 「広告の出稿のタイミングと、富士通としてのメッセージ発信のタイミングを計り、相乗効果でより効果的に伝わることを意識しました。対談紙面についても、1本目よりも2本目の方が接触率、認知率ともに高くなっており、連載した効果が出ていると思います」と、吉田氏は情報に厚みをもたせた展開を振り返る。

 広告の内容についても、広告特集を柱とした狙いは的中したそうだ。

 「分かりやすかった、『京』のことがよく理解できた、という感想が多く聞かれたこと、これが今回の新聞広告の一番の成果だと思います。その一方で、『スパコンに富士通が関わっていることを初めて知った』という声が思ったよりも多かったことは、今後の課題と言えるでしょう。これまでも、いくつもの媒体を使ってある程度伝えてきているつもりでしたが、意外にまだ知られていない。今後は、今回のようなじっくり読んでもらえる新聞での展開も含め、広い層にしっかりと伝えていく手法を検討していきたいと思います」